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ロマンティック・ドライブ ~武闘派大学生は極上セレブと謎を解く~  作者: 如月 紬


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Ⅳ 双子探偵、始動!

 祖父の車で向かったエドウィンとマリルーがヴァルム美術館に到着したとき、時刻は午後三時になろうとしていた。一足先に到着していたユリウスが二人を出迎える。

「エド、ルー、すまない」

「いえ」

「事情はエドから聞きました。ヴィスタのことも。私にも協力させてください」

「ああ、ありがとう。……だが来てもらってなんだが、私は各所へ状況を報告しなければならないんだ。とりあえず二人で調べてみてくれるかい?」

「わかりました」

「この件についてニールさんの他に何か知っていそうな人はいますか?」

「うむ……ニール以外では企画展のキュレーターであるグレンダだな」

「では、当たってみます」

 双子は互いに頷き合った。



 双子はまずベテラン警備員であるニールを訪ねた。彼は体格のいい壮年の男性で、エドウィンとマリルーの聞き込みにも好意的に協力してくれた。

「実は像が消えた時間帯に警備室へ『美術館の北東部分から煙が出ている! 火事かもしれない!』という電話があって、拝観者はアナウンスに従って皆、外に出たんだ。警備員もスタッフも火元を確認するためにほとんどが建物の北東に向かった。そのときはあんなことが起こるなんて思いもしなかったからな……」

 ニールが弱ったように後頭部に手を遣る。

「電話の声の感じは?」

「若い男の声だったな」

「そうですか」

 二人がメモを取る。他にも二、三質問したが、目ぼしい情報は得られなかったため、ニールへの聞き込みはそこで切り上げた。



 次に二人はグレンダを訪ねた。彼女は眼鏡をかけた知的な女性で、少々気難しそうだったが、ユリウスの依頼であることを話すと二人に協力してくれた。

「実は企画展を巡って、展示品の選定に不満を持つ若手作家がいたのよ」

「若手作家……誰ですか?」

「アニェッロ=ディ・ビアージョ。でも動機はあっても証拠がないわ」

 マリルーの問いにグレンダは眼鏡をクイ、と指で上げた。

「それから、像の台座に僅かな汚れがあったの。……まあ、私が説明するより実際に見てみた方が早いんじゃないかしら?」

「そうですね。現場を見ることはできますか?」

「ええ。私が一緒なら大丈夫よ」

 グレンダはエドウィンに答えて、二人を“沈黙のヴィーナス”像が展示されている部屋へと案内した。



 展示室に入ると、二人は展示ケースを観察した。“沈黙のヴィーナス”は高さ130㎝ほどの、青銅製の美しい女性の立像だった。見ると確かに像の位置が僅かにずれていて、台座に僅かな汚れもある。つぶさに観察したが、エドウィンには何も発見できなかった。

「これは……」

 一方、マリルーは像の表面に顔料の微細な粒子が付着しているのを発見し更に、像の滑らかなブロンズの肌に、髪の毛ほどの細さの、目立たない半透明な筋状の跡が不規則に残っているのを見た気がした。それは何かを塗ったような、微細な筆の跡だった。

 そのときエドウィンがケースを上から覗き込み……付着した粒子が陰になった途端、色が変わったように見えた。

「エド、ちょっと離れてみてくれる?」

「ん? ああ」

 エドが離れると、粒子の色が元に戻った。マリルーがグレンダに向き直る。

「グレンダさん。ビアージョ氏は何か……特殊な顔料を作品に使っていたりしますか?」

「ええ、そうね。彼は光を当てると色が変わる特殊な顔料を使った作品で注目を浴びているわ」

 ――光を当てると色が変わるってことは、陰になった場合も色が変わるのかしら?

 マリルーはスマホを取り出し、ビアージョ氏の作品を検索した。すると……

「やっぱり。彼が開発したという顔料を塗った作品は光があるところとないところで色が変化しているわ。どうやら間違いなさそうね。エド、ユリウスさんに報告しましょう」

 マリルーは自信に満ちた笑みを浮かべて、言った。



 マリルーの鮮やかな推理を聞いたユリウスが、すぐさま弁護士を通じて若手作家アニェッロ=ディ・ビアージョ氏に連絡を取ったところ、すべてが明らかになった。

 ことの顛末は、展示会の選定に不満を抱いていたビアージョ氏が、ブロンズ像に加工を施す機会を狙って一般客を装い館内に待機していたところ、偶然にもボヤ騒ぎが起こり、無人となった展示室でここぞとばかりに像へ特殊な顔料を塗り込んだというものだった。

“彼の作品もこの像と同じ場所で展示される価値がある”という、独り善がりな彼なりのメッセージだったらしい。結果として、像への損傷は軽微だったため、今回はユリウスの寛大な処置もあり、示談という形で決着がついた。



「これで一安心だな。二人とも、本当にありがとう」

「お役に立ててよかったです」

 美術館のロビーで、ユリウスが心からの安堵の笑みを双子に向け、エドウィンが爽やかに返した。

 トラブルが解決したとき、外は茜色に染まっていた。ユリウスはわざわざ協力してくれた二人の優しさに改めて深く感謝し、彼らを温かく見送ったのだった。

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