009:お買い物・2
もうベタベタの王道ストーリーで申し訳ありません。
どうぞ気長に私の妄想恋愛にお付き合いください。
「今度はあっち!」
「えぇ、まだ行くの・・・」
家具屋、電気屋、雑貨屋のはしごをする零に連れまわされ、健はこの小さな体のどこにそんなパワーがあるのかと関心する。家具や家電などの大きなものは発送の手配をすませ、こまごまとした買い物が延々と続く。
「ねぇほら、これ可愛いよね?!」
零は雑貨屋でおおきなボンボンのついたパステルカラーのルームシューズを見つけて、傍らの健を振り返る。
「あ・・あぁ・・・」
心から楽しい、と言う気持ちがまっすぐに伝わる笑顔に思わず心を奪われていた健は気のない返事をする。
「・・・可愛く、ないかな?」
健のそっけない返事に、零は不安気な声を出す。寮の中で履こうと思ったんだけど、と呟きながらディスプレイに戻そうとする零に健は我に返り、思わずその手を掴んだ。
「えっ?
「あ、いやっ、ごめん、」
零の驚いた瞳にぶつかり、健は慌てて零の手を離す。
「いやっ、その・・・すげー可愛いと・・・思う・・・」
零ちゃんには似合うと思う。と健は最後の言葉を飲み込む。可愛いと思う、と言う健の言葉に、再び零の顔に笑顔が戻った。
「だよねっ!どの色がいいかなー?こんなに選択肢が多いと迷って決められないよ。」
そんな零を見て、あぁ女の子だな、と健は思う。こんなにも楽しそうにするなら、何時間でも買い物に付き合っていられる気がする、と思っていると、不意に携帯がなった。発信者はかおる。
「もしもし?」
いいところで邪魔しやがって、と思いながらも携帯を取ると、あきらかに怒った風のかおるの声が耳に突き刺さる。
「健、今どこにいる?」
「えっ、今?街に出てきてるけど?」
「零ちゃんも、いるよね?」
「いっ、いたらどうだっての、」
「零ちゃんは、足を怪我してるんだよ?本人が痛くないって言ったかもしれないけど、街を連れ歩くなんてどういう神経してるのかな?今日帰って少しでも零ちゃんの足がひどくなってたらどうなるか、覚悟しておくといい、」
「べ、別に俺は無理やり連れ歩いてるわけじゃ・・・」
「それに、足が治ったら一緒に買い物に行こうって、僕が約束していたのに、抜け駆けしたこの落とし前はきっちりとつけてもらうからね、」
「ぬ、抜け駆けなんかしてねぇよ!お前だって昨日からいいとこ取りばっかりしてるじゃねーか!」
電話口で言い争っている健を見て、きっと電話の相手はかおるだ、と零は思う。
「ねぇ、ちょっと、かわってほしいな?」
健の腕をつついてそう言うと、渡りに船、とばかりに健は零に携帯を渡す。
「かおる君・・・?」
「れ、零ちゃん?!今どこにいるの?部屋をノックしてもいないし、携帯を鳴らしたら部屋で鳴ってるし、心配したんだよ?」
突然零が電話口に出たことで、かおるも少し驚いたようだったが、すぐに冷静さを取り戻す。
「ご・・ごめんなさい。私、よく携帯を忘れるんです・・・。」
冷静に怒られると、思わず敬語になってしまう。
「僕は怒ってるんじゃなくて、心配してるんだよ。零ちゃんに何かあったらって思ったら心臓が止まりそうになったくらい。」
溜息をつくようなかおるの言葉に、零の心も痛くなる。
「ごっ、ごめんなさい。今度からはちゃんと心配かけないようにします・・・」
「分かってくれたならいいけど、でも、
「でも?
「今日のことは、ごめんなさいでは許してあげない。」
「えっ?
「帰ってきたらまっすぐに僕の部屋に来て、ただいまのキスをすること。いいね?」
「えっ?!なっ、・・・切れちゃった・・・」
健の方を見ると、健も肩をすくめて見せる。
「かおるって、すげー横暴だろ?頭良くてよく気が付いて、基本優しいんだけどさ、気に入らないことがあると超こえぇし。」
すごく、同感。横暴と言うか、強引と言うか・・・。
「・・・帰ったら、一緒に謝りに行ってくれる?」
一人で、かおる君の部屋へ行く勇気なんかないし。
「あぁ、いいぜ。二人で怒られた方がまだマシだもんな。っつか、何で俺達がかおるに怒られるんだってのなぁ?」
やってらんねーぜ、と言いながらも、お互いに少しずつ、後ろめたいところもあり、顔を見合わせて諦めたように笑う。
「零ちゃん、それ、零ちゃんには白が似合うと思うぜ。白にピンクのヤツ。」
思い出したように健はそう言い、それでいいなら買ってくるよ、と笑顔を向ける。いいよ、と遠慮する零を健は制する。
「お近づきのしるしと、零ちゃんの足がまだ完治してないのに連れ出したお詫びと、俺の株を上げるためにプレゼントさせてくれよ。」
必要なものを一通り買い揃え、不必要と思われる小物までいろいろと買い込んだ零は、その荷物の大半を健に持ってもらっている事を心苦しく思いながら、早々に寮へ帰ることにする。買い物をしているときは楽しくてテンションが上がっていたのか、全く痛くなかった足が気付くとまた少し腫れて痛み始めている事も、零の心を憂鬱にした。
かおるにどうやって言い訳をすれば許してもらえるだろうか、と考えるが論理的で隙のないかおるを丸め込むことは難しいだろうと思われ、知らず知らずのうちにため息が出る。
「ちょっ、零ちゃんこっち来て、」
零がもんもんと帰ってからの《かおる対策》について考えていると、不意に健に腕をひっぱられる。
「ど、どうしたの、急に、」
「アイツら、北高のヤツらだ。」
「??」
健の視線の先をたどると、大通りを隔てた歩道を前から歩いてくる高校生の姿がある。まだ少し距離があってはっきり顔は見えないが、雰囲気からもあまり良い印象は受けない。
「この辺りでハバきかせてるヤツらさ。関わったらロクな事にならない。零ちゃん可愛いからさ、あんなヤツらに目をつけられたら大変だし。」
見られないに越したことはない、と健は言い百貨店の中に入る。
「この中を抜けていけば大丈夫。ホント、ロクなヤツらじゃないからさ。しょっちゅう警察沙汰になってるし、喧嘩っ早いし。」
「そうなんだ・・・」
確かに、見た目から怖そうだったな、と零は思う。派手に着崩した制服も、威張ったような歩き方も。
「これから街へ出た時も、絶対関わらないようにな。女の子拉致ったとか言うウワサも聞いたことあるし、ホントにロクなヤツらじゃないからさ。」
「拉致った、って・・・」
絶句する零に、大丈夫、と健は笑いかける。
「今日は俺がいるから大丈夫。零ちゃんのことは、俺が守るよ。」