Trick or Treat!
隆也の台詞、漢字仮名交じりにすると読みにくいので普通に書きます。
一応、結婚してしばらく経ってます。
幼馴染視点を書こうと思ってたのに、結構難しくて筆が進まないので、こっちを先にアップします。
腕や胸元を、何かふわふわしたものが掠めた気がして、意識が浮上した。
腕の中にはいつもと変わらず、柚希がすやすやと穏やかな寝息で眠っている。
目をやればまだ窓の外は薄暗く、起きるまでには1時間以上ありそうだ。
腕枕より、腕に包まれて眠る方が好きだという柚希は、自分の視線よりずっと下にいる。
気付けば柚希を抱きこんだ腕にも、何かがてしり、と柔らかく当たる。
何が?と視線を降ろして---硬直した。
艶のある柚希の髪の合間から覗く、三角の黒い、それ。
短い毛はふわふわしていて、時折ぴるぴる動く様は愛らしくさえ感じるが…
がばりと体を起こし、おおっていた布団をはぐと、ここ数日の冷たい朝の冷気に柚希が小さく丸まった。
昨夜、気を失う様に眠りについた柚希を清め、以前『形が崩れるから!やってくれないなら手加減して!』と半泣きになって教え込まれた下着を身につけさせ、柔らかな身体を抱いて眠ったそのままの姿だ。
ソレ等、以外は------。
頭には、耳。
まろやかな尻には、長い、尻尾。
胸元に抱えられた手は、ほっそりした指は無く、ベビーピンクのぷにぷにの肉球---。
夢かと思い目を擦ってみても、それは消えることなくそこに在った。
おまけに「寒い!」と抗議するかのように尻尾がてしてしとこちらを叩いてくる。
痛くも痒くもないが…
しなやかな尻尾をしばらく眺めていたが、そっと手を伸ばして握ってみる。
細い毛に被われたそれは見た目よりずっと柔らかく、暖かかった。
軽く引っ張ってみても、取れる気配は微塵も感じられなかった。
どうやら、本当に柚希から生えているらしい。
この間の日曜日、隆也の友達を誘ったハロウィンパーティーは、当初はクラスの友達数人だったはずが、楽しいこと大好きな柚希が先頭に立ち、いつのまにか町内の一大イベントと化していた。
昼過ぎから夕方まで、下は母親に抱えられた乳幼児から上は6年生まで、ひっきりなしに訪れる小さな魔女や吸血鬼、お化け、はたまたプリンセス達にお菓子を分け与えたのは自分だ。
柚希は子供達と一緒になって黒猫の仮装をして家々を回り、両手に抱えるほどのお菓子を持って隆也と楽しそうに帰宅した。
まさにその時の耳と尻尾と肉球…
だが当然、その日はオプションでつけたもので、こんな風に動くことも無ければ温もりも無かったはずだ。
一体何がどうして、こうなったのか---
もぞもぞと暖かい場所を探して丸まる柚希にとりあえず布団を掛け直し、ちょこんと覗く猫耳に触れてみる。
尻尾と同じように柔らかなそれをふにふにと弄くり回していると、いつの間にか恨めしげに柚希が見上げてきていた。
「触らニャいでほしいニャ」
ぽつりと零れた自分の言葉に飛び起きて、手を見て驚愕の表情を浮かべる柚希。
尻尾が警戒するようにブワッと膨らみ、次いで耳がへにょりと垂れる。
あまりに分かりやすい感情表現に思わず笑っしまうと、涙を滲ませた目が縋る様に下から見上げてくる。
腕の中にすっぽり収まる愛しい妻がそんな風で、朝からイロイロしてしまったのは仕方の無いことだろう。
「…父さん。そういう趣味は、二人っきりでやった方がいいと思うよ」
すっかり腰が立たなくなってしまった柚希の世話を焼き、抱き上げてリビングに入ると、宿題をやっていた息子から呆れた調子で声がかかる。
苦笑を返しておいてとりあえず柚希をソファに降ろし、朝食の用意をする為にキッチンに向かうと、柚希が「趣味じゃニャいもん」とむすっと言う。
目を丸くして柚希の傍に歩み寄る隆也。
ソファの下に膝をついてじーっと見つめる視線に、ふいっとそっぽを向くが、耳がぴくぴくと隆也を伺っているのが分かる。
「何これ!?本物?ユズ、可愛い~~~~!!」
かねてから動物を飼いたいと言っていた隆也が、可愛らしい耳とぷにっぷにの肉球にはまらない訳が無い。
敏感な尻尾はワンピースの中に隠してあるらしいので気付かれていないようだが、散々弄られ、撫でくり回されてぐったりするまで時間はかからなかった。
皿をテーブルに並べて、疲れ果てた様子の柚希を座らせると、満面の笑みを浮かべていそいそとその向かいに座る隆也。
肉球の手でカトラリーは扱えなかろうと、柚希の前にはおにぎりを出してやる。
中身を無意識のうちにおかかにしてしまったのも仕方ないと思いたい。
両手でおにぎりを抱え、猫耳をぴるぴる動かしながら食べる様子に、時折隆也が机に突っ伏して肩を震わせているが、その気持ちも分からなくはない。
二人して相好を崩しながらの朝食の後、隆也は名残惜しそうに学校へ向かい、柚希はインフルエンザに罹患したとして暫く仕事を休むことになった。
時期的にはちょっと早いが、全くあり得ない話ではないので疑われる事も無く、とりあえずの時間稼ぎが出来た事にホッとして自分も会社に向った。
先日までの忙しさと比べて、比較的落ち着いている今週は、珍しく定時過ぎに上がっても社の人間には何も言われることは無かった。
玄関を開ければ、出汁の匂いが漂ってくる。
「おかえり~。晩ご飯、適当で良いよね?」
柚希と共にキッチンに立つことも多い隆也が、既に夕飯の支度を済ませてくれていたようだ。
ソファでテレビを見ている隆也の傍で、丸まって寝ている柚希。
朝も早かったし、いろいろあったので疲れているのだろう。
テレビを眺めながらも肉球をふにふにと揉んで、CMになると猫耳を楽しそうに撫でる隆也を横目に、着替える為に自室へと引き上げる。
突然の変わりようにも、過剰な愛情表現はあるものの、特別引くことも無く接してくれた息子にホッとしながら。
夕飯は野菜たっぷりの鶏雑炊だった。
何でも、猫には食べちゃいけないものが沢山あるんだとかで、わざわざ猫を飼っている家まで詳しく聞きに行ったらしい。
きちんと出汁を取った雑炊は、胃に優しい味がした。
もっとも、猫扱いされた柚希はふてくされていたが…
両手でレンゲを掴むのに苦戦して、そんな姿を見てまた隆也が悶えていたのは言うまでも無い。
風呂を使って、まだ濡れたままの柚希の髪を拭いてやりながら、ベッドの上を右に左にと揺れる尻尾の行方を目で追ってしまう。
「…目尻が下がってる。こういうのが好きだニャんて、知らニャかった」
項垂れた猫耳に、手にしていたタオルを放り投げて小さな身体を抱き寄せる。
「別に、特別好きなわけじゃないさ」
まだ湿り気の残る髪を梳いてやり、気持ち良さそうに目を閉じる柚希の喉を擽ると、また猫扱いして!と怒る。
「柚希は、柚希だろう?」
「だって、このままだったらどうするの!?もし、本当に猫になっちゃったら?」
ぺたりと伏せられた猫耳と、力なく身体に添う長い尻尾。
どうやら一日中家にいて、考えていたらしい。
この恰好が許されるのは、ハロウィンである今日だけだろう。
原因が分からない以上、どうしたら元に戻るのかなど分からないし、この姿でいる以上、外に出られるわけも無く、医者にかかりようもない。
下手に人に見られようものなら、好奇の目に晒されるのは間違いない。
「そうなったら、引越しでもするか?」
「引っ越し?」
「柚希の事を知る人がいなければ、家に籠ってたって、余計な詮索はされないだろうし。隆也は隆也で、猫ユズにめろめろだしな。転校するのは多少は嫌がるかもしれんが、まぁ大丈夫だろう」
本人が楽しそうにしているから辞めろと言わないだけで、別に柚希が働く必要は無いのだ。
完全に猫になったのなら、外を出歩いたって構わないだろうし。
だが---
「Trick or treat?」
「え??」
ぴょこんと猫耳が立つ。
腕に抱きこんだ柚希の猫耳に、もう一度囁いてやる。
「Trick or treat?」
お菓子か、いたずらか---
「え、えと…と、Trick or treat!」
狼狽する柚希がやけくそ気味に叫ぶのに、くすりと笑って小さなラムネを唇に押し当てる。
ほんの少し開いた唇にそれを押し込んで、もぐもぐ咀嚼するのを待って、尻尾を手にした。
慌てて逃げを打つ柚希を腕の中に閉じ込めて、もう一度「Trick or treat?」と囁く。
「う~~~…」
お菓子など持っているはずもない柚希が、この状況での悪戯を想像してか、胸元まで赤くなる。
何を想像しているんだか。
「その考えた事、全部してやろうか?」
手にした尻尾を逆撫でし、猫耳を軽く食んで息を吹き込むように囁けばくたりとくずおれる柚希。
ただでさえ感じやすい柚希に、猫耳と尻尾という更なる弱点が出来たのだ。
これを楽しまずにどうする。
柚希をベッドにうつ伏せにし、さらりとした髪をよけて首筋に口付けを落としながら思う。
だから---猫になってしまうのは、困る、と。
さぁ、ハロウィンの夜はまだ始まったばかり。
翌朝、昨日の悩みは何だったのかと思うほどすっかり元に戻った柚希を見てがっくりと肩を落とした隆也が、暫くの間「猫を飼おうよ、猫!真っ黒いやつ!!」と騒いでいたのは、また別の話。
Happy Halloween!
もふもふと肉球は正義!と思う作者でした。
…すみません。