6 あの頃
「すごー、美緒ちゃん、めっちゃ上手いね」
目の前の一点に沈んでいた意識が、ゆっくりと水面に浮き上がるように引き戻された。私は小さなキャンバスに青を塗っていた平たい筆を離し、水につけた。
声が聞こえた方を見やると、左肩あたりに彼女の顔があって、私の手元をじっと覗き込んでいた。
「空のグラデーションいいね、あと雲の感じとか」
「……そうかな」
私はそう言いつつ、そっと彼女のキャンバスを覗いた。そこには、あるアニメのワンシーンが、見事に再現されていた。
どこまでも青く透明な海に沈む線路。その先へと、靴を手に持って駆けていく一人の少女。
「あかりちゃんの足元にも及ばないと思うけど」
そのままポスターにしても違和感がないほど完成されていた。美術部でもないのに。
「えー、ありがとう」
彼女は謙遜することなく褒め言葉を受け取り、顔をほころばせた。
一年生の頃だけ週に一度あった美術の授業。私はこの授業の緩さと穏やかさが好きだった。
――キーンコーンカーンコーン。
「起立ー」
あちこちでガタガタと椅子を引く音がする。
「ありがとうございましたー」
級長の号令に従って、皆ばらばらと挨拶をしながら礼をする。
「行こう」
彼女が私の背中を軽く押した。




