133:寝坊姫
寒い冬の朝。
寮の適温に管理された快適な環境下では、真冬だからと言って
寒くて毛布から抜け出せない、という目には合わなかったが、
それでもなかなか明るんでこない東の空は朝に弱い零を毛布の中に閉じ込める。
何度目かのアラームを止め、そろそろ起きないとかおるが迎えに来てしまう、と頭の片隅で思う。
隣の部屋の駿もきっと、何度も鳴るアラームに呆れているだろう。
それでも、まだ明けきらない夜の引力が零を眠りの世界に閉じ込めた。
「・・・零ちゃん・・・まだ寝てるの?」
何度かノックをして、返事のない部屋のドアをそっとあけたかおるはロフトの上に目をやって苦笑する。
寝坊助な姫は、何度も「王子」に起こされて、そのたびに真っ赤になって大慌てするのに。
・・・まぁ僕は、姫の寝顔を見て、抱き上げる口実が得られるからいいんだけど。
かおるは心の中でつぶやいて大股に部屋を横切る。
零の香りのする部屋。
少し前の自分なら寝ている女性の部屋に勝手に入るなんて、考えたこともなかったのに
零に出会い、触れれば触れるほどにもっとそばにいたいという気持ちを抑えられなかった。
「姫、そろそろ起きる時間ですよ。」
耳元でささやいて、こめかみのあたりに軽く口づける。
このくらい許されるよね、と心の中でつぶやいて、
本当は、姫は王子のキスで目が覚めるものなんだけどね、と眠る零を見つめる。
「姫、お寝坊が過ぎると、攫われてしまうよ。」
・・・このまま眠っていてくれたら、僕はずっと零ちゃんの寝顔を独り占めできるのに。
小さくため息をつく。
どんなに望んでも、今の零はそれを望んでいない。零の心は伊織に向いていて、
優しい零は伊織を裏切ることを望まない。
僕は、僕自身がどんなに傷ついたとしても零ちゃんの気持ちを優先するし、
零ちゃんが心から幸せに笑うのなら、その居場所を作る誰かに、零ちゃんを託す。
でも、とかおるは零の寝顔を見て思う。
いつかの未来、そこにいるのは自分でありたいと思うし、
そうなるように自分にできる事はすべてすると決めている。
自分の未来は、自分の手で作る。
自分の未来を諦めていた僕に、目標に挑戦する時間を与えてくれたのは
他でもない彼女の存在だ。
そんな彼女の隣に立つという未来を、何もしないまま諦めるという選択肢はかおるにはなかった。
「零ちゃんの幸せな眠りを妨げるのは気が進まないけど、そろそろタイムリミットかな。」
つぶやいたかおるは、零が起きない朝にいつもそうしているように毛布ごと零を抱き上げた。
零がどこまで伊織に話しているのかを知る由もないが、
こうして朝寝坊をする零のことも、寝起きのまだ赤い眼も、
少し寝癖のついた柔らかい髪も、寝起きでまだ少しかすれた声も、
自分だけが知っている零だ、と思うとそれだけで幸せな気持ちになれる。
予想通りに真っ赤になって慌てる零に微笑みかけたかおるは零をドレッサーの前の椅子に座らせ、
部屋の前で待ってるからね、と何もなかったかのように部屋を出るのだった。
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