表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教室移動の特権  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

5 侵入者

「おまたせ」

 揺れるキーホルダーを、ぼんやりと眺めていた。

 不意に斜め上から降ってきたその声に、私ははっと意識を取り戻す。視界に入ったのは、チャームのたくさんついたクロックス。彼女だ。

「うう、ん……」

 ゆっくりと顔を上げた私の視線は、彼女の背後の人物に固定された。

「今日、由奈いないから、晴音も一緒に」

 そう告げる彼女の後ろで、市原さんが軽く会釈をした。 

 

「由奈、大丈夫かなー」

「あー、昨日マック食べ過ぎて、お腹痛いらしいよ」

「マジ? なんだ、自業自得じゃん」

 二人の笑い声が廊下に響く。それを聞きながら、私は少しずつ歩くペースを緩めた。

 横にいた彼女がそれに気づいて、あ、と目を開いたのを、視界の端で捉える。私は、廊下の汚れが気になった振りをして、すっと顔を背けた。

「あかりは、ハンドボールだっけー? 」

 市原さんが楽しげな声で彼女に聞いた。左手に持ったバドミントンのラケットを足で蹴りつつ、右腕を彼女に絡ませて、甘えるようにもたれ掛かって。

「そーそー。晴音はバドだよね」

 彼女はそう言ってから、振り返って私を見た。

「美緒ちゃんは、サッカー? 」

 ――やめて!

 市原さんがちらりとこちらを一瞥した。

「……うん」

「サッカーもいいよねー。今どんな練習してるの? 」

 視線を向けなくても、チクチクと敵意のこもった視線が突き刺さってくるのを感じる。私は彼女の交じり気のない善意に、申し訳ないけど思いっきり舌打ちしたい気分だった。

「なんか、コーン並べて、間をジグザグにドリブルしたりとか。最近はあんま練習しないで、試合ばっかしてる」

「えーいいなー。試合のが楽しいよね、ね、晴音」

 彼女が市原さんに話を振って、私はこわごわと市原さんの様子を覗き見た。その瞬間、バチッと音がしたと錯覚するくらい、しっかりと目があった。

 唇の端が、片方だけ、醜く吊り上がった。

「へぇー、サッカーなんだ。卓球かと思った」

 ――へぇー、サッカーなんだ。卓球かと思った。

 身体の底から、熱が、ブワッと頭のてっぺんまで駆け上がった。

「えー、なんでー? 」

 彼女が不思議そうな声で言った。

「まぁ、なんとなくー? 」

 市原さんが、私を見て、くすりと笑った。

 こんなどうでもいい話してないで、早く行こうよ。

 市原さんが笑いながら走り出した。棒立ちになった私を置いて、彼女の手を取って。

「えー、もう、なんなのー」

 彼女も笑いながら、市原さんに引きずられるようにして走って、途中、困った顔で振り返った。

 私も、走ってついていったほうがいいのかな。

 ちょっとだけ迷って、でもやっぱり、私は優しい彼女に手を振って、一人でゆっくりと歩き出した。

 笑い声を響かせながら、やがて二人は廊下の角を曲がって、見えなくなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ