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いつも君がいた  作者: 遙香
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011:オシオキ?


 かおるに部屋を追い出された健は、目の前の、鍵の掛かっていないドアをもう一度開けて中に入ることができなかった。

《エスコート役失格》とかおるに言われた言葉が胸に突き刺さってひどく痛む。確かに、歩いていて少し遅れることが何度かあったけれど、身長差があるせいだとしか思わなかった。

 確かに、失格かもな・・・。

健は心の中で呟き、赤く腫れていた零の足首を思い出していたたまれない気持ちになった。後で、きちんと零に謝ろう、と思う。きっと街へ誘った自分に気を使って、痛いと言い出せなかったんだろうと思うと、そんな思いをさせてしまった自分が情けなくもあった。

「おい、健、」

自分の部屋へ戻ろうとしかけた健を、部屋から出てきた駿が呼び止める。

「んだよ、」

自分を責めていた健は、振り向かずに返事をする。

「あの考えなしのチビを無理させるのはやめておけ、」

「なっ?」

「どうせ今頃、かおるに手当てされてるんだろう、足。」

「・・・チッ」

健は舌打ちして、そのまま部屋へ帰っていく。かおるの言葉も、駿の言葉も的を得ている。よく考えれば昨日足を捻って歩けなかった零が街を歩き回るにはまだ早かった、と自分でも思う。

 何か、調子狂うんだよな。

健は心の中で呟く。ぬいぐるみのような、ペットのようなかわいらしさを持つ零の事が気になって仕方がない。ほんの少しでも話したいと、思ってしまう。こんな思いは、初めてだ。


 


 「零ちゃん、足、見せてごらん、」

健を部屋から追い出したかおるは、零をソファーの上に座らせてその前に跪く。

朝見たときは腫れもひいて、痛みもなさそうだった足が今はまた赤く腫れあがって痛々しい。

「ごめんね、零ちゃん。僕がもう少しちゃんと、考えなしに行動する健が余計な事しないように見ておけばよかった。」

痛む?とたずねると、零は黙って首を横に振る。

 どうして、かおる君が謝るんだろう。どうして、健君が責められているんだろう?もともと、一人で出かけようとしていたのは私で、たまたま健君がそれに付き合ってくれただけなのに。

 かおるに《退場》と言われた時の傷ついたような健の顔を思い出すと、零の胸の奥に鋭い痛みが走る。 ・・・私のせい、なのに。

「はい、できたよ。・・・零ちゃん?」

 零の心の中で様々な思いが渦巻き、今にも泣き出してしまいそうだった。私のためを思って一緒に街へ買い物に行ってくれただけの健が悪者にされて、心配してくれているだけのかおるが謝ってくれるのは何故なんだろう?

手当てを終えたかおるは、辛そうで不安げな零の顔を認めると、フゥ、と大きく溜息をつく。

「零ちゃんごめんね、ちょっとお仕置きがきつかったね。ごめん、もう怒ってないから、そんな辛そうな顔しないで?」

 本当はすごく怒っていたはずなんだけど、とかおるは思う。零が部屋にいないと気付いてからどれだけ心配したか、このお姫様はきっと分かっていない。

「健君は、悪くないんだよ。」

「え?」

「健君は、私が一人で出かけようとしてた時にたまたま誘ってくれただけで、」

「それで?」

「荷物持ってくれたり、してくれただけで」

「うん。」

「だから、悪いのは私で・・・」

 健君の事を責めるのは、やめてほしい、と言おうとしたところで、ずっと我慢していた涙が一粒こぼれる。

「れ、零ちゃん?!ごめん、ごめんね?泣かないで。健の事も零ちゃんのことも、責めてないから。ただ僕が勝手に焼きもち焼いて心配していただけだから、」

 焦って必死に謝ってくれるかおるに、泣くのは卑怯だ、と零は思う。だから絶対泣かないつもりだったのに。

「泣いてないもんッ!」

とっさに零が叫ぶと、かおるは困ったような笑顔になり、必死に涙を堪えようとしている零を思わず抱きしめる。

 このお姫様は、どうしてこんなに可愛いんだろう。この僕を慌てさせたり、不安にさせたり、散々翻弄しておいて、その自覚なしとはね。

「これじゃ、どっちがオシオキされているのか、わからないな。」

かおるは小さく呟く。

「零ちゃんが泣いてないっていうなら、泣いてないんだと思うよ。でも、泣きたいくらい辛い気持ちにさせたのは僕だよね?それに・・・もしも零ちゃんが泣いていてもいなくても、僕は同じように謝っていると思うから、」

「零ちゃんがいなくなったって気付いて、でもすぐに健と一緒だって分かって、心配と焼きもちと、いろんな気持ちが渦巻いて、正直、自分でも驚くぐらい慌てちゃった。」

「最初は怒ってたんだよ。どうして声をかけてくれなかったんだろう、って。でも、よく考えたらそれだってただの焼きもちだよね?僕の焼きもちで零ちゃんを責めて、泣かせちゃうなんて、僕の方こそエスコート役失格だよね。」

 抱きしめられていて、顔は見えなかったが、口調から辛そうな顔をしているのだろう、と思う。

 違う、かおる君が悪いんじゃなくて、謝ってほしいんじゃなくて、

言葉にしようとすると、余計に涙があふれそうで、零はただ首を横に振る。

「ごめんね、零ちゃんは何にも悪くないよ。ごめんね。もう泣かないで。」

かおるが優しい言葉をかければかけるほど、心の痛みは広がり、これがかおるのオシオキだとしたらどんなオシオキよりも効果的なオシオキだ、と零はかおるに抱きしめられたまま、そんな事を考えていた。

お気に入り登録して下さっている方、ポイントを付けてくださった方、超テンションあがっております☆

これからもあまあまで頑張ります(笑)

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