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いつも君がいた  作者: 遙香
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116:部外者はどっち?



「気をつけろよ、足元。・・・不安なら、掴まれ。」

零の歩調に合わせてゆっくりと歩く駿が、前を見たままかけてくれる言葉に零の心の奥が苦しくなる。かおるならきっと、手を差し出してエスコートをするだろう。そうしないのは、伊織がそこにいる事に配慮してくれる駿の優しさだ。

「うん・・・ありがとう。平気だよ。」

背の高い駿を見上げて答えながら、いつも通り視線を合わせてくれないそっけなさに心がざわめくのを感じた零は、せめて駿に迷惑をかけないようにと少し歩調を速め、笑顔でクラスメイトの元に戻って行った。



「・・・チッ」

零が駿とともにクラスメイトの元へ行き、笑顔で会話を交わしている様子を見た伊織は舌打ちをする。

ひいき目でなくても今日の零は美しい。そんないつもと違う零が今は自分の手の届かないところにいる。

「囲いたい気持ちはわからんでもないが、一歩引く勇気も必要だぜ。」

イライラしている伊織に竹川が声をかける。

「姫さんは、あぁ見えてもちゃんと自分を持ってる。弱そうに見えても、一人でほっといて大丈夫さ。」

うるせぇ、と竹川に毒づいたものの、今の自分の感情がただの焼きもちだと言う事くらいは理解している。だからこそ余計に苛立ちを覚えた。

「そんなに不安か?姫さんはお前の事、好きだって言ってるんだろ?」

カメラに向かって笑顔を向けている零の姿を見つめていた伊織は竹川の言葉に心の中のもやもやを吐き出すように大きく息を吐き出して空を仰いだ。

「不安に決まってる。俺は零を振り向かせただけで、零との距離が縮まったわけじゃない。零の心が俺の方を向いてくれている事は事実だが、こっちを向いているだけで手を伸ばして抱きしめられる距離にはいないからな。」

伊織の言葉に内心驚きつつも、竹川はクラスメイトと笑い合っている零を見てなるほどね、と呟いた。

「まぁ、姫さんを振り向かせたくて必死になってるやつは山ほどいるし、そいつらの事をお前も認めてるってわけか。おまけに、姫さんは壁の作り方も知らないときたら不安にもなるわな。」

そう言う事だ、と竹川の言葉に相槌を打った伊織だったが、ネクタイをゆるめながらにやりと毒のある笑みを浮かべた。

「まぁ、誰が何をしようが、俺は零の手を放すつもりはない。誰にも渡さないし、誰にも触れさせない。・・・俺がそう決めたから、必ずそうする。俺は、有言実行タイプなんでね。」

そう言って零の笑顔に目を細めた。



 「姫、どうぞこちらへ。」

何枚かのグループ写真を撮り、一通りの撮影を終えた後、かおるが零の手を取って花壇脇のベンチに零を座らせる。

「いろいろ、疲れたでしょ?」

にっこりと微笑むかおるの姿は本物の王子様の様で、零は思わず見惚れかけ、慌てて首を横に振った。

「平気だよ。楽しかったし、こんな綺麗なドレスが着られて幸せだし。」

みんなも楽しんでくれてたみたいでよかった、と自分たちのカメラや携帯で写真を撮り合っているクラスメイトを見て零は続ける。

「僕たちも、自分たちの写真、撮ろうか?」

携帯持ってる?と尋ねられた零は着付けてもらった後、慌てていてかおるの部屋に鞄を置いて来た事を思い出す。

「私、かおる君の部屋に鞄、置いてきちゃった!」

せっかくだから写真撮りたかったな、としょんぼりする零に優しく微笑んだかおるは、胸の内ポケットからカメラを取り出した。

「この前寮のみんなで買いに行ったカメラ、持ってきたからこれで撮ろう。」

はい、笑って?とカメラを向けられた零は、私一人で?と首をかしげながらも笑顔を向ける。花の蕾がほころぶようなやわらかな笑顔をもっと見ていたいと言う思いを振り切ってシャッターを押し、保存された画像を見て微笑む。

「この写真は僕だけの宝物にしようかな。薔薇の妖精の写真は誰にも見せたくないから。」

零ちゃんにだけは特別に、後で渡すからねといたずらっぽく笑ったかおるは、刺さるような怒りが自分に向けられている事を感じつつ素知らぬふりをしてゆっくりと振り返った。

「伊織、何か用?部外者は外してもらえると助かるんだけど。」

言いながら、さりげなく自分の身体で零の姿を隠したかおるは、伊織の肩越しにあきれ顔をしている竹川の視線を感じつつも伊織の視線を受け止める。

「俺は自分の女に好き放題手出しされて黙って見てる程お人好しじゃないんでね。もう撮影は終わったんだろう?だったら、部外者はお前の方だ。」

行くぞ、と差し出された伊織の手。かおるに向けられた鋭い視線とは違って、悲しみにも似た感情が揺れる瞳に零の鼓動が跳ねる。

「伊織君、あの・・伊織君も一緒に・・・写真、撮らない?」

伊織の手につかまって座っていたベンチから立ち上がりながら、零は躊躇いがちに口を開く。今まで一度も写真を撮った事がない伊織は、もしかすると写真を撮る事が嫌いなのかもしれない、と思うと誘う事で気分を害するのではないかと思うと少し怖かった。

「あぁ、いいぜ。・・・そんな顔すんなって。」

零が時折見せる、自分に対して怯えているような表情に伊織は苦笑しながらコルセットで絞められた零の腰を抱き寄せる。いつも以上に華奢に感じる零の身体は少しでも乱暴に扱えば簡単に壊れてしまいそうに思えた。

「せっかく優秀なカメラマンがいるんだ、撮ってもらおうぜ。」

刺のある視線をかおるに投げた伊織はそう言って腰を屈めて零に頬を寄せた。

「い・・伊織くん?」

頬が触れる程の距離に零は思わず身体を離そうとするが伊織の腕は思うよりも強い力で零を拘束していて、身動きができなかった。

「どうかしたのか?いつももっと触れているのに・・・」

毒のある瞳で笑いかけられた零が慌ててそう言うんじゃなくて、と伊織の言葉を遮ると、伊織はあぁそうか、と艶っぽい瞳で零を見つめた。

「もっと近づいた方がいいのか?・・・このくらい・・・」

耳に唇を付けて囁かた零は頬が熱くなるのを感じつつ、伊織の腕から逃れようとしたが、逆に伊織の胸の中に閉じ込められてしまった。

「何恥ずかしがってんだよ。俺は散々おあずけくらってイライラしてるんだぜ?いい子にしてないと、このまま・・・」

耳に息がかかる距離で囁かれた零は、クラスメイトの視線も忘れるほど動揺しながら伊織の腕の中でうつむいた。



人前でもくっつくの平気な人達はバカップルというのでしょうか。

手を繋いで歩くくらいまでならセーフかな。

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