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1/5

1 出会い、そして開いた距離

「名前、なんていうの?」

 春の風がすっと足元を通り抜けた。散り積もった桜の花びらが、もう一度宙に舞った。

 私はその声にぱっと振り向く。

「わ、私?」

 彼女は無表情のままこくりと頷いた。それを見たら、頬の力がふっと抜けて勝手に笑みがこぼれた。

「私、美緒っていいます」

 風が止んだ。花びらが、地面の上にそっと降りた。


 −−あの日から、もうすぐ三年が経つ。

 私は冷たい廊下に出ると、教室の窓にもたれ、自分の黒のクロックスのつま先を見つめた。霜月の半ばの空気は冷たく澄んでいて、乾燥してひりつく肌に染みた。

「おまたせ」

 視界の端に、かわいいチャーム付きのクロックスが現れると、私は顔を上げる。

「ううん」

 私は首を振り、彼女と並んで歩き出した。窓の外の空は、ぼんやりとした薄灰色の雲に覆われていた。

「なんか、雨降りそうだね」

「そうだね……」

 最初にそう言葉を交わしたきり、私達は無言のまま歩みを進める。気まずさを持て余し、私は左手の指に体育館シューズが入った袋の長い紐を巻き付けながら歩いた。

 高校に入学して、彼女と知り合ってから三年。

 私は紐を解いて、赤く跡のついた指を見ながらぼんやりと考えた。この三年間で私が得たもの。怠け癖と、劣等感と、穴だらけの知識。そして、今隣を歩く彼女。

「あかりー」

 通り過ぎた教室の前で、誰かが大きな声で彼女を呼んだ。振り向くと、派手な雰囲気の女の子たちが、騒ぎながらこちらに向かって手を振っていた。まるで、芸能人の出待ちをする熱心なファンみたいだ。

「おー」

 わざと、とりすました表情で手を振り返す彼女。鼓膜を突き破るような、高くてけたたましい笑い声と、ふざけた黄色い歓声がいくつも上がった。

「あかり、人気者すぎー」

 彼女の高い位置で結んだポニーテールが、笑うたびに左右に揺れた。コテで緩く巻いた髪、薄ピンク色のふわふわのシュシュ。

 この三年間で彼女が得たもの。忍耐力、コミュ力、真面目にコツコツと勉強を重ねた結果の膨大な知識。そして、たくさんの友達。

 同じ場所から始まったはずだった。

 今、肩が触れそうな距離にいる彼女。でも私は、間に先の見えない長い階段があるのを見てしまった。

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