8話ーこうして、時間は戻ったが。
綴緋架利の顔をする、村戸螢。
彼女の手にはナイフと拳銃が握られていた。
そして、この世界に来る前まで一緒にいた綴緋架利は胸部から血を流し、床に倒れ込んでいる。
吉孝はそれをどうすることもできなかった・・・
・・・いや、どうにもできなかったのだから、
これから、どうにかするのだ。
「ディストピア回避・・・」
そう、彼はそれをしに、ここへ来たのだ。
この今起こっている現状がディストピアなのだ。
クラスメイトが何人も殺されて、教室は死体だらけ、
吉孝は今が時間を戻すときだと、強く思った。
そして、ここへ来る前、緋架利からもらった時計を手に、時間を戻した。
その時計の時間を戻したからと言って、この世界の時間が戻るかどうかはわからなかったが、吉孝は何もしないよりましだと思い、その行動を行った。
カチッ
時計の時間を変更するボタンを親指で押す。
すると、
いきなり目の前が真っ白になり、光に包まれるような感覚に陥り、
右腕でその光を遮る。
「・・・と、ちょっとってば!」
「え・・・?」
右腕をおろし、辺りを見回す。
「どうしたの?吉孝くん」
目の前には無傷でピンピンしている、元気な緋架利。
今いる場所はキレイで血なんてどこにもついていない教室。
どうやら、時間を戻す方法は吉孝の行ったやり方であっていたらしい。
「・・・まさか、もう時間を戻したの?」
吉孝の異変に気付き、緋架利は吉孝にそう質問する。
「あぁ、やり方あってるかわかんなかったけど、どーやらあってたみたいだ」
教室の真ん中で大きく手を広げ、平和な部屋だということを実感する。
「じゃあ、ディストピアを回避する方法は見つかったってこと?」
「え」
元はといえば、ディストピアの実態を知り、それを回避するために、実際あんな地獄絵図を目の当たりにしたのだ。
「い、いや・・・でも、緋架利も死んじゃって、どうしようもなかったし・・・」
「これはキミのディストピア回避。私が死んだからと言って、時間を戻す必要はなかったと思うけど」
言われてみればそうかもしれない。
だが、吉孝はそうは思えなくて、
「俺は俺のディストピアの中で、誰も死なせない、死なせたくない。それが、俺のディストピア回避だ」
「・・・そう、」
吉孝の決意表明は強く、緋架利にもそれが伝わったのか、何も言い返さなかった。
「まあ、いいや、今度はディストピア回避の方法も考えつつ、掃除用具入れの中に入っててよ」
「あ、それなんだけど」
吉孝が緋架利のその作戦は、ダメだと否定し、
「いつも通り、授業やろうとしたら、俺を探しに村戸螢ってヤツのが来るんだよ。俺が見つかるまで、クラスメイトを殺してた・・・」
だから、と言って、吉孝はなんとか緋架利を説得し、自分の机に座ることにした。
「・・・でも、キミが見てる場所だけがディストピアとは限らないんじゃないの?」
「・・・どういうことだよ?」
何を言っているかわからなくて、そう訪ねるが、
吉孝の問いには答えず、緋架利は椅子に座る。
・・・そう言えば、あんなとこに机と椅子、あったか?
見覚えのない場所に机と椅子があり、
そこへ当然のように座る緋架利に違和感を覚えた。