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Bee  作者: 桜餡
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蜜蜂の独白

ソフトな表現を心がけますが、若干の性描写や残酷な描写が含まれます。

苦手な方はお気をつけください。

 甘いものが食べたい。

ホットミルクに蜂蜜を入れて、それからマフィンを焼いて。

そうだ、シフォンケーキもつくろう。

メレンゲ作っているときは無心になれるから、今の私にちょうど良い。

お菓子を作るための材料をたくさん買い込んで市場を出る。

私が住んでいるこの街は大陸の端にあってきれいな湾が南側、平野が北にある山の麓まで続いてる。

海の幸だけでなく、山の幸も豊富な上おんだんで過ごしやすい。

5年前の戦争の時だって国境からほど遠い上に海の向こうの国とは協定を結んでいるとかで被害なんて殆どなかったらしい。

でも戦争がおわってからここに来たからよく知らない。

私は4年前、戦後の混乱に紛れてこのまちににげてきた。

…雨が降ってきた。


 坂道を慌てて登る。もうすぐ家だ。

雨足はどんどんつよくなっていく。

家の前にきて鍵を出そうと荷物をもち変えたら紙袋が破れて中身をぶちまけてしまった。

ついてない。

雨が冷たく体を濡らす。

空の色も雨も今の私の気分みたいだ。

荷物をひろいながらふと海の方に目がいった。

港の向こうに小さな島が見える。

…今頃彼は何をしているんだろう。


『俺が守るって決めたんだ。』

3年も一緒に暮らした“彼”は、あの小さい島に住む小さくて可愛らしいひとと結婚してしまった。

彼女は戦争にいった婚約者を待ってたのに。

死んだ婚約者を待ち続けたはずなのに。

あっさり彼のプロポーズを受けてしまった。

彼と一緒に暮らしていたのは私だったのに。

私から彼を奪っていってしまった。

彼にしてみれば、私は只の同居人というか居候で野良猫に餌付けしてそのまま居着いた位の存在だったんだろう。

野良猫には守られる権利なんてなかったんだ。


 甘いものが食べたい。

ミルクジャムを作っても良いかもしれない。

お菓子を作っても、甘いものを食べてもこの気持ちが紛れなかったら。

また逃げてしまえば楽になるのかな?

私は悲しい、とか切ないっていう気持ちよりも先ずほっとした自分に気づいてしまった。

認めたくないけど。

情はわいていたと思う。独占欲もあった。

でも一番大切な愛とか恋とかそういう類いのものがすっぽり抜けて只の同居人だった。

彼のとなりで嬉しそうに笑う彼女を見て嫉妬した自分の心の汚さを目の当たりにして絶望にも似た気分になった。

私は彼を愛しているのではなくて、彼の隣という位置が欲しかっただけ。

一人で暮らすことが出来なくて彼の優しさを利用し続けていたんだ。

逃げて来たのに!私を利用する奴等から。

私が人の心を利用してたなんて。

だから、ほっとした。

彼の優しさに甘えられなくなってほっとした。

ほっとして、気付いて自己嫌悪して。

独占欲から来る嫉妬して、また自己嫌悪。

そして、虚無感。

…甘いものが食べたい。









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