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ロマンティック・ドライブ ~武闘派大学生は極上セレブと謎を解く~  作者: 如月 紬


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Ⅳ 武道演武

 午後二時になろうとする頃、妹・クラリッサとともに大ホールに現れたユリウスは、最前列中央の特等席に座っていたスーツ姿の二人に声をかけた。

「ご苦労」

「ユリウス様」

「それでは我らはこれで」

 スーツの二人組は立ち上がって兄妹に席を譲ると去って行った。ユリウスが予め秘書に場所取りをさせていたのだ。

 そして午後二時。大ホールのステージに黒帯を締めた白い道着姿のエドウィンが現れた。普段の物腰柔らかな雰囲気は消え去り、凛々しく堂々と観客の方を向いて立つ。

 エドウィンは観客席に向かって礼をすると、裂帛の気合とともに、演武を開始した。

「ハッ!」

 空気を切り裂くような美しい上段蹴りや、一寸のブレもない突きを繰り出し、その一挙手一投足が空気を割く音、道着が擦れる音さえもが響く。

 最前列中央の特等席で、ユリウスは息をすることさえ忘れたようにエドウィンを見つめていた。道着の隙間から覗く鎖骨や、動くたびにしなやかに躍動する筋肉のライン。美しく、それでいて強靭な想い人の勇姿に、ユリウスの胸が激しく高鳴る。

 そして兄がエドウィンに目が釘付けになることを見越し、自身のスマホを構えていたクラリッサはエドウィンの演武の一部始終を録画し続けた。



 見事な演武が終了してエドウィンが再び礼をすると、一瞬の静寂の後、割れんばかりの大喝采と拍手がホールを包み込んだ。頬を紅潮させたユリウスとクラリッサも、彼の勇姿に惜しみない拍手を送る。

 エドウィンが退場すると、クラリッサは軽く兄を小突いた。

「兄様、エドの演武、バッチリ録画したわよ」

「何!? お前という奴は……何て気が利くんだ! さすが我が妹!」

 得意げな妹にユリウスは満面の笑みを向ける。

「兄様はエドから目が離せなくなるって、わかっていたもの。今、動画を送るわね」

 ユリウスはスマホを取り出し、妹から送信されたエドウィンの動画を感動しながら見つめた。

 こうして、地区武道大会優勝者であるエドウィンの武道演武は、大成功のうちに幕を閉じたのだった。



「焼き菓子、完売したわ」

 演武を終え、元の服に着替えたエドウィンが戻って来ると、マリルーが得意げに言った。そして……

「エド……君の演武、素晴らしかったよ」

 一足先に戻っていたユリウスがうっとりとした目で賞賛し、スマホの画面をエドウィンに向ける。そこには演武を披露するエドウィンが映っていた。

「先ほどの武道演武の録画だ。これでいつでも君を見ることができる」

 ユリウスに熱っぽい目で見つめられた上、自分自身の姿を彼のスマホ画面に見て、エドウィンの顔がはっきりと赤くなった。

「は、はは……え……と、演武、見てくれてありがとうございました」

「……さあて。焼き菓子も完売したことだし。学園祭が終わるまで私もちょっと観てまわりたいな〜! エド、一緒に来てくれない?」

「ああ、行くよ!」

 ぎこちなく笑いながら固まってしまった兄が気の毒に思えてマリルーが声を上げると、彼女の提案を渡りに船、とばかりにエドウィンが手を上げ、『私も!』とクラリッサが言い、必然的に保護者のユリウスも手を上げ、皆で協力してブースを片付けた後、学園祭へと繰り出した。



「……エド」

 彼らのように撤収を始めた出店をポツポツと見かける中で、マリルーとクラリッサの後ろをエドウィンと並んで歩いていたユリウスが口を開いた。

「普段、忙しいか?」

「え? 忙しいかどうか……ですか? うーん……課題も多いし帰宅後もじいちゃんの稽古があるけど、他に何もできないほど忙しいわけではないです」

 ユリウスの質問の趣旨がわからなかったが、エドウィンは正直にそう答えた。

「そうか! それなら他のことを考える余裕もあるか?」

「他のこと? 学業や稽古以外のことですか? ええと……今は新しく何かを始めようとは思ってないです……」

「そうか……」

 勢いよく尋ねたユリウスだったが、エドウィンの言葉にひどくガッカリする。

 ――一体、何なんだろう?

 エドウィンは不思議に思ったが、問うことはしなかった。



 それから、近況や大学のことなど、他愛のない話をしながら、まだ開いている店や催しを幾つか回った後、四人は帰路に就くため、駐車場へとやってきた。

「ユリウスさん、クララさん、今日は来てくれてありがとうございました。楽しかったです」

「こちらこそ、案内してくれてありがとう。とても楽しかったよ」

 兄妹に向き直ってエドウィンが言うと、ユリウスは微笑んで返したが、すぐに笑みは消え寂しさを滲ませる。

「……次に会えるのはいつになるだろう」

「いつでもハーバータウンへ遊びに来てくださいよ! 俺、案内しますから!」

 エドウィンの言葉を聞いた瞬間、ユリウスは世界が輝いたように感じた。

「ああ……! ぜひ……伺おう」

 穏やかな優しい目でエドウィンを見つめ、ユリウスが答える。

 無邪気に『やった!』と喜ぶエドウィンの横で、『あーあ、言っちゃったよ……』と言わんばかりの顔で兄をチラ見したマリルーが小さく溜息を吐いた。

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