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ヨン章 戦闘訓練

僕「本気でやらない奴は嫌いだ」

藪台「じゃあお前はどうなんだ?」

僕「本気でやってないね」

藪台「おいおい」

僕「だから自分が嫌いだ」

藪台「おいおい……」

——本気で逃げよう——

ヨン


◼︎ ◼︎


「じゃあ本当にいいんだな?」

 ナイフを構えて最終通告する。

 奴はこんな時でもいつも通りに気合を入れずに、いつも通りに殺意満々で答える。

「あぁ。構わないぜ」

 殺す気で来いと。そう言った。

 場所は先ほど降りた地下室とはまた別の地下室。幅五十メートル。奥行き百メートル。高さ二メートルほどの広大な空間だった。一体どこにこんなものを作る金があったのか。

 ここにあるのはただの虚無のみ。よってここには何もない。ここにいるのは僕らだけだった。

 空気は張り詰めて今にも張り裂けそうだった。静寂が耳に痛い。

 踏み込むタイミングが見えない。藪台の周りには空気が揺らぐほどの殺気。攻撃を仕掛けた瞬間にこちらの敗北は決定しているようなもの。こんな勝負最初から無駄なこと。

 勝敗は元から決まっている。ならば僕が評価されるのは何秒持ち堪えることができるか。その一点のみ。恐れることはない。これは訓練だ。奴は殺す気で来いと言ったけれど、そんなイメージは浮かばない。死ぬ気で行くしかない。

 大丈夫。殺意の塊とはいえ、流石にこの場面では殺しはしまい。

 そんなこと、わかっているのにもかかわらず、僕は未だ踏み込めなかった。その勇気がなかった。

 ならば、踏み込まなければいい。この地点に立ったまま、奴を殺すッ‼︎

 ナイフを握った右手とは逆の手で腰から黒い物体、グロック17と呼ばれるハンドガンを引き抜き即座に構える。装弾数は十七発。

 照準を合わせて即座に発射。反動で腕が痛い。気にせず次弾を撃ち込む。立て続けに三発。奴はその全てを難なく躱す。

 間髪を入れずにナイフを投擲。当たるわけもなく明後日の方向へ飛んでいく。

 気にしない。ナイフなどあるだけ無駄。接近戦で僕に勝ち目はない。

 即座にナイフへの未練を捨て腰へ手を伸ばす。そこへ藪台が躊躇せずに踏み込んで来た。死んだ。

 ——刹那、風を感じた。必殺の拳が僕の腹にめり込……まなかった。体が衝撃のみで後ろへ吹き飛ぶ。

 十メートル以上飛行してから後ろのコンクリへ叩きつけられる。

 痛いなんてもんじゃない。

 口の中に鉄の味が広がる。

 こんなの無理だ。畜生。

「でも……ここで挫けるわけには、いかないッ!」

 そう、これは訓練といえども実戦。ここで少しでも何かを得て、ナギ奪還の成功率を上げなければならない。

 右手を腰に伸ばし今度こそ引き抜く。今度はベレッタ92を引き出す。先ほどはオーストリア。お次はイタリア製と来た。実に国際色豊かで大いに結構。二丁の照準を合わせる。

「ほう? 二丁拳銃とはまた粋なことで、流石は主人公様だな。……まぁ。使えればだけどな」

「余計なこった。いいから来いよ」

 今にも腹の中のもの全てブチまけそうになるのを堪えて言う。壁に叩きつけられた時に骨でも折れたか、それとも内臓でも破けたか。とにかく気持ち悪い。気持ちワルい。キモチワルイ。

 現在装弾数二十八発。右に十五で左に十三。

 手当たり次第に引き金を引く。

 ——二十七

 奴はゆっくりとこちらに歩いてくるにも関わらず、一撃すらヒットしない。

 ——二十五

 照準を慎重に合わせながら、攻撃の手を全く緩めずにぶっ放す。

 ——二十三

 ゆらりゆらりとカゲロウのように躱しやがる。全く鬱陶しいことこのうえない。

 ——二十一

 ……否、照準など無意味。ならば気にせず予測不能に制御不能に発砲する。弾幕を張る。攻撃は最大の防御とは、誰の台詞だったか。

 ——十九

 更に連射する。最早腕は痺れて感覚などない。構うものが、ナギを助けるまでこの体を動かすのは所詮精神だ。肉体など知ったことか。そう思い更に連射の速度を上げる。

 ——十

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。ついに弾の一つが藪台の腕に当たり、

 ——九

 当然の如く銃弾の方が砕け散る。

 ——八

 そんなバカな。銃弾と拳をぶつけ合って拳が勝つとは何事か。

 ——七

 非、奴をまともな物理法則で考えることをなど無意味。

 ——六

 圧力など関係ない。材質など考慮しない。概念の違い。物体としての格の違い。

 ——五

 もう弾も殆どない。腕の感覚などとうになく、足は根が生えたように突っ立ったままだ。

 ——四

 奴の姿が消える。消えたのではなく、単に加速しただけなのだと気付いた時には

 ——三

 目の前に奴の姿ががせまっ

 ——二

 て

 ——一

 き……


 ——零

 僕は弾を全て撃ち尽くして二丁の先端から硝煙があがる。藪台の赤く燃える双眸が死ねと告げており……僕の意識はそこで途絶えた。


◾︎ ◾︎


 呆然と、当然のように僕はそこに佇んでいた。

 そことは何処なのか。名付けるなら〝虚無(ヴォイド)〟だろうか。どこにもない場所。だけれどもどこにでもある場所。誰にでもある場所。

「ここは〝心〟さ」

 何者かの声がする。誰だろう。ひどく懐かしいような。それでいて最近聞いたばかりのような。

「おやおや、また忘れちゃったのかな?」

 忘れた? 僕はこいつにあったことがあるのか?

 そう否定するのに、どこかでは聞き覚えがあるな。と思っていた。

「まぁ、忘れるように仕向けてあるんだけどね。だってここは『きみ』が来るにはまだ早いんだから。まだここは到達点ではないよ」

「どういうことだい? ここはどこなのさ?」

「さっきも言っただろう? ここは〝心〟さ。正確には『きみ』の〝心〟。ここは『きみ』の心象風景を具現化したセカイ。勿論『きみ』意外の誰でも持ってるし、誰も持ってはいない。蜃気楼とでも考えたらどうだい?」

 これが『ぼく』の〝心〟……?

 そう思い辺りを見回す。それは何やら心と言うにはあまりにもな風景だった。

 果てが見えない鏡のような地面に『ぼく』は立っているし、辺りにあるものと言ったら磨き上げられた人工物のような結晶のみ。結晶の表面は地面と同じく鏡のようなものが多いが、ごく稀に何本にも分岐する線が入っているものもあった。背丈は小さいものでもゆうに『ぼく』の倍はあるだろうか。

 空は曇天。加えて生物は会話をしている二人以外は猫の子一匹見当たらない。

 これはやはり〝心〟というにはあまりにも

「殺風景。だろ? だって『きみ』の心はこうなんだから。仕方がないよ」

 それはどういうことなのか。

「『きみ』は神代汀を〝守る〟ことに重きを置いているからね、それ以外のことはてんでダメなのさ」

 なるほど、それはなかなか説得力があるな。

 それなら、両親の仇と一緒にヘラヘラ出来るのも納得かもしれない。

 なによりナギが大事だから、両親は二の次だと、そういう〝心〟をしているということか。

「さぁね? そうなんじゃない? さぁて、僕は『きみ』だけど『きみ』は僕じゃあないんだから、『きみ』が知らないことを教えてあげよう。何か知りたいことはあるかな?」

 知りたいというなら、この状況が不可解だけれども、まずはあの銃弾を破壊する野郎のことでも聞いてみようか。

「あぁ、『藪台尋』ね。彼は簡単さ、アレは物を〝破〟壊するすることにおいてのみ特化した人間狂気なんだから。ことさらに人を破壊することにおいてはスペシャリストだね。コンクリや銃弾を砕くのは単純に物体としての格の差ってとこかな、人間程度しかない肉体強度を殺意で増している。藪台の身体は銃弾やコンクリよりも頑丈だと、セカイに認識されている。そう考えてもらって構わないよ。言っておくがマネをしよう。だなんて思うなよ。名前は物を縛るんだ。『きみ』と『藪台尋』は原点は同じでも結果と終着点は全く別なんだぜ。TRUEENDとBADENDってとこかな」

 どちらがどっちとは言わないけどね。と彼女(・・)はそう微笑みながら言った。

 さてと、どうしたものか。教えてはくれたものの疑問は深まるばかりで、解決にはならなかった。

「ふむ。残念ながらこれ以上はベラベラ喋らない方がいいみたいだ。ネタバレは程々しないとね。これは忠告だけれど、あんまり僕に頼ろうだなんて思うなよ。繰り返しだけれど、『きみ』は本来ここに到達するにはまだ早いんだから。僕が改変した以上、ちょっと情けをかけてあげようっていう気まぐれでここにいるだけなのさ」

 なるほど、全くわからないが、不思議と説得力だけはある言葉だった。

 さて。と彼女は言った。

「時間もあるし戦闘訓練でもしようか。ここは夢みたいなものだから現実の時間よりも流れは早いんだから、肉体が目を覚ますまでの間に少しくらい経験値を積んでおいてもいいだろう」

 現実の時間よりも流れが速いか……某格闘漫画の精神と時の部屋みたいだな。

 しかし、訓練と言ったってどうやってしろと言うのだろう。ここには武器になりそうなものは何もないし、『ぼく』は体術は点でダメだ。

 そう思っていると、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべると、次の瞬間には手に銃を握っていた。それは先ほど『ぼく』が持っていた銃となに一つ変わらないものだった。

 今のはどうやったんだろう。どこからか取り出したという風ではなく、明らかに一瞬にして創り出したとでも言うべきものだった。

「だからいっただろう?ここは夢なのさ。やりたいことはなんでも出来るのさ。まぁ僕は夢じゃなくてもやりたい放題やらせてもらってるけどね」

 そう言いながら彼女は銃を僕に差し出してきた。

 その銃を受け取り弾数を確認しようとすると、

「必要ないよ。弾は無限さ。そう言う設定だからね。こういうのは習うより慣れろなのさ、さっきはあぁ言ったけど言うほど時間があるわけじゃあないしね。ちんたら習うより実践こなした方がはるかに有意義さ」

 じゃあ始めようか。そう彼女は妖艶に微笑んだ。そういえばこの人は笑ってばかりだな。

 そんな余計なことを考えた瞬間。彼女は『ぼく』の間合いに入って来て、そのまま『ぼく』の心臓を貫いた。



 荒い呼吸をする。口から血を吐く。今何をしていた。何が起こっていた。考えると頭痛がする。

「おや、お目覚めかい? いやいや、もう少し根気を見せてくれよ。いきなり心臓一突きはないだろう? まさかこっちが攻めないとでも思ったかい? 訓練とは言ったけれどもね、手を抜いてやる訓練なんて微塵も意味はないんだよ。ましてやここでは死なないんだよ? これを利用しない手はないだろう?」

 侮っていた。気を抜いていた。引き金を引く間もなく殺られた。こんなの勝てるわけがない。

「そりゃあ勝てないさ。僕の全力だもの。百億分の一の全力さ。じゃあ次は一兆分の一の全力でやってあげるよ。そうすれば、まぁ一撃くらいは躱せるんじゃないかな?」

 そう言ってまた笑った。

 彼女の発言を無視して引き金を引く。そりゃあそうだ。まともに聞いていたら心が折れてやってられない。さっきので手加減していたって? ふざけるな。そんなのはもはや生物ですらない。物体ですらない。生きとし生けるもの、森羅万象全て集めても彼女の足元にも及びはしないのではないか。そんなものと戦えというのか。

 ダメだ。雑念を捨てる。取り敢えず勝つことは放棄。いや、戦うことも放棄。逃げること。避けることのみに意識を向ける。

 気付いた時にはすぐそばに彼女は来ていて、上体を捻りつつ顔に向かって拳を放つ。即座に反応してしゃがんだところに膝蹴りが飛んで来た。



 また死んだ。頭をサッカーボールのように吹き飛ばされて死んだ。

 彼女の方をみると余所見をしつつ鼻歌を歌っていた。物音をさせず引き金を左右同時に立て続けに引く。

 刹那『ぼく』の体は真ん中にどでかい風穴を開けて宙を舞っていた。

 どう殺されたのかすらわからなかった。



 また死んだ。その後も死んで死んで死んで死んで死んでしんでシんで死んで氏んで死んでシンデ死んで氏んでシんでしんでシンデシンデシンデシンデシンデシンデ死んでシンデシンデシンデ死んだ。

 ありとあらゆる急所を破壊され、ありとあらゆる殺し方で殺された。地獄なんてものじゃなかった。それはもう殺されるために何度も生き返るようなものだった。いや、夢だから実際はしんでないのだけれども。

 そしてまた目が覚める。ゆっくりと起き上がる。

次こそは絶対に倒れないように両足で踏ん張る。

 右手に握ったベレッタ92を彼女に投げつける。

 それを攻撃とみなしたのかどうかは知らないが、その銃身が地に落ちる前に彼女は僕の前に立っていて、拳を僕の腹に突き刺した。

 耐える。耐える。歯を食いしばって耐える耐える耐えるタエルたえる耐えるッ! 口から鮮血が飛び散るが左腕をあげ引き金を引く。

 いくら強かろうと、一兆分の一の全力であればこの至近距離で『僕』という肉塊(おもり)に腕を突き刺したまま避けることは出来まい。

 彼女は驚いた顔をして——影も形もなくなっていた。

 見えなくなるほどのスピードで離脱でもしたのだろう。読みが甘かったか。また死ぬのか。残念。

「いやぁ、今のはやばかった。これに免じて君の勝ちにしてあげよう。これで999対1だね。そろそろ時間だろうし、これにて僕からの強化トレーニングは終わりにしよう。最後にまとめだ。『きみ』が今回の件で学ぶべきことは〝上には上がいる〟さ。それだけわかればもう十分。『きみ』は相手の実力をしっかり測ることができるんだ。さっきのは僕相手だったから仕方が無いとして、相手を観察する能力に『きみ』はことさらに恵まれている。実力がわかればそこからどう行動すべきか見えてくるだろう? それでこそ『城森真琴』さ。力がわからなきゃ守れるものも守れないだろう? この状況で言うのはおかしいかもしれないけれど、これからは頑張って神代汀を守ってやるんだよ? それじゃあね。引き続きあの野郎との戦闘訓練を頑張ってくれたまえ。それと、今回の記憶は残しておいてあげるよ。ではまた。どこかの境界(はざま)で」

 言いたいことを散々に言ってから彼女は何処かへと行ってしまった。

 そうして僕の意識も薄れていった。



◼︎ ◼︎


 目を開けるとそこはまだ、先ほどの地下室だった。

「……知らない天井だ。ってふざけてる場合じゃない」

 エヴァかよ。と、一人でツッコミつつ上半身だけ起こす。

「やっと起きたのかよ。さぁ、とっとと訓練再開するぞ。時間だって無尽蔵ってわけじゃないんだ。夜になったら出発する」

 そう横から声がした。みれば、僕が気絶している間にでも着替えたのだろうか、戦闘服のようなものに藪台は着替えていた。

 そしてもう一人、彼の横に考え事をしているのか、顔を伏せて人が立っていることに気が付く。確かあの子の名前は……澪ちゃんか。

 見れば先ほど学校から帰ったばかりなのか、まだ制服に身を包んでいる。彼女の高校はセーラー服のようだった。ちなみにうちは男子は学ラン、女子はブレザーといった、一風変わった制服だった。それにしても彼女はセーラー服が似合っていた、長い髪もしっかり手入れされているのか見たところサラサラで……ってそんなことはどうでもいい。

 硬い地面に寝かされていたせいか、強張った身体を無理やり動かして立ち上がりながら藪台に尋ねる。

「おい、藪台。その子も一緒に来るのか? それはいくらなんでも……」

 危ないんじゃないのか? そう言いかけた僕を奴は遮って言った。

「わぁってるよ。こいつはお前の訓練に付き合ってもらうだけ。俺じゃあ強過ぎるからな」

 え? この子も戦えるのか? こんな華奢な身体をした女子高生がか。そう思っていると藪台はこちらの思考を読んだかのようにニヤリと笑いこう言った。

「ほら、朝話したろ? 俺が勝手に日本刀使ってどつき回された話。あれこいつのなんだ。俺みたいに無茶苦茶はしねぇからまぁ勝負にはなるだろうよ」

 マジかよ。僕はてっきり筋骨隆々のむさっ苦しい人を想像していたのだが、その予想は的外れどころか正反対だったということか。

 いや、人はみかけによらないもんだね。

 まぁ、文句を言っても始まらない。彼女が強いと言うなら遠慮なく稽古をつけてもらおうではないか。

「成程ね。女は怖いって言うもんね。じゃあ澪ちゃん。よろしくお願いします」

 そう僕が言うと彼女も顔を上げて、よろしくお願いしますと返してくる。さて——訓練再開だ。



「行きます!」

 彼女はそう律儀に宣言してこちらに疾走してくる。その速度は藪台に迫るものがあった。

 その速度を維持したまま、斜めに下げて構えていた刀を上段に構え直し袈裟懸け切りを繰り出してくる。

 それは力の流れを最大限に上手く活用して最速で繰り出された。

 でも——

「当たらないっ!」

 右手に持ったベレッタ92でその太刀筋を遮る。金属音がし、火花が飛び散る。——肉体的に強化されているわけではないので、刀を受けた瞬間に腕が痺れ、思わず銃を落としそうになるがなんとか堪える。

 藪台に迫るものがあってもそれより早いわけではない。それに……

 夢で見た、体験した出来事を思い出す。彼女が繰り出す技のスピードに比べれば、この程度の最速は止まっているのと同じに見えた。

 ——でもただそれは見えるだけ、そう見えただけでは意味がない。どうすれば一番死なずに済むかを一瞬で議論し吟味するそれが僕が得た攻略法(ちから)だった。

 もう片方の手に持ったグロック17の引き金を引く。一発。この至近距離であればそれで十分。

 弾は補充してあったが無駄打ちは避ける。

「——っ!」

 彼女はすんでのところで身をよじり回避。後方へ大きく飛んで僕から距離を取る。

 しかしそれは間違いだ。藪台のように弾丸を躱せるならばともかく、それができないであろう彼女にとっては自分の首を絞めただけであった。

 自分の失態に気が付いたのか、彼女は急いで自分の間合いを作ろうとする。

 その瞬間を狙い撃つ。立て続けに五発の弾丸を叩き込む。剣道においては動き始めと動き終わりが最も隙が大きい。と何かに書いてあったのを思い出したからだ。

 しかしあろうことかそのいずれも彼女に当たりはしなかった。五発連続での射出は幻想イメージの上では可能だったものの、現実には僕の肉体では耐え切れずに、三発は擦りもせずに何処かへ行き、当たるかに思われた二発は刀によって弾き落とされた。

「そんなのありかよ……」

 思わず呟く。だがここまで、ここまでは概ね予想通り。だってそうだろう。躱してくれなくては僕が人殺しになってしまう。まぁ、刀で弾かれるとは思ってなかったけれども。

 隙をわざと見せる。彼女は面白いように引っかかりこちらへと飛び込んでくる。

 同時に僕も相手に向かって走る。

 まさか遠距離武器を使っているのに突っ込んでくるとは予想出来なかったみたいで、彼女に一瞬の迷いが生じた。

 それが決め手となった。僕は一気に距離を詰め、彼女の喉元に銃を突き付ける。

「チェックメイトだ」

 無論引き金は引かない。呆気にとられている藪台の前に歩いて行き、銃を返却すると、彼は怒ったように、

「お前、なんでそんなに動きが良くなってんだよ。肉体能力に変化はない。意識の面にも変化はないみたいだし、さっき俺とやりあったときだって実力を隠していた風には見えなかった。それに今のお前には何より迷いが無かった。あんなの一朝一夕で出来るようになるものじゃない」

 そう言うのだった。更にこう続ける。

「強くなったんじゃない。何か別のものに変化した、としか言いようがない。お前のそれは勝つための戦い方じゃない。死にたくないから、そのために、仕方なく勝つ戦い方だ。そんなもの、まともな奴のやることとは思えないぜ? 一体何があった?」

「さぁね? ただ殺され続けた。それだけさ。死ぬのは怖い。だから殺られる前に殺る。経験値って奴を、夢の中で稼いできた」

 そうとしか言いようがない。所詮僕に出来ることなんて限られているのだ。僕は彼らみたいに並外れた戦闘能力は持っていない。だから経験することでよってのみ勝率をあげることができる。僕が唯一こいつに勝っているのは観察するという一点においてのみ。

 自分の弱さを理解しているから、相手の実力を測って、少しでも、生き延びる確率が高い戦闘方法を考える。その一点においてのみ、僕は秀でている。と彼女には言われた。

 そう言うと、彼は何やら心当たりがあるような顔をした。そうして、何か言いかけた時に、それを遮るようにして昨日もらった方の携帯が着信を告げた。

「悪い。ちょっと待ってれ」

 そう言って電話に出る。

〈もしもし、ボクだよ。今どこにいるんだい?〉

「僕ですか? いまはちょっと友達んちにお邪魔させてもらってます」

 流石に両親を殺した殺人犯と一緒に居ますとは……言えないよなぁ。

〈そうかい。実は明日の夜に、町外れの港で、誘拐犯と取り引きすることになってね。取り敢えず、うちに来てくれないかな?〉

「別に構いませんが……お金用意できたんですか?」

〈それに関しては問題ない。ボクを誰だと思っているんだい?〉

 すげぇ。百万ドル集めたのか。実は神代家は僕が思っていた以上に相当な金持ちらしい。

〈この額、確かに痛い出費だけどね。娘の命に比べれば、安いものさ〉

 さて、となると僕らが考えていた計画は無駄になってしまう。

 しかし、でもまぁそれでも。百万の損失はかなり大きいだろうし。それに、ナギを拐った奴の顔面を一発——じゃあ足りないな、とにかく殴ってやらないと気が済まない。だから……

「わかりました。それでは、明日の昼頃にそちらに行きます」

〈あぁ、頼むよ。それとマコト君?〉

「はい? なんですか?」

〈危ないことをしないでおくれよ?〉

「……わかってますよ」

 そう答えて僕は電話を切った。そうすると、藪台はこちらにどうすんだ? と目で問いかけて来た。

 僕は答える。

「作戦決行だ」

お久しぶりです!

どうも和良ヤマトです‼︎

いやぁ、忙しかったんですよ?

あ、言い訳です。スンマセン。

休み休み書いたので出来はあまり良くないかもしれません。

そういうところはガンガン指摘していただけるとありがたいです!

この章は起承転結の章くらいにあたるかと!

いや、そもそも起承転結できるのか?

…………乞うご期待‼︎‼︎

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