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2作目です。よろしくお願いします。
その日、木賊は機嫌が最悪だった。
喧嘩の後だからか、教師の説教の後だからか――理由なんて、吐き気がするほどどうでもいい。
ただ、うるさかった。
誰かの笑い声も、値踏みするような視線も、皮膚を刺す外気のすべてが、今の彼には耐え難いノイズだった。
「……どっか、静かなとこねぇかな」
学校の屋上など施錠されていて行けるわけもない。かと言って家にも帰りたくない。どこか外で時間を潰すとしても、いつもの様に他校の生徒に絡まれるのも面倒だ。
吐き捨てるように呟き、無意識に足が向いたのは図書室だった。
扉を開けると、反射的に視線が集まる。そして、腫れ物に触れるように、すぐに逸らされる。小さなざわめき。椅子の引く音。数人が慌てて席を立ち、別の場所へ移動するか、逃げるように図書室を出ていく。
……なにもしねぇよ、くそったれ。
この、自分が動くたびに波紋のように広がる「反応」そのものが、余計にイライラを加速させた。
「……一番奥、か」
以前、サボる場所を探して見つけた場所を思い出す。
中央の作業スペースと巨大な本棚を挟んでさらに奥。窓際の、隠れ家のようにひっそりとした数人掛けの席。
そこで昼寝でもするか
本棚を通り過ぎ、目的の場所を目にやると、一人の女子がいた。長い癖のないまっすぐな髪が、背中にそのまま落ちている。微動だにせず、本に視線を落とす姿に、まるで人形のようだと木賊は思った。
ページをそっと捲る姿を見て、はっと我に帰る。
チッ、先客がいたのかよ。
先ほどの生徒たちのようにこちらが近づけば、何もしなくても勝手にどこかに行くだろう。そんな気持ちで、木賊は一歩を踏み出した。
数歩、彼女に近づいた瞬間だった。
ーー世界から、音が消えた。
自分の足音が消える。苛立ちに任せて鳴らしていた鼻息も、衣服が擦れる音も。数メートル後ろから聞こえていた、ページを捲るかすかな音さえも。
「……は?」
呆気に取られ、口を開く。だが――声が出ない。いや、喉は震えているはずなのに、鼓膜に届く振動がどこにもない。
周囲を見渡すが、景色に変わりはない。
だが、そこは明らかに異質だった。“音のある世界”から、カッターで四角く切り取られたような完全なる無響室。
そして、その中心にいたのは。
先ほどから微動だにしない、あの女子だった。彼女は、こちらの困惑に全く気づいていない。
ただ静かに、凪いだ水面のような横顔で本を読んでいる。
彼女が静かにページを捲る。白い指先が紙の端をなぞる。その確かな動作にさえ、音という現象が伴わない。
まるで、彼女の周りだけ時間の流れが止まっているかのように。
「……なんだよ、これ」
不気味さに、彼女の肩を叩いて問いただそうと手を伸ばす。だが、指先が触れる直前で、木賊は動きを止めた。
……いや、待て。
静かな場所が、欲しかったはずだ。
誰もいない、邪魔の入らない場所が。
なら――今、目の前に広がるこの異常な空間は。
「……ちょうどいい」
手を下ろし、何度かその境界線をまたいでみる。やはり彼女を中心とした一定の範囲だけ、音が消えている。
木賊は彼女から少し距離を取り、境界ぎりぎりの席に腰を下ろした。乱暴に机に突っ伏す。
――何も、聞こえない。
自分の心臓の音すら、消えたみたいに遠い。
耳の奥に詰まっていた何かが、すっと抜け落ちていくような感覚。
さっきまであれだけ苛立っていたはずなのに、その感情がどこへ行ったのか、自分でも分からなかった。
こんな静けさは、初めてだった。
気がつけば、意識がゆっくりと落ちていく。
瞼が重い。
……なんか、いいな。
そう思ったところで、思考が途切れた。
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