002:寮生達
一応、主要メンバー登場です。あぁ誰と恋愛しましょうか・・・。
私的ツボの3人組みです。
かおるに連れられて寮に入った零は、言われるままに入口で靴を脱ぐ。
「くらっちー!転校生の零ちゃん連れて来たよー!」
かおるは入口わきの部屋の向かって大声を上げる。
「寮母の倉口さん。みんな『くらっち』って呼んでるんだ。とっても優しいお母さんみたいだよ。」
かおるはいたずらっぽく笑って零の耳元でささやく。零は不意に顔を近づけられて耳まで真っ赤になった。
「あら、おかえりなさい。あなたが佐倉零ちゃんね?よろしく。」
『やさしいお母さん』と言うのはすごく的を得た表現だな、と零は思う。
少しぽっちゃりした体系、年齢は40代後半くらいだろうか。
「佐倉零です。よろしくお願いします。」
頭を下げると、そんなに畏まらなくていいのよ、と肩を抱かれた。
「寮の中の案内はかおる君にお願いしていいかしら?みんなの紹介もお願いね、」
「はい、承りました。」
おどけて跪いて畏まった礼をするかおるだったが、その様が似合いすぎて見とれてしまう。
「じゃ、行こうか、零ちゃん。」
「零ちゃんの部屋は2階に上がって左の突き当たり。あ、この寮、部屋にカギが付いていないから入られて困る時はノブに何かかけておくといいよ。後、食堂はこの突き当たり。朝食と夕食は時間が決まっているから時間に遅れないようにね。外食をするときはくらっちに先に連絡をしておく事。部屋にはトイレとシャワーがついてるけど、大浴場もあるんだ。・・・けど零ちゃんは難しいかなぁ・・・後でくらっちに相談してみるよ。さすがに混浴はねぇ。
「あ、そうそうこのシュヴェールトに入っている生徒は零ちゃんを入れて全部で10人なんだけど・・・今春休みで帰宅している人も多いから残ってるのは僕を入れて3人かな。後で紹介するよ。ちなみに、この寮の生徒は全員3年生。海外進学科の生徒は5人。僕もその一人。
そう言ってかおるはウインクした。ウインクがこんなにも似合う男子がこの世に存在するとは思えないほど、ハマりすぎていて心臓を打ち抜かれる。
「後はー、門限はないんだけど、遅いとみんなが心配するからあまり遅くならないように、とか、外泊するときは必ずくらっちに連絡をする事、とか・・・ま、わからないことがあったらいつでも聞いてよ。ちなみに僕の部屋は、零ちゃんの部屋の向かい側。」
こっちが零ちゃんの部屋だよ、とかおるは部屋のドアを開ける。
部屋に入ると、先に送っておいた荷物が山のように積まれていた。
「あぁ、大変だね、片づけ。手伝おうか?」
「あ、いえっ、大丈夫です。新学期が始まるまでまだ一週間ありますから、それまでに片づけます。」
「そう?何かあったらいつでも声かけてね。それと、敬語はやめようよ、同級生なんだから。」
あなたのその100%スマイルが緊張させるんです、と内心思うが言葉にはせず、小さく笑う。
「私も敬語は苦手だけど・・・。ちょっと緊張しちゃって。これから、よろしく・・・ね?
「そうそう、それでいいよ。じゃあ先に寮に残ってるメンバーだけ紹介しておくから、ついてきて。」
フワリ、と頭を撫でられて、顔が熱くなる。この人は天然なのか、意識してやっているのか、わからないけどいちいち心臓に悪い。
「まず零ちゃんのお隣さんからね。駿、駿、いる?」
かおるがノックすると、がちゃり、と部屋のドアが開く。
「何か用?」
わぁ、超イケメン・・・。
くせのない黒髪。少し長めに伸びた前髪に、時折うっとおしそうに目を細める。すっと通った鼻筋に切れ長の瞳。身長はかおるよりも少し高く、筋肉質ではないががっちりした印象を受ける。
「あっ、私、今日からこちらでお世話になりますっ!佐倉零です。よろしくお願いしますッ!」
かおるとはタイプの違うイケメンの登場に一瞬見とれた零はあわてて勢いよく頭を下げ、勢いがつきすぎて半開きのドアの角に額をぶつけた。
「イタッ!
「だっ、大丈夫?!
「・・・ばか?
とっさに心配してくれるかおると、あきれたような視線をなげかける駿。性格も正反対のようだ。
「だっ、大丈夫です・・。ごめんなさい、
「そう。じゃ、また。」
バタン、と目の前でドアが閉じられる。
初対面で、嫌われた?名前も、聞けなかったし・・・ちょっとへこむかも・・・。
しゅんとした零の様子を見てかおるは少し溜息を付く。
「駿はいつもあんな感じさ。無愛想と言うか、あまりしゃべりたがらないんだ。気にする事ないよ。彼は久遠駿。駿も海外進学科なんだよ。」
「そ・・そうなんだ・・・
「そうそう。じゃ、もう一人のとこへ行こうか。
かおるに促されて廊下を歩き、ちょうど零達の部屋とは階段を挟んで逆サイドに位置する部屋をノックする。
「健いるー?」
「いるよー」
「入るよ、
いつものことなのだろうか、中からの返事と同時にかおるはドアを開ける。
男の子の部屋なんて初めて・・・。
少しドキドキしながらかおるに続いて中に入ると、健と呼ばれた彼はさっぱりと片付いた部屋の中央で腕立て伏せをしていた。
「あっ、佐倉零ちゃん、だよね?よろしく!俺、下村健。」
パッと花が咲くような笑顔。この学校にはイケメンしかいないのか?と零は思う。
甘いマスク、と言う表現がぴったりと当てはまる。優しい瞳、こげ茶と金髪の混じった《今時の若者》的髪型をしている。腰ばきのカーゴパンツが良く似合っている。身長はかおるにくらべるとやや低かったがバランスの取れた体型で、良く日に焼けた健康的な素肌が印象的だ。
「あっ、ハイッ!佐倉零です。宜しくお願いします!」
「健は国内進学科の理工学部。彼はこう見えて、すごく頭がいいんだよ、
「こう見えてってのは余計じゃねーの?でも、得意なのは数学と物理だけ。後はだいっキライ。」
そう言っていたずらっぽく笑う。
あぁ、今日はイケメンにしか出会ってないから、なんだか麻痺しそう。
零はイケメンの笑顔がこんなにも心臓に悪いものだと初めて知った、と内心思う。
「零ちゃんは海外進学科だから、いろんな意味で僕がエスコートすることになってるんだ。健は邪魔しないようにね、」
「なっ、なんだよっ!勝手に決めんなよそんな事ッ!俺だってなぁ・・・
言いかけて、健は口を噤む。
「俺だって、何?
穏やかな口調でかおるが尋ねる。
「べっ、別に何でもねーよ。何か困ったことがあったら、いつでも声かけてくれよなっ!あっ、携帯、教えてよ?」
「えっ?携帯?
「会ってすぐにナンパ?零ちゃん、無理に教えなくていいよ?・・・でも、できれば僕も教えて欲しいんだけど。」
にっこり、と100%スマイルで言われて、教えない女子など存在するのだろうか?零はフラフラと携帯を取り出し、番号の交換をする。登録に手間取っていると、かおるが手元を覗き込んできた。
ちっ、近いっ!
至近距離に心臓が跳ね上がる。
「あ、名前ね。僕はお月様の月に普通の島、なまえはひらがなでかおる。」
「おい、かおる、お前近づきすぎ。離れろ!
ガクン、とかおるの体が揺れて、かおるの顔が離れる。少しホっとしていると、今度は健が近づいた。フワリ、と少しスパイシーな柑橘系の香りがする。
「俺は上下の下に市町村の村、たけるは健康の健って書いてたける。健って呼んでよ。」
眩しすぎる笑顔にドキドキしながら、この人たちの笑顔はどうしてこんなにも素敵なんだろう、と思う。
そういえば、あの人は全然笑ってくれなかったな。目も、見てくれなかった。
駿の不機嫌そうな顔を思い出し、一瞬心に影が差す。
「ん?どうした?
「えっ?
「いや、何か急に寂しそうな顔したからさ。
零の顔を覗き込むように、健が体をかがめて近づく。
「えっ、だっ、大丈夫ッ!ちょっと、疲れちゃったかなー?
慌ててごまかすが、健は零の瞳を覗き込むようにさらに近づいた。
「健、近すぎるのは健の方だよ。」
さっきのお返しと言わんばかりに思い切り健の体を引き離すと、零の腕を掴む。
「じゃあ、僕達の用事は終わったから、部屋に戻るよ。」
何だよ!と怒鳴る健の鼻先でドアを閉めると、かおるは驚いている零を促して部屋の方へ歩いていく。
部屋の前まで来ると、かおるは軽く吐息を付いた。
「・・・ごめんね、移動で疲れているときにあちこち連れまわしたりして・・・。片付けもあるんだよね。僕はずっと部屋にいるから、何かあったらいつでも声かけてね。・・本当に手伝わなくても大丈夫?」
申し訳なさそうな口調のかおるは、遠慮がちに問いかける。
これ以上一緒にいたら心臓がおかしくなっちゃいそうだし。
そんな風に言ってくれるのは本当にうれしかったけれど、零は緊張しすぎてドキドキしっぱなしの心臓をなだめるためにも一人になりたいと思った。
「今日はいろいろ助けてくれてありがとう。また、わからないこととか、教えてくれる?来るまではすごく不安だったけど、かおるくんに案内してもらえて、優しくしてもらえてとっても嬉しかったの。」
「もちろん。零ちゃんにそんな風に言われたら、好きになっちゃいそうだよ、」
100%スマイルでそんな殺人的なセリフをサラっと口にするのは、どうかおやめ下さい・・・。
零は耳まで真っ赤になって、慌てて頭をさげると自分の部屋に入って扉を閉めた。