113:衣装合わせ
卒業アルバムの企画は、零が思い付きで口にした各国の民族衣装で正装しての社交界風景を撮る、と言う案が採用され、撮影の当日がやってきた。民族衣装はかおるが準備してくれていて、どの衣装を選ぶかについて教室内はいつになく盛り上がっていた。
「で、姫の衣装は?」
みんなの様子を笑いながら見ていた零はクラスメイトに声をかけられて振り向く。
「私?かおる君が用意してくれるって言ってたけど・・・まだ見てないんだ。」
そう言えば、と教室を見回してみるがかおるの姿はない。
「こう、ずばーっとスリットの入ったチャイナドレスとかいいよな。」
「佐倉は背が低いから子供用でいけるんじゃね?」
「それ、言えてるな。」
「何よー!どうせチビだけど!!すっごいヒール履いたら大丈夫だもん!」
クラスメイト達と軽口を言い合っていると、教室の扉が開いて竹川が零を呼んだ
「姫!王子が呼んでるぞ。」
姫と王子で良く伝わるものだな、と零は心の中で思いながら、お色直し楽しみにしてるぜ、と言うクラスメイトの声に笑顔を向けて席を立つ。
設定はともかく、綺麗なドレスを着る事ができるのは楽しみで心が躍る。
「お前の彼氏は文句言わなかったのか?」
にやにやと笑う竹川を軽く睨んだ零だったが、その言葉に心の中でため息をついた。文句を言うも言わないも、伊織は何も知らないのだから。ちょうど卒業アルバムの企画の話が出始めた頃から今日まで、家の都合があるらしく寮には戻ってきていない。
何度か電話で話はしたが、わざわざ自分から言い出す事はないとも思ったし、言いだす勇気もなかった。
「まぁ、余計なごたごたは避けたいよなぁ?」
零の心情を読み取ったのか、竹川は楽しげにそう言ってから意地悪な笑みを浮かべる。
「問題は先送りするほど大きくなるって、知ってるか?」
竹川の言葉に零が答えようとした時、かおるの冷ややかな声がそれを遮った。
「先生、姫のエスコート、ありがとうございました。」
零の手をとって自分の方へ引き寄せつつ、かおるは竹川を睨む。
「姫の笑顔を曇らせるような無粋な真似は、なさらないでください。」
それでは、と優雅に腰を折って、かおるは零を連れて校舎を後にした。
「・・・ったく、かおるの姫贔屓も大概だな。」
まぁさっきのは俺も悪かったか、と竹川は肩をすくめながら、衣装争奪戦となっている教室へ戻って行った。
「ごめんね、遅くなっちゃって。」
かおるは寮へ続く構内の道を歩きながら零に微笑みかける。
「みんなはどんな様子だった?」
かおるの言葉に、零はみんなが楽しそうに衣装を選んでいた事を思い出して微笑む。
「すごく楽しそうだったよ!お前はこっちの方が似合う、とか言っていろいろ合わせたりして。」
楽しそうに笑う零の横顔に、かおるはいろいろ手を尽くしたかいがあった、と心の中で思う。
「姫のお気に召すとよいのですが。」
寮に着くと、かおるは自分の部屋へ零を招き入れ、準備したドレスを見せた。
中世ヨーロッパの貴族が着ていたものを再現した豪華なドレス。零の好みに合うようなデザインを選びつつも、かなり個人的趣味を反映させてしまった。
「・・・すごい!本物のお姫様のドレスみたい!」
ドレスを見た零の瞳が輝くのを見て、どうやら気に入ってもらえたようだ、とかおるは内心ホッと息をついた。
「着付けを頼んであるから、着付けが終わったら出てきてくれる?僕は外で待ってるから。」
そう言ってかおるは携帯で呼びだした数人の女性と入れ替わりに部屋を出て行った。
着付けって、と零が戸惑う暇もなく、女性たちは零に制服を脱ぐように指示し、てきぱきとドレスを着せはじめる。
「・・・くっ・・苦しっ・・」
生まれて初めて付けるコルセットに一瞬息が詰まったが、女性たちはお構いなしに作業を続ける。まるで何かの組み立てでも行なっているかのような作業が終わると、椅子に座るよう促された。
「え・・?あの・・」
何を?と問いかけようとした時にはメイク道具を手にした女性に顎を掴まれていた。
目を閉じて、開けて、上を見て、下を見て、と指示されるままに従いながら、相当なフルメイクだな、と心の中で思う。つけまつげなんて付けても似合わないのに、と心の中でため息をついた。
なされるがままに身をゆだねていた零だったが、ヘアメイクまで完了して笑顔の女性たちに解放されてとりあえずホッとする。
「あ・・ありがとう・・・ございました。」
鏡を見たくても、かおるの部屋には姿見が見当たらず、待たせてしまっているかおるをこれ以上待たせるわけにもいかないと零は部屋の扉を開けた。
「・・・零・・・」
部屋の前で壁に背中を預けていたかおるは、零の姿に言葉を失う。ある程度予想はしていたが今目の前にいる零は神の寵愛を一身に受けた天使のようだ。
「あの・・・似合わない・・・よね?」
私まだ鏡見てなくいんだけど、こんなメイクしたことないし、と不安げな零の声に完全に見惚れていたかおるはハッと我に返った。
「僕の美しい姫君・・・僕とした事が、美しすぎて言葉も忘れて見惚れてしまって・・・不安にさせてごめん。」
自分がどんな顔をして零を見つめていたのだろう、と思うと少なからず動揺する自分を抑えつつ、零に歩み寄る。
「花の妖精も、月の女神も、姫の美しさの前にはその輝きを失う程に、今日の姫は一段とお美しい・・・。一瞬も目を逸らせたくないけれど・・・少しだけ、お待ちいただけますか?私も姫をエスコートするにふさわしい服に着替えてまいります。」
優しくて、少し熱っぽいかおるの甘すぎる言葉と視線に零は赤くなって頷いた。
姫って言われてみたいし、
お姫様みたいに扱われてみたい。
そんな願望。そして、ドレスが着たいw
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