120:もしかして
伊織が出て行った後、しばらく茫然としていた零だったが『俺の服を適当に着ておけ』と言う伊織の指令が脳内に蘇る。
・・・そんな事、言われてもっ!!
ソファーの背に無造作にかけられたシャツとローゲージのニットにジーンズが目に映る。伊織の服を着ている自分を想像するだけで頬が熱くなるのを感じた零は自分の中のよからぬ妄想を打ち消すようにぶんぶんと頭を振った。
「入るぞ、」
「ま・・待って!待って!!」
いつまで待たせる気だ、と怒気を含む伊織の声に零は慌ててドレスを脱ぎ、伊織のシャツに袖を通した。よほど苛立っているのか、ドアをコツコツと小さく叩く音にせかされながらシャツの上からニットを着て、ジーンズを履いた。
明らかに大きすぎるジーンズの裾を曲げていると荒々しくドアが開いて伊織が部屋の中に入ってきた。
「遅い!」
「・・・きゃっ!」
慌てている零を他所に伊織は零の傍まで来ると、デニムなんか履かなくてもいいんじゃねーの?と零の身体には大きすぎるシャツをみてにやりと笑った。
「どうせウエストも合わないんだし、デニムは諦めろって。」
メンズのシャツでワンピースとか、萌え要素満載だな、と毒のある笑みを向けられた零はどう答えていいのか言葉を見つけられずに意地悪く笑う伊織を睨んだ。
「・・・それにしても、がっちりメイクされたもんだな。まぁ・・・似合ってるけど。」
まじまじと見つめられて居心地の悪くなった零は伊織から視線を逸らし、メイク落としてくるから、と部屋を出ようとして腕を掴まれた。
「このままでいい。それより・・・そのドレス、かおるが準備したんだろ?返してきてやるから、ここでいい子で待ってろ。」
「あ・・でも!お礼言いたいし、自分で返すから!」
「俺もぜひ礼を言いたいんだ。俺の大切な零を見世物にしてくれた礼をな。」
明らかに刺のある伊織の言葉に零は慌てつつ、なんとか伊織を引き留めることに成功し、改めて伊織に頭を下げた。
「あの・・・伊織君!あの・・ごめんなさい。ちゃんと・・・言えなくて・・・」
ウエストの合わないデニムを押さえつつ、零は背の高い伊織を見上げる。
「ずっと、言おうと思ってたんだけど、言いだせなくて・・・今日の事・・・その・・・」
「零は、自分が悪い事をした、って思ってるわけ?」
伊織の心の奥を射抜くような鋭い視線に、零は思わず視線を逸らしつつ頷く。
「そうか。それなら・・・悪い事をした悪い子には、お仕置きしてもいいってわけだ?」
「・・・え?!」
にやりと笑った伊織は幼い子を抱き上げるように零の両脇の下に手を入れてひょいと零の身体を抱き上げた。
「えっ・・ちょっ!キャッ!!」
デニムのウエストを押さえていた手が離れ、大きすぎるデニムは重力にひかれて床に落ちる。
「・・・別に、大丈夫だろ?いつももっと短いスカート、履いてるじゃねーか。」
「そ・・そう言う問題じゃ・・・ない・・」
伊織の言う通り、もしかすると制服のスカートの方が短いかもしれないのに、なぜかものすごく恥ずかしくてたまらない。伊織の服を着ているからなのか、それがシャツだと思うからなのかは分からないが、恥ずかしさに一気に体温が上がるのを感じていた。
「幸い、零が自分で悪い事をした、って思ってるからな。俺は心置きなくお仕置きできるってわけだ。」
伊織は意地悪くにやにやと笑いながら零をベッドの上に降ろすと、肩口に手をかけて押し倒した。
「・・・っ!」
零が声をあげるよりも先に伊織の唇がその声を奪う。いつもより強引で荒々しい口づけに零の思考は白く塗り替えられ、身体が熱くなっていく。
「誰にも・・・触れさせない・・・零は、俺の・・・大切な・・・」
キスの合間に紡がれる言葉。零の頬に触れていた伊織の手がゆっくりと首筋をすべり、零がそこにいる事を確かめるように身体のラインを辿って行く。
「・・・ん・・っ!」
熱く深く塞がれた唇の強引な甘さに零は声にならない声をあげた。
「・・・どうだ?反省したか?」
伊織は自分の腕の中で半ば放心している零の額に軽く口づけて微笑みかける。
散々触れ合った後なのに頬をバラ色に染める零がたまらなく可愛くて、胸の奥が痛くなるようなざわめきを覚えた伊織はすっかり乱れてしまった零の髪に目をやった。
「髪、せっかく綺麗だったのにごめんな?・・・ピン、痛くなかったか?」
髪を撫でようとして、ドレスに見合うように結いあげられていた髪を止めているピンが指先に触れた伊織はいたわるようにそっと零を抱き寄せる。
「あ・・・うん、平気だよ。・・・ピン、外しちゃうね。」
身を起そうとする零を軽く腕で拘束した伊織は、外してやるからじっとしてろ、と零の耳元で囁いた。
「あのイタリア野郎、俺の大切な零を勝手にドレスアップしやがって。零にドレスを着せていいのは俺だけだ。」
髪を結いあげるために止められたたくさんのピンを一つ一つ丁寧に外しながら話す伊織の口調が少し拗ねているようにも聞こえて、零は伊織の胸に頬を寄せながらいつもより少し加速度をあげた鼓動に耳を澄ませる。
「馬鹿な男共がじろじろ見るようなデザインを選ぶなんて・・・。かおるが大切な人を見世物にするような真似をするような馬鹿だとは思わなかったぜ・・・間違っても、誰かに触れられたりしてないだろうな?」
ピンを外し終えた伊織は少しくせのついた零の髪を指先で梳きながら自分の胸の中の愛しい人に視線を向ける。
「触った、って言えば先生くらいだと思うよ。でも、駿君が助けてくれたし、大丈夫だったよ。駿君がちょっと手を捻っただけで先生すごく痛がってたよ。合気道の技なんだって。」
合気道ちょっとかっこよかったから教えてもらおうかな、と無邪気に笑う零に伊織は不機嫌に眉根を寄せた。
「・・・俺の前で他の男の話すんじゃねーよ。」
「え・・・?」
「っていうか、他の男の事、褒めてんじゃねーよ。」
「もしかして、伊織君、ヤキモチ・・・・んっ!!」
零の言葉を遮る伊織の強引な唇は、再びお仕置きと言う名の甘い時間に溶けて行った。
少し間が空いてしまいました・・・。(誰も待ってないですよね・・)
私、俺様に拗ねられると萌えます。
彼シャツとか、大好物です。
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