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いつも君がいた  作者: 遙香
132/139

132:朝のひととき


 数日で零の体調も戻り、日常が戻ってきた。

毎朝、5人そろって食堂で少し早めの朝食を食べ、食後のコーヒーを飲みながら談笑する時間。

転校してきたばかりのころは、かおると健と3人で朝食を食べて、

駿は少し離れたところで1人本を読んでいて、

伊織は嵐のように現れては消えていく少し怖い人だったのにな、と零は思う。


いつのころからか5人そろって行動することが増え、

他愛のないことで笑ったり、一緒に勉強をしたり、一日一日が大切な思い出になっていく。

あと数か月したら卒業して会えなくなってしまう、と思うと

言いようのない寂しさに捕らわれるのは、かけがえのない人たちに出会えたからだ。


転校する前は高校生活など一秒でも早く終わればいいと思っていた。

毎日がつらくて、何の色も見えなくて、いつも何かに怯えていたように思う。


自分の味方になってくれなくても、せめて自分という存在を否定しない人が一人でもいてくれたら、

といつも思っていた。


ここにいてもいいよ、と言ってくれるだけで救われたのに、

誰一人として自分を視界にさえ入れてくれなかったあの頃を思い出すと

心の奥からじわりと痛みが広がるのを感じる。


「零、どうかしたのか?」

「零ちゃん、何かあったの?」

「零ちゃん、ぼーっとして何考えてんの?」

「朝から寝ぼけてないでしゃきっとしろ」


一斉にかけられた声に零ははっとする。

辛かった過去を思い出していた、というよりは、

どれだけ今が幸せかを実感していた事に気付いて心配げに自分を見る4人に笑いかけた。


「私って幸せ者だなぁって考えてただけだよ。」

零のその答えに、かおると伊織は一瞬視線を交わらせる。

幸せ、と言うには釣り合わない瞳をしていたのに、

とおそらく同じことを感じたであろう二人のアイコンタクトに隣にいた駿は苦笑した。

一方で、自分は、否、自分たちは未だ頼るに値しない存在なのだろうか、と胸の奥に広がる

苦い気持ちを持て余していると、わざとなのか、本当に何も考えていないのかわからない健の明るい声が響く。


「俺も超幸せ者だよ、零ちゃんと知り合って、友達になって、こうやって毎朝一緒に朝めし食って!」

「健君もそう思ってくれてるの?私もみんなと一緒に過ごせるの本当に幸せだなって思ってるよ。」

少し前の不安げな、それでいてどこか諦めたような瞳とは打って変わって

ふわりと花が咲くような笑顔に胸の奥が苦しくなるような感覚を覚えた駿は零から目をそらして小さくため息をついた。


「零はそうやってふわふわ笑ってるのがいい。」

伊織に髪を撫でられた零の頬が赤く染まるのはいつものことで、

その伊織の行動に文句を言う健と、テーブル越しに零の手を握って、ためらいもなく甘い言葉を口にするかおるを見て、

何もしない、否できない自分の性格を恨めしく思っている事に気付いた駿は少なからず動揺していた。


零に対する自分の感情がどういうものかはすでに理解していた。

でもその上で、その気持ちを整理して自分の立ち位置も取るべき行動も理解しているはずだったのに。

いまさら何を、という気持ちと、今ならまだ手が届くかもしれない、という気持ちが

自分の中に生まれていることに、自分自身が驚いていた。


何かをあきらめるのは好きではない。

だが、自分にとって不要と判断したことは排除して生きてきた。

零の存在は不要なのではなく、手の届かない高嶺の花。

無理をして背伸びをしたところですでに誰かの手の中にあるその花を手に入れるには

いったい何をすればいいのか、と思う。


今の自分にできるのは、誰かの手の中にある花が美しく咲き続けられるように見守ることだけ。

傷つくことが無いように、いつまでも笑っていられるように。

お久しぶりになりました。

完結に向けて頑張ります♪

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