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いつも君がいた  作者: 遙香
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015:問題児


 ・・・高花伊織たかはないおり。登場早々やってくれる。やっぱり問題児は問題児だな。

かおるは内心思う。ある程度の事は想定していたが、目の前で零に手を出された瞬間、自分を支配していく怒りの感情に気付く。

 「お前の女?フン、もう手を付けたのか?・・・まぁこんだけ可愛い女なら手を出したい気持ちは理解できるけどな。俺には他人の女だろうがそんな事関係ないね。」

かおるに手を掴まれた伊織は挑戦的な笑みを唇の端に浮かべてその手を振り払う。

「おい、お前、後で俺の部屋へ来い。」

伊織は零に向かってそう言い捨てて食堂を出て行く。その後ろ姿を見送り、かおるは大きくため息をついた。

「・・・ごめんね?零ちゃん。驚いた?あれ、この寮の問題児。高花伊織たかはないおり。彼も海外進学科コースなんだ。」

立ち上がっていたかおるは再び席に着き、食事を始めながら告げる。

「伊織の言う事は真に受けなくていいし、気にしないで。」

「あの・・・でも、」

「ほっときゃいいさ、アイツ、何が彼女にしてやる、だよ、ふざけやがって。」

隣にいた健もかおるに同調する。

「さぁ、じゃあ改めて、みんなを紹介するよ。」

かおるは早々に食器を片づけて残っていた5人を次々と紹介していく。はじめは『かわいい転校生』とお近づきになろうとしていた面々だったが、かおると伊織のやりあいを見たせいか、それほど積極的になる生徒はおらず、簡単に自分の自己紹介をして三々五々、部屋へ戻って行った。最初から最後までずっと隅の席で一人本を読んでいた駿も立ち上がる。

「お前、どうする気?」

立ち去り際、駿は零の後ろに立ち止まる。

「え?どうって・・?」

駿の問いかけの意図が掴めなかった零が聞き返すと、駿はいつものように呆れた溜息をついて不機嫌そうに眉間にしわを作る。

「わからないなら、いい。」

「えっ?あ、あのっ久遠君?」

そのまま立ち去ってしまった駿を追いかけようと立ち上がったところでやんわりとかおるに止められる。

「いいよ、零ちゃん。駿は、零ちゃんの事を心配しているだけさ。・・・伊織にとられるんじゃないか、ってね。」

「とられる・・?」

「そう。零ちゃんが伊織の言葉通り、伊織の彼女になるつもりか、って聞きたかったんだと思うよ。」

そう言うかおるもいつもの彼らしくなく、零の方を見ずに小さくため息をつく。

「僕も、それにはちょっと興味があるけど、

そう言って、悲し気ともとれる笑顔を零に向ける。

「か、彼女って、そんな、急に言われても、困る、し・・・」

「困るし?

「私、ちょっと・・・

我の強い人は苦手だ、と言おうとして口ごもる。初対面で会ったばかりの人に対して、ただの第一印象だけで苦手だと決めてしまうのは、そしてそれを公言してしまうのははばかられた。

「零ちゃんがどう思っているのか、僕にはわからないけど、もし零ちゃんが困っているのなら、僕は全力で零ちゃんを守るよ。伊織は強引だし、一度言い出したら聞かないから。」

そう言ってかおるは溜息をつく。

「お、俺だって、零ちゃんが困ってるなら何だってするぜ?だから、一人で悩むなよな?」

隣にいた健も同調して、困惑している零の肩を抱く。

「健、どさくさにまぎれて、勝手に零ちゃんに触らない、」

即、かおるに叱られて思わず手をひっこめた健だったが、ふと思い出したように声を荒げる。

「つか、かおるてめぇなぁ!お前自分は散々やりたい放題やっといてッ!

「やりたい放題って、人聞きが悪い言い方をするのはやめてもらえるかな?僕はエスコート役として必要な事をしてるだけだよ。」

「お前が勝手に自分をエスコート役だっつってるだけだろーがよッ!

「そうだけど、ほかに適任もいないし、何か問題ある?」

「おおありだッ!!

冷静なかおるにいいようにあしらわれている健を見ているとその掛け合いが面白くてついつい吹き出してしまう。言い争いの内容は自分の事なのに、他人事のように思えてしまっている自分がいた。



 「じゃあ、零ちゃん何かあったら声、かけてね。」

いつものように部屋の前でかおるはそう言って微笑み、自室へ戻り、零はありがとう、と礼を言って自室に戻る。部屋の電気を付けようとスイッチに手を伸ばした瞬間、その手を掴まれて零は声にならない悲鳴を上げた。

「おそかったじゃねーか、」

掴まれた手を引きよせ、耳元でささやかれる声。驚きすぎて、驚きは恐怖となって零の体を支配する。ムスクと柑橘系の入り混じった複雑な香りが零を包む。

「待ちくたびれたぜ、」

  この人、さっきの・・・

《問題児》だ、と零の心の中に食堂でのかおると伊織のやり取りが浮かぶ。

「こっちこいよ、」

 手を掴み、零の体を抱きかかえるようにしてソファーに連れていくと、ひょいと抱きかかえて座る。

 な、な、何、何なのこのヒトッ!

「はっ、離して、

同じ抱きかかえられるのでもかおるのそれとは違う、強引さが恐怖心を煽る。

「離す?どうして?お前は俺の女だっつっただろ。」

間近に寄せられる顔。窓から差し込む月明かりが明るく、伊織の挑戦的な瞳が闇に閃く。月明かりの下で見る伊織の顔は妖艶とも思える美しさを含んで長いまつげに彩られた自信に満ちた瞳は危険なほどに強く輝いている。

「い、イヤっ!離してッ!

一瞬、伊織の美しさに見とれかけた零はそんな自分に慌て、掴まれた手を振りほどこうともがく。

「いやだね。俺はお前が気に入ったからな。」

伊織はそう言い放ち、腕の中の零を見つめる。

「お前、近くで見るとホント《よくできてる》な。」

まるで品定めをするかのように、額、眉、瞳、鼻、唇、とじっくりと見られて零は真っ赤になる。電気がついていなくてよかった、と思わずそんな事を考えてしまっていた。

「さっきも言ったが、お前がほかの男とデキてようがそんなことは俺には関係ない。俺は俺の欲しいものを手に入れる。絶対にお前に俺を選ばせてやるからな、」

きらり、と月明かりの闇に光る伊織の瞳。こんな自信を、一体どうすれば手に入れる事ができるのだろう。妖艶で強い美しさを持つ彼だから、なのだろうか。

「このまま押し倒して、襲ってやろうか?」

お前みたいなチビ、襲うくらい簡単だ、と言う伊織の瞳は妖しくきらめき零の背筋を凍らせる。それまで驚きや恐怖、恥ずかしさなど様々な感情に翻弄されて大人しく伊織に掴まれていた零だったが、その瞳の毒に悲鳴を上げた。

私は強引なヒトは基本的に好きですが・・・(笑)。

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