013:贈り物
零が買ってきた物を所定の位置に収め、ゴミの片付けが終わると、かおるは相変わらずガランとしている零の部屋の床の上に座り、息を付く。
「ありがとう、かおる君。・・・ごめんね?」
「いいんだよ、このくらい。それに、僕も楽しかったよ。一つ一つが女の子だなぁって。」
こう言うの、僕らは選ばないから、とかおるはキラキラと蛍光灯の光を反射している小物入れを指し、あ、と思い出したように立ち上がった。
「また忘れてた。僕、何か飲み物を買ってくるから、少し待ってて、」
かおるが出て行くと、零は大きく深呼吸をする。息が詰まるわけではないが、かおるといると緊張して背筋が伸びる。まだ初めて顔をあわせてから2日しか経っていないのに、零が思う事を、零が感じる事を、敏感に察知して手を差し伸べてくれるかおる。気がつくといつもかおるの手の内にいるようで居心地が悪くなる。こんなにも優しくしてもらっておいて居心地が悪いなんて言ったら罰が当たるな、と零は思う。
せっかく治ってきてたのに・・・。
かおるに手当てされた足首を見て、溜息をつく。少し足先を動かそうとすると鋭い痛みが走り、零は顔をしかめた。
そう言えば、一週間後には3年生としての新学期が始まるんだよね。寮の他の人たちはいつ頃戻ってくるんだろう?
昨日から続くドタバタと、男前3人組にすっかり思考回路を乱されているが、本来の零は一生徒として転校してきた立場であり、本分は高校3年生として新しい未来を選択するための準備をしに来たのである。
は・・・はやく冷静にならなきゃ・・・。そう言えば、制服もまだもらってないし・・・。
後一週間しかないにも関わらず、《何もわかっていない》自分に気づいて零は愕然とした。
教科書はいつどこで買うの?そもそも、私って何組なんだろう?最初って職員室へ行くのかな?でも担任の先生が誰かも分かんないし・・・。職員室がどこにあるのかもわからないし・・・。
零が急に新学期への不安にとらわれて青ざめていると、かおるが出て行った後のドアを控えめにノックする音がして我に返る。
「はっはいっ」
思わず背筋を伸ばして返事をすると、遠慮がちにドアが開く。
「た、健君・・・。」
姿を現したのは健で、再び手当てをされている零の足を見て、しゅん、と肩を落とした。
「あの、あのさっ、今日は、ごめん。俺が誘ったから・・・その、こんな事になって・・・。」
健の様子に零は慌てた。もともと一人で出かけるつもりだったのに、健だけが悪者になっている。
「ちっ、違うよ、健君が誘ったから出かけたんじゃなくて、もともと、一人で行くつもりだったの。だから健君は何も悪くないし、かおる君が誤解してるだけで・・・。そのせいで健君が責められちゃって・・・」
まだ泣き止んだばかりの零は、やたらと緩んでいる涙腺から涙が零れそうになって慌てる。小さい頃からいつもそうだ。滅多に泣かないかわりに、一度泣き出すと少しの刺激でも涙が出てしまう。
違う、泣きたいんじゃないのに。今泣いたら健君絶対困るし!
「あっ、っそうだ、健君・・買ってくれたルームシューズ、持ってない?買ってきた物整理してたんだけど、見当たらなくって・・・。」
零は元気のない健と、泣きそうな自分を紛らわすために、慌てて話題を変える。
「あ、そうだった。コレ、渡そうと思って。」
零の言葉に健は手にしていた雑貨屋の袋を零に手渡す。ありがとう、と受け取ると、わざわざ、プレゼント用にしてもらったのだろう、綺麗にラッピングされていて、ただそれだけの気遣いが零はとても嬉しかった。
「あけて、いい?」
零がたずねると、健はもちろん、と頷く。パステルピンクのファーのボンボンがついた白いルームシューズは見るだけでも癒される。履いてみようと身体をかがめると、スッと健の手が伸びた。
「足、痛むだろ?ごめんな。気付かなくて。かおるが言った事は当たってるよ。無理に連れ出したかどうかじゃなくて、一緒にいたのに、零ちゃんの足が痛いって事に気付かなかった俺が悪い。」
言いながら、零の手からルームシューズを奪い、足元に跪いて片足ずつ丁寧に履かせていく。
「やっぱ、似合うな。」
健が照れたような笑顔を浮かべてそう言うと、零は気恥ずかしくて耳を赤く染めた。
「健君、そろそろ、僕の零ちゃんにちょっかいを出すのはやめてもらっていいかな?」
壁にもたれた姿勢でコンコン、と空いたままだったドアを叩いてかおるが部屋に入ってくる。いつからそこにいたのだろう、と思うと零はさらに恥かしくなって俯いた。
「はい、どうぞ、」
かおるは買ってきたミネラルウォーターを零に手渡し、足元のルームシューズに目をやる。
「零ちゃんにぴったりだね。よく似合ってる、」
にっこり、と100%の笑顔を向けられ、零は恥かしさに耐えられずにかおるの笑顔から目を逸らした。
「・・・フゥ・・・」
当然のように零を抱き上げて食堂へ連れて行き、戻ってシャワーを浴びた後はロフトの上へ抱き上げたかおるは、艶やかな笑顔でおやすみ、と自室へ戻って行った。
わかんない・・・。
零はロフトの上で溜息をついた。優しくされる理由がわからない。優しいというよりもまるで傷つける事を怯えるかのように、真綿で包むように大切に扱われる事への不安。私はそんな風に扱われるべき人間ではない、と心のどこかで叫ぶ声。彼らが尽くすべき相手を間違えた、と気付いた時一体どうなるのだろう、と思うと恐ろしくて仕方がない。零は不安を紛らわすために傍らのクマのぬいぐるみを抱きしめた。
男前で優しい男子に囲まれて生活してみたい・・・。としみじみと想う今日この頃・・・。まだ零が誰を選ぶか決めてないのでー(笑)ご希望があればメッセージくださいませ(笑)後もう一人、キーマンが出てきておりませんが・・・。




