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いつも君がいた  作者: 遙香
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010:お仕置き

 

 買い物を終えた零と健が寮に戻ると、倉口さんが部屋から顔をのぞかせる。

「零ちゃん、かおる君と駿君が心配してたわよ、」

「えっ?」

 駿君が・・・?

零の心の中の戸惑いを知ってかしらずか、健が口をはさむ。

「かおるはともかく、駿が人の心配なんかするわけねーじゃん。零ちゃんの足の怪我だって、バカにしてばっかりで全然心配なんかしてなかったのに、」

健の言葉に倉口さんは笑う。

「そう?でも、《佐倉見なかった?》って言って、わざわざ私の部屋に来たくらいだから、心配してたんだと思うけど。健君がデートに連れて行った、って言ったらなんだか怒ってたわよ。」

「ゲッ、駿にまで怒られんのはごめんだなぁ。アイツ、デカいし迫力あんだよなー。」

大げさに怖がる振りをする健を見て零は少し笑うが、心の中でざわめく不安のような影を押さえられずにいた。理由はどうあれ、いろいろと心配して助けてくれたかおるや駿に何も言わずに出かけてしまったのは事実で、そのせいで、ただでさえ嫌われている駿に、さらに嫌われてしまったかもしれない。

「零ちゃん?・・だ、大丈夫さ!とりあえず、この荷物、部屋に置きに行こう。」

《帰ったらまっすぐに僕の部屋に来て・・・》

電話の向こうのかおるの言葉が甦る。どうするのが正解なのか、もはやわからない。

健に背を押されるようにして、零は自室に戻る。健は買ってきた荷物を部屋の中まで運び込むと、零に方に向き直る。

「どっちから謝りに行くよ?」

「とっ、とりあえず、かおる君・・・かな・・・。

多分、二人ともドアの開く音や廊下を歩いてきた物音で帰ってきたことには気付いていると思われ、それが返ってプレッシャーとなっていた。どんな顔で、どんな言葉で謝ればいいんだろう?けど、そもそも、これって悪い事だったのかな?などと様々な思いが心の中を渦巻く。

「そっ、そんな顔すんなよ?大丈夫だって。ちょっと顔だして悪かった、って言えばそれで終わるさ。」

終わらなかったら俺が強制終了させてやるから心配すんな、と健に言われ、零は重い足取りですぐ向かいのかおるの部屋をノックする。

「はい、どうぞ?」

中から、かおるの声がする。

 ドアも開けてくれないんだ・・・。

自分からドアを開けて人の部屋に入るなんて、ただでさえ相手が怒っているとわかっているのに気まずすぎる。そんな零の心中を察してか、健が入るぞ、と声をかけてドアを開けた。

「おかえり、零ちゃん。」

かおるが怒っている事を覚悟していた零は、優しく微笑みながら近づいてくるかおるに少し戸惑う。

「あ、あのっ、勝手に、出かけて・・・心配かけて、ごめんなさい・・・」

かおるの笑顔と言うプレッシャーに耐えかねて、後半の声が消え入るように小さくなる。とてもまともにかおるの顔を見れなかった。

「零ちゃん、」

「は、ハイッ!」

「約束は?」

「えっ?

「ただいまのキスは?」

「何バカな事言ってんだよッ?!」

黙って零の後ろに立って事の成り行きを見守っていた健が声を荒げる。

「健は黙ってて?これは零ちゃんと僕の約束。健には後でじっくり話を聞くから一旦部屋に戻ったら?」

「だ、黙ってられるかっ!お前勝手なことばっか言ってんじゃねーよ。別に零ちゃんは何も悪い事してねーじゃねーかよッ!」

「でも零ちゃんは、悪い事をしたと思ったから謝りに来たんだよね?」

かおるは完全に健をスルーして零に問いかける。

 うっ・・・悪い事って言うか、なんていうか・・・後ろめたくはあったけど・・・。やっぱりこれは悪い事、だったの?

 かおるが怖すぎて思わず謝りにきてしまった、と言う表現が、多分一番正しい気がする。

どう答えるべきか言葉に詰まり、おそるおそるかおるの顔を見上げる。

「そんな可愛い目をしたってダメだよ。今日は許さないって決めたからね。」

かおるはそう言って、身体を屈める。

「ハイ、キスして。」

「えっ、あ、あのっ、わ、私ッあ、あの」

近づけられるかおるの顔に零は真っ赤になった。

 キ、キスって、む、無理、絶対無理。無理!!

「零ちゃん、こんなヤツの相手することねーよ。行こうぜ、」

見かねた健が零の腕をとって部屋を出ようとした瞬間、かおるの腕が零を捕らえる。

「・・ッ!」

「零ちゃん、おかえり、」

背後からかおるに抱きしめられ、チュッ、とわざと音を立ててこめかみにキスをされて、零は完全にフリーズした。

「健、いつまで人の部屋にいるつもり?用事がないなら出て行ってくれると嬉しいんだけどな。」

フリーズしている零を腕の中に捕らえたままでかおるは健をにらむ。

「今から、零ちゃんの足の手当てをしなきゃいけないし、それが終わったら零ちゃんの部屋へ行って、今日買ってきたものの片付けを手伝ったりしなきゃいけないから、僕は忙しいんだ。」

「なっ、おまっお前なぁ!」

「零ちゃんの足がひどくなっていたらただじゃおかないと、言ったよね?」

いつも穏やかなかおるの瞳がスッと冷酷とも思える光を宿す。健が視線を落とすと、出かける前に湿布を外していた零の足首が、赤く腫れている。

「あ・・・」

「きっと零ちゃんは痛いって、言わなかったよね?だけど、これだけ腫れていたら間違いなく痛むはずだし、隣にいてそれに気付きもしないなんて、健はエスコート役失格。だから、退場。」

半ば強引にかおるは健を部屋の外へ追い出すと、腕の中で固まったままの零に苦笑した。


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