ゼロ章 心象セカイ & イチ章 決戦
僕「すべての始まりはここから」
僕「終わりへの始まりはここから」
僕「これは僕らの物語」
僕「ファーストシーズン――開幕」
君に捧ぐセカイ
ゼロ
■ ■
————真っ暗な場所。何もない場所————
「ここは誰? 君はどこ?」
『ぼく』にはなにもわからない。
「ここは『きみ』。僕はここさ」
どこ? なにも見えないよ。
「そりゃあそうさ。『きみ』はまだここにきちゃあ行けない」
なんでさ。『ぼく』は誰? 君は誰?
「僕は『きみ』。でも『きみ』は僕じゃあないんだ」
「わけがわからないよ」
「そうだね。だから『きみ』が誰かは『きみ』自身がこれから見つけていくべきなんだ」
できるかなぁ……。
「出来るさ。さぁもうおいき。世界が君を待っている。ナギが君をまっている」
ナギ……神代汀。『ぼく』……いや僕の最愛の人。命を賭してでも守りたい人。
そう考えたところで僕の意識は水の泡が水面へ浮かぶようにゆっくりと浮上して行った。
■ ■
「……ト…コ……コト! マコト!」
誰かが僕の頬を叩いている。
「痛いよ、ナギ」
そこ痛みにより、僕こと城森真琴の意識は覚醒した。ペチペチという随分間の抜けた音とともに。
「あ。マコト起きたんだ! さっきから叩き続けてたのに全然起きないんだもん。心配したよ」
「うん。ごめん。少し疲れてたみたいだ」
叩き続けていた、と言うのは誇張表現でもなんでもなく、そのままもろ事実のようで、頬が痛い。それに加えて変な体勢で寝てしまっていたのか、体の節々まで強張っている。寝ていたのに全然疲労回復できていないな。
ポケットからスマートフォンを取り出しカメラを起動する。
「そりゃそうだよ! さっきはお父さんと殺気に満ちた話し合いだったもん」
「それさっきと殺気かけてるの? 全然面白くないよ?」
僕がそう言うとナギはむぐぐぐぐと唸り出した。起動したカメラで頬を確認する。
真っ赤だった。
「ナギ……どんだけ僕の頬叩いてたんだよ」
「んー? 十分くらい?」
叩きすぎだろ。加減を知った方がいいんじゃないだろうか。いやそれだけ叩かれて起きない僕にも非はあるけど。
でもまぁ、それくらい疲れていたということだろう。精神的にも肉体的にも。
「それにしても、さっきは嬉かったよ! マコトがあそこまで私のこと想ってくれてたなんてね」
頬を若干赤く染めナギは言う。
「当たり前だよ。あれくらい。僕だってずっと前から決めてたんだからさ。覚悟も決まってるさ」
まぁ、流石にさっきのは疲れた。本当に疲労した。しかし、それはそうだろう。双方ともナギ——神代汀に本当に幸せになって欲しいのだろうから。
「でも、いいの? ナギ」
彼女は本当に。心の底から不思議そうに。なにが? と言う目でこちらを見てきた。その目だけで僕にはわかった。彼女は僕でいいのだと。本当に僕のことをすいてくれているのだと。それが本当に嬉しかったから、僕は後に続ける予定だった「僕は一般人だ。ナギと僕じゃ釣り合わないんじゃないか」という、さっきは自ら「そんなもの関係ない」と否定した言葉を引っ込めた。
「いいや。なんでもない」
「ふーん。変なの」
変でもいい。君といられるなら。
イチ
◼︎ ◼︎
少し前の時間の話をしよう。
それはあつい夏の日。夏休みも目前に迫ったある日の休日。茹だるような暑さの中、陽炎が揺らめく炎天下の道を、僕らはとぼとぼと歩いていた。
最寄り駅についたのが三十分前。そこから歩きどおしだった。
住宅街のなか不思議と蝉の声は鳴り止まない。鳴り止まないといっても、ずっと同じように鳴いているわけではなく、一定のリズムをもってそれぞれの生を精一杯主張していた。
閑静な住宅街のようで、さっきから車通りはほとんどない。おかげで、この世界に僕ととなりの少女だけしかいないように感じる。その繋がりさえも握った手でしかつながっていないような、世界との繋がりがごく薄いような。そんな錯覚に囚われた。
蝉の声が遠くなる。
となりの少女。ナギ。神代汀。とある企業のお嬢様。僕の最愛の人。高校三年生。帰宅部部長。いろいろな言い方はできるものの、僕とは色々釣り合いの取れない人だと思う。
僕。マコト。城森真琴。サラリーマンの息子。ナギの彼氏。高校三年生。進学予定なし。帰宅部たった一人の部員。
そういえばうちの学校は部活動を推奨しているので帰宅部は僕らだけなんだっけ。どうして、ナギはともかく僕まで特別扱いで、入部を強制されていないのかは謎だった。
そういう、たわいもないことを考えていると沈黙に耐えきれなくなったのか、ナギが話しかけてきた。
「……マコト」
「なに? ナギ」
「暑いよ! さっきからどうなってんの! 木陰選んで歩いてんのに全然涼しくないよ! どうして!」
無茶苦茶だった……。いやそんなこと僕にいわれても。
「とりあえず可及的速やかな手として繋いだ手を放すというのはどうでしょうか?」
「いやだよ! そんなん意味ないよ!」
意地悪。などと眼で訴えかけてくるお嬢様。どうしたものだろうか。
「じゃあ……アイスを食べるというのは……」
途端、彼女は目をキラキラ輝かせだした。今月はそれなりに遊んだから財布が痛いのだが……。
「アイス! 食べる!」
仕方ないよな。そんな顔されちゃあ仕方ない。城森真琴は彼女に甘い。
とりあえず次にコンビニがあったら入ることを約束し歩き続ける。
そもそも何故僕らがこの暑さの——いや、熱さの中、わざわざ歩いているのかと言うと、僕はナギのお父さん。つまり、某大企業の代表取締役、ありていにいえば社長さんに挨拶に行くためだった。
挨拶、と言っても普通の挨拶じゃない。僕が考えうる限り最高の難易度を誇る挨拶だった。つまりは、「汀さんとお付き合いしている、城森真琴です。どうぞよろしくお願いします」的なあれや、「お義父さん汀さんを僕に下さい」みたいなアレだ。
もうすでにお互い十八歳にはなっているので、法律的には結婚に関しては支障がないが、些かまだ早過ぎるであろうことはわかってはいる。しかし、「もうお互いのことは充分にわかったでしょ? そろそろ一緒に暮らそうよ」という、ナギの一言によってうだうだと悩んでいた僕の意思も固まったのだった。別に同棲でもいいじゃないかと言う疑問は一先ず置いておこう。
もちろん実際に籍を入れるのは高校を卒業してからだけれど……。
「あ、マコト! コンビニあったよ」
ナギがそう声をかけて来たので思考を中止する。
「あ、本当だ。さぁ無視して先を急ごうか」
少し悪戯がしたくなったので、とりあえずそういって約束を忘れたふりをしてみると、彼女は頬をプクーっと膨らませ始めた。なんだこれ面白いぞ。
「ん? どうしたの? 早くいこうよ」
「嘘つき……」
機嫌が悪くなりそうだし、あまりからかうのも良くないので、意地悪はやめることにした。
「あぁ、アイスねアイス。わかったよ。早く行こう」
僕らがコンビニに入ろうと自動ドアの前に立った時、丁度中からでてこようとした人とすれちがった。
深い紅に染められた髪をした、なんだか怖い感じの人で、すれ違いざまにピリピリするものを感じた。目が合うと彼はニヤリとこちらに笑いかけてきた。
——寒気が走る。
——ナンナンダコイツハ。
視線を切れない。切れば何かが起こる。そんな気がして、しばらく彼のことを目で追ってしまっていた。
どれくらいそうしていたのだろう。気がつくとナギが不思議そうな顔でこちらを見ていた。首を横に振って曖昧に誤魔化した。なんだったんだろう今のは。
気にはなったが、気にしていたところで仕方が無いので、そのまま店の中に入ることにした。イラッシャァセーと店員が声をあげる。
「さぁお嬢様、お好きな物をお選び下さい」
僕はアイスコーナーの前に立つと戯けた調子でそう言った。ナギはふむ。よろしい。などと言ったあとでアイスを物色し始めた。
散々迷った挙句彼女が選んだのはかなり安価なやつだった。中がかき氷風になってるやつのソーダ味である。僕は少し意外に思った。
「ねぇナギ。そんな安いやつでいいの?僕はてっきりあっちの高いやつにするかと思ってたんだけど…」
「あぁ、いいんだよ。あっちのは家にいっぱいあるからさ。食べ飽きちゃった」
トンデモ発言。庶民の僕からすれば信じられない話だった。まぁ僕ごときとは金銭感覚が違うからそんなこともあるのかもしれない。
なんなとなく納得しながら会計をすますと外にでた。途端粘りつくような暑さ。中に戻りたい気持ちにかられるが、我慢する。そこで一つ疑問に思った。
「ねぇナギ。君ここ通学路だろ?コンビニの場所とか知らなかったの?」
「うん。いつもは駅からバスに乗ってかえるからね」
「バスあるのかよ!」
ここに来て衝撃の事実発覚だった。あるなら最初から使おうよ……。なんでわざわざこの炎天下の中歩かないといけないんだよ。
「いやでも田舎だからバスはなかなか来ないんだよ。だから歩いた方が早いかなって思って」
なるほどね。確かにそれもあるな。じゃあ、まぁいいか。そう思った矢先だった。僕らの前をバスが通り過ぎたのは。
気不味い空気が漂う。沈黙。それを先に破ったのはナギだった。
「さ、さぁ!元気を出してレッツラゴー‼」
「仕方ないなぁ、もう」
全くやれやれだ。まぁでもナギと一緒にそれだけ長く過ごせるんだからよしとしようか。
結局、僕らがナギの家に辿り着いたのは二十分後だった。
■ ■
ナギの家に着くと、まず最初に目につくのが広い庭だ。敷地面積が具体的にどれくらいかは聞いたことがないのでわからないが、とにかく無駄に広い。
彼女曰く無駄ではないらしいのだが、僕にはなにに使うのか検討もつかなかったけれど、綺麗ではあるので僕はこの景色を結構気に入っていた。
「そういえば昔よくここで遊んだねぇ」
ナギが感慨深げに言う。僕らは小学校時代から仲は良かったので、ここにきたのは初めてではなかった。中学に入るまでは友達とみんなで、ナギの送迎用のリムジン車に乗せてもらってよくきたっけ。中学に上がってからは僕とナギ、二人だけで遊ぶことが多くなったのでここでは遊ばなくなったけれど、家にはよくお邪魔させてもらっていた。高校に上がってからは……そういやまだ一回も来てないな。なぜだろう。やっぱ付き合い出したからかな。そういえば高校からナギは他の人と同じように電車で通学するようになった。まぁ、足が遠退いたのはそのせいもあるんだろう。そうやって思い出に浸りながら玄関までたどり着くとナギのお母さんが出迎えてくれていた。
「あらあらマコトくん。すっかり大きくなってぇ。久しぶりね。元気だった?」
相変わらず、とても美人で上品なお母さんだった。
「お久しぶりです。おかげさまで僕は元気ですよ」
「暑かったでしょう? さぁさ入って」
そう言って、中へ招き入れてくれる。
「ではおじゃまします」
言われたとおり屋敷内に入ると、冷気が身体を冷ましてくれた。どうやら屋敷全体にクーラーがついているみたいだ。
「さぁ。こっちよ」
ナギのお母さんについて行く。案内されるがままに廊下を歩いていくと、応接室と書かれたプレートがある部屋の前に来てしまった。そこでナギが頑張って、という仕草をしてみせた。
うん? 結婚の挨拶というのはご両親と本人が揃ってするものではないのだろうか?
「じゃあマコトくん。頑張ってね。本当は私たちも同席したいのだけれど、お父さんがどうしても一対一で話し合いたいって、いうものだから……。ごめんなさいね。でもあなたならきっと大丈夫よ。私はあなたたちのこと応援してるから。いつも汀と一緒に居てくれたわよね。あなたなら私は大賛成よ。」
そういうことらしかった。
いやはや、この現状をどう言ったらいいだろうか。レベル1にして魔王の城攻略とか、竹槍ひとつで戦車と戦うとか、素手でライオンと格闘と言うか、とにかくそんな感覚だった。
それにしても、確かにそう言う挨拶ではあるのだが、そう面と向かって言われるとやはり恥ずかしいものはあるわけで……。
「ははははは。ありがとうございます。じゃあまたね。ナギ」
「うん。終わったら私の部屋にきてね」
「じゃあ私たちはここで」
ナギとお母さんはそのまま何処かへ行ってしまった。
ぶっちゃけ覚悟はしてきたものの、おばさんからの援護射撃に、期待していなかったといえば嘘になる。状況はかなり厳しいと言わざるを得ない。
だが、頭を振ってそんな考えを追い払う。
——さて。ここからが本番だ。僕の人生の分かれ道だ。ナギのお父さんとの闘いだ。男同士の戦いだ。譲れないものがある。守りたいものがある。よし——
「いくぞ」
なんて、大袈裟かもしれないけれど、気合を入れて僕は中に入った。
◼︎ ◼︎
中には紅茶を淹れてくれているメイドさんとナギのお父さんがいた。
「お久しぶりです。おじさん」
「あぁ、久しぶりマコトくん」
ナギのお父さんは柔和な顔つきで、いつも僕らに優しくしてくれた。さて、切り出すぞ。僕は失礼の無いよう、姿勢を正してから、深呼吸をして言った。
「今日は大事な話があって来ました」
「うん。聞いてるよ。ナギとお付き合いしてるんだってね。小さい頃から仲良くしてくれていたもんな。ボクもお付き合いの相手としてなら君は、良い相手だと思うよ」
おや? おかしいぞ。僕はもっと殺伐とした展開を覚悟してきたのだけれど。このままだと意外とすんなりいくんじゃないか?
しかし、ことはそう簡単にいくはずもなく、僕の淡い希望は次の言葉で打ち砕かれることになった。
「付き合う相手としてならね」
「……それはどういう」
「付き合う相手としては君は良い相手だ。それはボクも認めよう。でもね、結婚相手としては別だ」
「———ッ!」
彼の目に鋭い光が灯る。それは間違いなく強者の目。社会的な格の差。人の上に立つ者の目だった。そのまま彼は続ける。
「おおかた今日はそんな用件で来てくれたんだろう? 残念だったね。ボクからの回答はこうだ。“交際は認める。ただし結婚はさせない。交際も汀の結婚相手が見つかるまでだ”とまぁこんな感じだよ」
「……」
「ごめんな。マコトくん。こればっかりは譲らない。娘の幸せの為なんだ。話は終わりだ。あの子と遊んできなよ」
そんなわけにはいかない。ここで終わらせるわけにはいかない。そんなのは僕が許さない。
「……って…ださいよ」
「ん?なにかな?」
「……待ってくださいよ」
だって、僕は全然、全く、まだ、何も、納得なんてしていない!
例えおじさんの言うことが正しかったとしても、素晴らしかったとしても。ナギを真に想うこの気持ちは、間違いなんかじゃないのだから——っ!
僕はまだ何も反論してない。言いたいことを言えていない。ここで終わらせられるのは不条理で理不尽だ。だから僕は反論する。反論して、論破じゃなくても撃破する。認めてもらう。僕だってこれは譲らない。譲れない。僕自身の為に。なによりナギの為にも。自分が一番幸せに出来るという自負はないけれど、自分が一番幸せにしてやる努力はできる。誰よりも好きだから。愛しているから。だからここからは、
「……僕のターンです」
そうだ、僕は諦めない。諦めるわけにはいかない。伝えろ、伝えるんだ。僕の想いを、意思を、そして……覚悟を!
「君のターンとは言ってもね……これはやっぱ譲れないよ。諦めてもらえないかなぁ」
口調は優しいけれども、これはほぼ強制だった。それだけの威圧があった。でも……
「嫌です。僕もこれは譲りません。確かに僕では力量不足かもしれません。でも誰よりもナギのことを愛していることは確かです」
「ボクよりもかい?」
そうして、宣戦布告をする。
「あなたよりもだ」
目に見えて彼の顔つきが変わったが、ここで屈する訳にはいかない。
とはいえ、そう簡単に譲ってはくれないのも事実。考え方は違えど、彼も本気でナギを幸せにしてやりたいと思っているから。
「面白いじゃないか。ならばどうやって証明してくれるのかな」
「証明なんて今は無理ですよ」
そりゃあそうだ。無茶な話だ。
「なら話にならないよ。それに愛だけじゃ物事は解決しないだろ?」
それはわかってる。僕だって愛情パワーとか抜けたことを抜かす気はない。
「ならおじさんはどんな相手と汀さんを結婚させたいんですか?」
問う。僕に足りないものは何かと。
「そうだね。君の前でこう言うことを言うのは失礼だろうけど、ボクたちみたいな。上流階級の人だね。今時身分だ、なんて古臭いかもしれないけど、大事な事だよ」
「政略結婚ってやつですか?」
「それは違う。そんなものに頼らなければならないほどボクの会社は落ちぶれてないし、そこまでして発展もしたくない」
「じゃあなんでッ!」
「お金……いや。財産かな。汀を守る為の財産。それがあるだろう。」
それなら、僕には違うものがある。命はお金で買えるけど、それならその財くらいにはなるはずだ。
「だったら僕は命を賭します。それらの財産に匹敵ように全力で命を賭ける。ありとあらゆるコネもつかって彼女を守る」
「そんなコネがあるのかい?」
「それはこれから作ります」
ないなら作るしかないだろう。それくらいの努力は彼女のためなら、なんの苦にもならない。
「無茶苦茶だね」
そんなこと僕でもわかってる。けれども無茶でも苦茶でもやってできなくはない。
「じゃあ、おじさんは好きでもないけど、ただお金を持っている相手と結婚するのが、汀さんの幸せだと考えるんですか?」
「長く付き合っていれば、好きになるかもしれないだろう。相手が汀のことを好いていてくれるなら、汀も相手を好きになるんじゃないのかな? それに、意地悪なことを言うようだけれど、もし仮に汀が君を好きじゃなかったとしたら? あの子が本当に君のことを好きだと証明出来るのかい? もしかしたら君のただの独りよがりかも知れないよ?」
「それは……」
それは反論出来ない。そんなことはないとは思うし、想像したくないことだけれど、人の気持ちは僕にはわからない。でも想像はできる。それが100%あってるだなんて保証はできないけれど……。
「それは違うよ!」
声が聞こえた。ここにはいないはずの人物。この話の中心人物。
「汀! どうしてここに」
「どうしてって。好きな人が困ってたら助けたくなっちゃうでしょ! 私はマコトのことが本当に心の底から好きだよ。それは保証するし、マコト以外を好きになるなんてあり得ないよ」
恥ずかしいことズバズバ言うな。ナギは。やっぱ……敵わないなぁ。
「しかしな……」
「お父さんいっつもそう。自分の偏見で勝手に物事決めちゃうんだよ! 私の事を考えてくれてるのはわかってる。けどもう子供じゃないんだよ。私の幸せは私が決める。私の幸せはマコトと一緒になる事だよ!」
流石のおじさんも愛娘には反論しにくいみたいで、そこからの展開は、おじさんが反論しかけて、ナギに論破されるという一方的な展開になった。別に彼も意地悪で言ってるわけではないのだから。彼女に幸せになって欲しくていっているのだから。当の本人に言われるとやはりどうしてもやりにくいのだろう。
結局。ナギに助けられてしまったが、これでも僕は頑張ったと自負する。自分より明らかに格上の相手に喧嘩を売ったのだ。まぁこれが精一杯、といったところだろう。
◼︎ ◼︎
紅茶がすっかり冷め切ってしまった頃、どうやら決着はついたようだった。と言っても、僕は見てただけだけど。ハラハラしながら。
「やれやれ。君たちには参ったな。降参だよ。ボクの負けだ。別にボクも意地悪で言っているわけじゃあないしね。本人がそれが良いと言っているならそれで良いんだろう」
「じゃあ……」
認めてくれるんですね? そう続けようとした矢先に彼はこう続けた。
「ただし条件がある。なに、対した事じゃない。結婚したときに入籍するだろう? そのときに、君が神代の籍に入って欲しい。君を婿養子に迎えたい。それなら、僕が先ほど言った問題は解決する。君がこの家のものとなるならなんら問題はない。汀を守るためならボクの財産を総動員しようじゃないか。これで文句はないだろう?」
予想外の展開だった。予想以上の展開だった。奇想天外だった。最善だろう。これ以上ないだろう。なにより、彼女が僕と暮らす事が認められた。それが他のなにより嬉しかった。
ところで一つ疑問がある。
「ナギ、一つ聞きたいんだけど」
「ん? なにかな? 体重以外ならなんでも答えるよ」
いや、それは知ってるからいい。
「そうじゃなくて、どうして僕とおじさんの会話がわかったの? わかってないとあんなベストタイミングでの登場はあり得ないだろ」
「あぁ。それはね。押しに弱いマコトくんがどこまで持つか、ママと賭けてたからね。違う部屋から2人で聞いてたんだよ。私はもちろん一歩も引き下がらないにかけたよ!」
無い胸張ってそう答えられた。いや別に胸を張るってそう言う意味じゃあないけれども。
「判定は?」
「ごーかく! まぁ、お父さん相手にあれだけ頑張る人ってなかなかいないと思うよ。会社員だったらクビだね」
全く……敵わないなぁ。そうつぶやいて、僕は彼女を彼女の父親の前で抱きしめた。
初投稿となっております。
ゼロ章だけでは短いのでイチ章も同時に投稿させていただきました。
今回はほのぼのした感じになっています。
バトルねーじゃねぇか、という方次章までおまちください。
ご意見などありましたら、どうぞお願いします。