首謀者
お待たせいたしました!激薬Gのススメ続編 ※容量が大きいため連載いたします。
~首謀者~
振り向けば、そこに君がいる。そんな当たり前のことがこの先もまた何気なく続いて行くのだとそう信じていたあのころ。この先何年経ってもそれは変わらない事実だと終わらせない事実だと。でも、今はただ悲しいくらいにそのことが懐かしい。20代で結婚をした僕たちは、とても仲のいい夫婦だったに違いない。結婚をしてすぐ君がいなくなるなんて思いもよらなかった。今でも悔やまれる、あの日あの時間帯にあの場所で待ち合わせなんかしなければこんなことにはならなかったのかもしれない。そんなことを考えたって君が戻ってくるはずは無いことは承知の上だ。不慮の事故とは言え、俺の責任は重大だ。ハネムーンで訪れた君と別れることなく過ごした数日があんなにもきらきらしていて希望に満ち溢れていた。でもその出来事が今までの人生の波乱の幕開けだった。ハネムーンも残すところあとわずかという時、クルーザーで君と一緒に出かけた先で帰りには自分ひとりになっていた。彼女を見た最期が、笑顔でそれが俺のたった一つの救いだ。夜のディナーショーを前に外で一緒に夜景を見ようということで彼女が先に外へと出ていた。俺は後から彼女と合流するはずだった。しかし、俺が向かおうとしたときにそれは突然起こってしまった。そして、そこには既に彼女の姿はどこにも見当たらなかった。午後九時二十三分銃乱射事件、船上の混乱の中俺は必死で君の姿を捜し求めていた。混乱の中必死で待ち合わせをしていたその場所に向かった俺の願いも空しく、既に彼女の姿はもうどこにも存在しなかった。その日の出来事から数年経った今でもそのことが脳裏に焼きついて俺を放しはしない。時は流れて俺の心も一段と空っぽになり、何もつかめないまま俺の世界は涙色に染められたままだ。自分でもこんな自分を女々しいと思う反面、どこかでこんな自分に陶酔している自分がいることに気がつかないふりをしている。これでやっと俺の復讐は終わる、俺はそのことに、ほくそ笑んでそう固く信じていた。この数年の間、妻を亡くした慈悲深い旦那という肩書きをご近所や世間一般の人々に必死で取り繕ってきた。もちろんそんなことは誰にも言えない秘密だ。その秘密を俺と共有するのは俗世間から外れた一握りの人間だけだ。その人間も裏では警察のトップと関わりがあるらしいことは聞いている。だから決して警察に公表されるという心配ごとはありえない。捜査の手がそれからも俺に及んでくること無く明日でこの事件は時効を迎えることになる。今日一日を何とか乗り越えられれば俺にも平穏な暮らしが迎えられるに違い無い。俺は心の中でそう確信している。マスコミもやたらとこの事件に首を出してきたが、まるで小説の中のような出来事で手を焼いてしまいそのうちにマスコミからも忘れられてしまうような事件になってしまっていった。そして、翌日午後九時二十三分多くの警察官が囲む中大勢の警察官の中で無実としてその事件の最期を見たのだ。用意周到な俺は、その後も数年の間そんな自分を演じ続けていた。あまり多くは語られない、俺のその不可思議な行動は自分でも吹き出してしまうくらいおかしな行動だ。毎年盆と彼岸には墓参りに行き、優良な夫を演じ続けていた。仏壇には線香を供え合掌をする、ここ最近ではそんなことが習慣になっている。しかし、それは突然舞い込んできた。ある日、会社の上司から見合いの話を持ちかけられたのだ。見合い写真を一度見るとそれはうら若き女性の写真だった。俺は一瞬動揺し、第一声の一言目にこんな言葉が出た。「あの、この女性は?」俺は上司にこの女性のことを聞いてしまった。それは、妙に前妻と似ていたからだ。「あぁ、君も気がついたかね。実は私も薄々そうではないかと思っていたがやはりその勘は外れてはいなかったようだ。」そう上司が続けた。俺はもう一度その写真を覗きこんだ。あまりにも彼女と瓜二つのその写真はどこか俺をあざ笑っているかのようだった。まるで彼女が俺に復習してきているかのようにも思えて仕方が無かった。一体何のために…。それから数日の後に俺は、その女性と会うことになっていた。その日が来るまで、それは日を追うごとに俺を苦しめて行くつもりなのか。その日までの動揺やら緊張やらで、あまりよく眠れなかった。重いまぶたを擦りながら洗面所の鏡の前に立った。仕事の疲れも多少はあったが、それでも十分なほどに礼儀を尽くした。今日は、この見合いで上手くやれればそれでいい、そう信じ込むことにした。昨日は緊張やら動揺やらであまり寝付けなかった。そして見合い当日の日、俺は重い脚を不自然に引きずりながらその見合い会場へとうゆっくり足を運んで行く。その見合い会場へ行くとやはりどことなく前妻と雰囲気を同じにする女性がそこに腰を下ろしていた。俺に気がついた彼女が不意に立ち上がって俺に対してこう話しかけてきた。「お久しぶりです。お兄さん。」俺はいつものように作り笑顔をして見せた。俺の笑顔は上手く作れているだろうか。変に引きつってはいないだろうか、異常なほどに汗はかいていないだろうか。握った拳にじんわりと汗がにじみ出る。そして、そんな不安が俺を更に追い詰めて行く。「や、やぁ。久しぶり元気でしたか?」俺は握った拳をそのままに、心にも無いことを口走ってみる。当の俺はというと、本当に動揺してしまっていて彼女の瞳もまともに見られていない状況にある。いつしか、この縁談がまとまってしまったら、彼女に本当のことを伝えなければいけない日が来ることは必至だ。許されることの決して無いその罪を胸に秘めたまま、口先では悲しみの果実を頬張っている。その後の会話は仲人が中心だった。俺たちに流れる重い静けさは、一段と深くそして濃くなっていく。「えぇ、とっても。」そういって彼女は少し気まずそうにして話を続ける。「そ、そのお兄さんは今、意中の人などおられますか?」彼女は途切れ途切れにそう話した。すると部長が隣から横槍を入れてきた。「こいつな、こう見えてすごく純情だからそんなことはありえませんよ。僕が保障します。」俺は眉をひそめて部長に反論した。しかしそれは直ちに却下され、俺はとうとう逃げ場をなくしてしまった。それから暫くして料理が続々と運ばれてきた。事は重大だ。この子の人生まで無碍にするわけには行かない。俺はこれ以上この人たちと関わってはいけないのだと、そう思うより他無かった。料理はイタリアンのフルコースで目の保養にもなった。不器用だけれど着実に、一歩一歩歩みを進めて行く。俺の何も見つけられない日々に一筋の光がさそうとしていた。