006:眠る前
長ーい一日が終わりました(笑)。
これからどうしよっかなー?
零のかわりにミネラルウォーターを買いに行ったかおるは、程なくして再び零の部屋に顔を出した。
「今日は疲れたでしょ?緊張もしてただろうし、今日はゆっくり休むといいよ。」
ガランとした部屋の中では零が座っているドレッサーの椅子以外に座る場所はなく、かおるは零の傍らに立ったままにっこりと微笑む。
「なんだかたくさん迷惑かけちゃったけど・・・いろいろありがとう。」
零がぎこちなく笑うと、かおるは極上の笑顔で体を屈めて零に顔を近づける。
「迷惑だなんて、少しも思っていないよ?零ちゃんのためならどんな事でも迷惑なんかじゃないし、むしろもっとたくさんわがまま言って甘えてほしいくらいさ。」
近づけられる顔に、零の心臓は相変わらず跳ね上がり、頬が赤くなる。
「あ、あのっ!
「なぁに?
「あの、どうしてそんなに、優しくしてくれるんですか?
ドキドキついでに、今日出会ってからずっと疑問に思っていた事を口にする。優しい、だけではない、一歩間違えば、かおるが零に恋をしていると取られかねないきわどい発言を繰り返すのは、なぜなのだろう?
「突然の敬語でどうしてそんなこと聞くの?」
零の問いかけに、スッとかおるの瞳に影のような感情が走る。
「だ、だって・・・
「だって、何?」
「今日、会ったばかりだし、かおる君、すごく素敵で、かっこよくって優しくて王子様みたいなのに、私みたいな何の取り柄もない平均点以下のチビにどうしてそんなにしてくれるのかなって、」
口にすると、何だか自分がみじめになる。転校生と言う状況に、女子が一人しかいないという環境に、同情してくれているのなら、これ以上の優しさは罪だ、とさえ思った。
ちょっと、泣きそう・・・
かおるの顔を見れずに、零は俯く。
「零ちゃんは、僕の事王子様みたいって思ってくれてたんだ、」
うれしそうなかおるの声に、思わず顔を上げると、眩暈がしそうなほど華やかな笑顔にぶつかる。
「零ちゃんがそんなこと言ってくれるなんて、うれしくて今日は眠れないかもしれないな」
かおるの声が弾む。
「でも、
かおるはフッと真顔になり、椅子に座っている零の前に跪いてその顔を下からのぞきこむ。
「零ちゃんが、《何の取り柄もない平均点以下のチビ》ってのは聞き捨てならないな。それ、誰かに言われたの?」
少し、怒っているようにも取れる口調。零は何と答えるべきか解らずにかおるから目を逸らせる。転校前、常にクラスメイトから言われていた言葉。《お前なんか、いなくなればいいのに》《ちょっと頭がいいからっていい気になりやがって》《親がハーフだか何だか知らないけど、真っ白で気持ち悪い》クラスメイトの女子が学校で一番人気だった男子が零の事を好きだ、と言う情報を聞いた事をきっかけに始まったいじめ。零はそんな理由など知らず、突然始まった、友達だと思っていた人達からの罵声を、2年間聞かされ続けた。《私は、ダメな子なんだ》と、思う事でしか、心を守れなかった。
「零ちゃん?」
俯いた零の肩にかおるはそっとふれる。
「誰に、何を言われたのか知らないけど、零ちゃんは平均点以下なんかじゃないよ?零ちゃんが僕を王子様みたいと言ってくれるなら、僕にとって零ちゃんはお姫様だね。」
かおるはそう言って、にっこりと微笑む。
「少なくとも僕は、零ちゃんのエスコート役をやめる気はないし、もっと甘えてくれていいんだよ?零ちゃんに優しくすることに理由が必要だって言うなら・・・」
かおるは言葉を探すように少し口ごもり、まっすぐに零の瞳を見つめた。
「お人形さんみたいに可愛いくて頑張り屋さんの零ちゃんをほっておけないから、かな。」
「さぁ、お姫様はもう寝る時間だよ?零ちゃん、ロフトの上で寝るの?」
かおるの最初から最後まで殺人的なセリフに悩殺されて思考がフリーズしかけていた零は、あわてて頷く。
「その足ではしごを登ろうとするのは関心しないけど、幸い僕がここにいるから、許してあげる。」
かおるはそう言って、当たり前のように椅子に座っている零を抱き上げる。
「零ちゃんのパジャマはふわふわしててぬいぐるみを抱いてるみたい。このまま僕の部屋に連れて行って抱っこして寝ちゃおうかな?」
と零の思考を完全に停止させる殺人的なセリフを口にしながら零をロフトの上におろすと、にっこりと微笑んで、おやすみ、と部屋へ帰って行った。
かおるによる思考停止事件が多発したせいもあり、零はロフトの上に上がってしばらくたってから駿に寝る前に連絡しろと言われた事を思い出す。
もしも、かおる君が来てくれなくて、私が久遠君に電話をかけたら、久遠君は・・・。
昼間に抱き起してくれた、たくましい腕を思い出して、顔が熱くなる。なんとなく、当たり前のように抱っこしてくるかおるに触れられる事には不本意ながらこの一日で慣れてしまった気がする。当然のように殺人的なセリフを口にする男前の微笑みはいつも完璧で、その向こうにある真意は零には掴めない。
連絡しろって言われたし、もしかしたら待ってくれてるかもしれないし、電話、してみよう・・・。
零は勇気をだして、もらったメモを見ながら駿の携帯を鳴らす。
《はい》
電話口でも、無表情な、不機嫌そうな声。
「あっ、あのっ、佐倉零ですっ!昼間は、ありがとうございました・・・」
《あぁ、》
「あ、あ、の、連絡しろって、言ってくれたから、電話、かけて、その・・・」
《何だよ?》
しどろもどろになる零に、ぶっきらぼうな問いかけが突き刺さる。
「さ、さっきかおる君が来てくれて、その、」
《大丈夫ならいい。》
零の言葉を遮って、プツリ、と通話が途切れる。
・・・やっぱり、怖い・・・。
通話の途切れた携帯を握り締めて、零は思う。枕元に置いておいたクマを抱き寄せて顔を埋め、駿の不機嫌そうな横顔を思い出して溜息をついた。
《お人形さんみたいで頑張りやさんの零ちゃんをほっておけないから》
かおるに言われた言葉を思い出すと、恥かしくて胸の奥が苦しくなる。
「お姫様、だって。」
・・・完璧王子に言われても、実感ないけど、でも、
嬉しい、と素直に思った。ここでなら、うつむかず顔を上げて夢に向かって頑張れる、そう思えた。
明日からプチ旅行にお出かけするので、更新しばらくストップします☆
読んで下さっている方、ポイントをつけて下さっている方、いつもとっても励みになります☆これからもあまあまで頑張ります(笑)
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