3話ーただし、後悔はしていない
「ん・・・?」
吉孝は気がつけばいつもの教室でいつもの椅子に座っていた。
「あ・・・れ・・・?」
だが、いつもと違うことが一つだけあった。
それは隣に机と椅子があることだ。
吉孝の席は真ん中の列の一番後ろの席。
両隣りは空席どころか誰もいない。
「つーか、さっきまでへんなとこにいたはずじゃあ・・・」
そう、吉孝は先程まで鏡の中にいたはずだ。
「それに俺が学校に乗り込んだのは2時30分、」
だが、どう考えても窓の外と教室の時計を見る限り朝の8時すぎだ。
「どうなってんだ・・・?」
一人きりの教室で吉孝は途方に暮れる。
「あ、そういや・・・」
吉孝は鏡の世界で鏡の中へ入る前、とっさに女の子の腕を掴んだのを思い出す。
「あの子、どうなったんだろう」
自分がここにいるということは、彼女も近くにいるはず。
そう思い教室を見渡すも、誰もいない。
ため息をついた吉孝の肩をたたく者がいた。
吉孝は先程、自分が腕をひきこちらへ連れ込んだ女の子だと思い、スッと後ろを振り返った。
プ二ッ
だが、振り返ることは許されず、
代わりに頬に刺さる淡く痛い感覚と自分の頬が押しつぶされる感覚が
吉孝を苛立たせた。
「、にすんだよ・・・!!」
椅子から音をたて立ち上がり、自分の頬を刺した本人を目で確かめた。
「お前・・・」
そこにはやはり、吉孝がここへ連れてきた女の子がいた。
「私名乗ったよね?」
一回で覚えらんないの?と、ぶつぶつ言いつつ、
再び名乗る彼女、綴 緋架利。
「お、覚えとく・・・」
頭をかき、申し訳なさそうにする吉孝。
そんな吉孝に対し、緋架利は現状説明を始めた。
「わかってないかもしれないからはじめに言っておくわ、ここは<鏡の中のディストピア世界>よ。何が起こるかは、言わないでもわかるように、ディストッピア、つまり、反理想郷よ。」
ここまでで、質問はあるかしら?
と、吉孝に尋ねる緋架利。
「えっと、・・・じゃあ、なんで俺はここへこさされたんですか?」
「こさされたって、あんたが勝手に学校の噂聞いて夜中の学校に乗り込んできたんでしょ?」
自業自得よ、と言わんばかりに容赦がない緋架利。
「まあ、追加説明するなら、ここへ来る前に言ったように、
ここでディストピア回避に失敗すれば、現実でそれが起こるってぐらいよ。」
ディストピア、反理想郷は、起こりはしないかもしれない最悪の未来。
だが、ここで起こったディストピアに失敗すれば未来は最悪。
「嫌だ、やめたい。なんて後悔に満ち溢れたこと言わないでよ?
あなたが今日自分の意思で学校に来てしまったんだから」
怨むならせいぜい自分を怨めということだ。
「嫌だ?やめたい?後悔だって?・・・そんなもん、してる訳ねえよ。
俺が俺のヒーローになるんだろ?絶対ディストピア回避成功してやるよ!」
勢いずいてきた吉孝。
悲しみと、尊敬と、驚きの眼差しを送り、緋架利は
「連れて来られたもんはしょーがないし、私も手伝うわ!」
そう吉孝に言った。