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ロマンティック・ドライブ ~武闘派大学生は極上セレブと謎を解く~  作者: 如月 紬


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第一話 盗まれた未来予測 Ⅰ 研究データの盗難

 エドウィンが大学に進学した初めての春のことだった。友達もでき、学業も順調。そんな楽しいキャンパスライフを謳歌していた、ある日。平和な構内で突如、学内アナウンスが響いた。

『経済学部棟八階研究室フロアは、設備点検のため当面立ち入り禁止とします。なお、シモンズ教授の講義は本日以降、暫く休講となります』

「どうしたってんだ?」

 エドウィンと一緒にいたライリーが首を傾げる。彼はエドウィンと同じ学科の同級生で中肉中背、金髪碧眼、リバースショートのフツメンである。シモンズ教授は経済学の権威で、政府高官から政策に対する助言を求められることもある知識人であり、二人はまさに彼の講義に向かうところだった。

「? 大学の事務室からだ」

 そのときスマホが鳴り、エドウィンが電話に出る。

『経済学部一年のエドウィン=ベネットですね?』

「はい」

『至急シモンズ教授の研究室へ。教授がお待ちです』

「わかりました。すぐに行きます」

 なぜ自分が呼び出されるのかわからなかったが、即座に答えて電話を切った。

「電話、何だったんだよ?」

「それが……立ち入り禁止のフロアにあるシモンズ教授の研究室に来いって」

 怪訝な顔で聞くライリーにエドウィンが答え、彼と別れると研究室へと足を向けた。



 経済学部棟八階研究室フロアに行くと『立ち入り禁止』と書かれたスタンド看板が置いてあったが、呼び出された身のエドウィンは構わずにシモンズ教授の研究室を目指した。

 研究室には教授と助手、研究員、更に大学の事務員がいて、皆一様に深刻な顔をしており、エドウィンの姿を見とめると教授は白い眉を上げた。

「おお、エドウィン。よく来てくれたね。実は困ったことになってのう……」

 豊かな白い髭を落ち着きなく撫でながら、教授が眉間に皺を寄せる。

「どうやら“未来の経済予測モデル” に関するデータが盗まれたようなのじゃよ」

「え……」

「あのデータは特定の企業にとって巨額の利益をもたらす可能性があるのじゃ」

 シモンズ教授の研究は常に注目を集めているが、“未来の経済予測モデル” に関するデータは特に機密性が高いはずだった。

「教授。いつ、どのようにデータが盗まれたかは分かっているんですか?」

 エドウィンは“なぜ自分が呼ばれたのか”よりも、即座に事の重大さを理解して、尋ねた。

「昨日の夜から今朝にかけてじゃろう。施錠はされていたが、物理的な破壊の痕跡はない。私しか使えないはずの認証を、誰かがすり抜けた形跡がある。誰か、私の研究の仕組みを深く理解している者による犯行に違いない」

 教授が答えて彼の言葉を受け、傍らの痩せた男性が続けた。

「幸いにも外部に送信した履歴はなかった。だがコピーされている恐れがある。内部の者による犯行である可能性が高いが故に、君も含めてこの場にいる者で大学の内部調査チームを結成した。君を加えたのは、君が情報・統計・データ分析に優れていると、ビートン助教授が君の名前を挙げてくれてね……」

「そして儂の推薦じゃよ」

 シモンズ教授が柔和な笑みを浮かべて、言った。

「君、オフィスアワーに来ていたじゃろう? 儂の研究テーマに強い関心を示していたのを覚えておるよ。この前の統計解析の課題でも学年トップだったではないか。正式な調査は警察と大学本部が行うにしても、我々が何もしないわけにはいかん。君には特別協力者として学生の視点から協力してほしいんじゃ」

「俺のことを覚えていてくださったなんて、光栄です」

 まさかシモンズ教授が自分のことを覚えているとは思わなかったエドウィンは、思わず背筋を伸ばした。

「自己紹介が遅れたが、事務員のダンだ。ではメンバーが揃ったところで今から大学主導の初動調査を行う。エドウィン、君は監視カメラの映像を確認するために私とともに監視室に来てくれ」

 痩せた男が言い、エドウィンは力強く頷いた。



 映像には夜間に研究室へ出入りする数人の大学院生や研究員の姿が残されていた。

「……ん?」

 その中で映像の端に、ある研究員の姿が映った。彼は夜遅く研究室のドアを施錠し、廊下を歩いていく。一見、何事もない日常の動きだが、エドウィンは違和感を覚えた。

 ――今の動き……何だか不自然だ。

「あの。ここ、もう一度見てもいいですか?」

 エドウィンはダンに許可を取り、映像を巻き戻した。その研究員は施錠を終えて振り返った瞬間、一瞬だけ肩の力が抜け、体の重心が微かに前に傾いた。それはまるで“緊張が解けた一瞬”または“何か重いものを背中から降ろした直後”に見られるような体の反応だった。

 ――ただの施錠にしては緊張し過ぎている。まるで大きなミッションを終え、警戒心が緩んだときのような……

 エドウィンはその研究員が首から掛けているIDカードをズームして確認し、彼の名前『ジョン=モロー』をメモした。

 ――そう言えば、彼はシモンズ教授と意見を対立させているライバルのローパー教授の研究室に出入りしているという噂があったな。

 エドウィンの頭にそんな情報が掠める。

 その後もエドウィンは事件のあった時間帯の映像をすべて見たが、それ以外に取り立てて気になるところはなかった。

「これから警察が来て、捜査することになっている。本日の我々の調査はこれで終わりだ。わかっているだろうが、データ盗難の件は他言無用だ。何かわかったら私に報告するように」

 ダンは言い、そこで解散となった。

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