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12話ーだから、敵に背中を見せてはいけない。

「…つまり、吉孝くんが緋架利だと思ってる人間は私で、私は吉孝くんは緋架利だと思ってる人間ってわけ」


彼女は確かにそう言った。…が、理解できない吉孝は再度、聞きなおす。


「なんで、同じ人間が、世界に二人もいるんだよ」


もっともな疑問である。

だが、そんな問いにも、螢はいとも簡単に答えてしまう。


「この世界は、ディストピア回避のために作られた空間だよ?私はこの世界の人間で、緋架利がこっちの世界に来たってだけ…理解できた?」


つまりは、もとからこちらの世界にいる螢と、吉孝が連れてきてしまった緋架利と名乗る螢の顔をした女の子。…と、言うわけだ。


「もうひとつ、聞いていいかな?」


「ん?なぁに?」


吉孝は奥歯に力を入れ、ギリッと、音を鳴らせてから、


「なんで、お前なりのハッピーエンドを迎えたくせに、お前はまだ他人を傷つけてんだよ」


螢は吉孝と自分のために、みんなを殺していると言った。

だが、彼女自身のディストピア回避はもう、ハッピーエンド、つまり、もう終わっているのだ。

なのに、まだ人を殺すなど、どう考えても不可思議過ぎる。


「私から言えば、ハッピーエンドでも、それがディストピア回避成功だとは言ってないでしょ?」


「……え?」


「アナタと私が恋人同士だったことを、アナタは覚えていない。ってことを言った時点で、気付いてほしかったけど、……私、ディストピア回避に失敗して、アナタの記憶の中から消えたんだよ」


ディストピア回避に失敗すれば、それが現実にも起こってしまう。

彼女は吉孝に出会わない。という結末に人生をすり替えた。

よって、それが現実となり、吉孝は、彼女のことを覚えていないのだ。


「……まぁ、アナタに出会わない未来にして、ディストピア回避には失敗しちゃったけど、私の人生はまだ、終わってない」


どうやら、死ぬ。ということだけが、ディストピア回避失敗。というわけではなさそうだ。

吉孝は自分の中の【ディストピア回避の失敗】と言うのを、上書きする。


「で、でも、それじゃあ、みんなを殺してるって事を説明できてない!」


吉孝の質問の本質は、なぜ、みんなを殺しているんだ。というところにある。

螢の回答じゃ、不完全だ。


「……この学校の生徒を、一人残らず殺せば、アナタは私と二人っきりになれる。…殺したのが私だってばれなければ、きっと、学校で残された、ロミオとジュリエット。みたいな感じで、それを運命として、吉孝くんが私に振り向いてくれると思ったから………どう?完璧な答えでしょ?」


だからこその、自分と吉孝のために殺している。という、セリフだったのだ。


「……で、どうして、俺はそんなにキミに愛されてるの?」


完璧な答えでしょ?という、螢の発言には、言葉を交わさないまま、吉孝は話を進めた。


「愛に、理由はいらないって言うでしょ?」


ロマンチックな螢のセリフに、殺意が芽生えてしまった。


理由がない愛で、ヒトを殺しているのか…と、考えると、余計に拳を握ってしまう。


「愛がなんだ。俺はお前なんか好きじゃないし、これからも、好きになることはねぇよ」


殺意いっぱいに、螢をにらみながら、殴ることはしなかったが、言葉のナイフで切りつけた。


「…………」


螢は黙ってうつむいた。

愛しの吉孝に、想いが伝わらなかったからだ。

伝わらなかった。だけではない。踏みにじられた。といってもおかしくはない。


「……お前なんか大嫌いだ」


そんな螢を見て、少しは、可哀相だと思ってしまったが、これは自業自得。

可哀相などではない。


「………」


大嫌いと言ってもビクともしなくなった彼女を、そのまま残して、

吉孝は非常階段から教室に戻るため、螢に背を向け、階段を降りようとしたが、


その瞬間に螢が、


「酷いなぁ、吉孝くん」


螢が、吉孝の背中にナイフを突き刺した。


「…な………んで……」


「私を愛さない吉孝くんなんて、吉孝くんじゃないでしょ?」


彼女はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。



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