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幻魔討滅ヱレキテル ~奇妙奇械奇々怪々~  作者: 和扇
第一章 夕月女学院七不思議
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第八討 噂ハ乙女ノ花

 二人は甘味をさかなにワイワイと話の花を咲かせる。

 担任教師が厳しいだとか、先輩後輩がどうだとか、帝都組の派閥争いが面倒だとか、隣のクラス誰某だれそれが密かに男子と交際しているようだだとか。特に最後の噂は、甘味の極上のともである。


 古今東西、乙女とはそういった噂話に敏感で、それを嗜みとするものと相場が決まっているのだ。


「あ、そうだ。噂といえば、ユウコは七不思議って知ってる?」

「なによ、藪から棒に」


 噂という単語でとある事を思い出したヨーコの言葉に、ユウコは怪訝けげんな顔で答える。


「いやぁ、ちょっとね……。私、あんまり詳しく知らなくて」

「ふぅん、与太話オカルトに興味でも出たのかしら?」


 ユウコは頬杖をついて、揶揄からかうような目を向けた。


「そーゆーわけでは無いんだけど。ちょっと知人?が気になってて?さぁ…………」

「なんでそこで、疑問符を言葉に載せるのよ」


 知人と言えば知人、雇用主。七不思議に興味を持っているのは確かだが、世間一般において与太話オカルトを好む者の方向性ではない。である以上、ヨーコの頭の中では疑問符が湧いてしまうのだ。


「まあいいわ。そうねぇ、私も知ってはいるけれど……」

「ご教授お願い致します、ユウコ先生っ」

「うむ、よかろう。心して聞くがよい」


 机に手を置いて平伏するように深々と頭を下げる。先生となったユウコは、存在しない口ひげを摘まむような仕草で返した。


「さて、何から話したものかしら」


 顎に手を当てて、ふーむと唸って考える。彼女が知っている不思議、その内で話し始めに良さそうなものを頭の中で選択した。


「じゃあ、舶来庭園()怪について」


 ニヤリと笑み、ユウコは話し始める。


「その日は雨が降り続いていたと言うわ。そんな中、一人の中等学校の生徒が帰り道を急いでいたの」


 暗い校舎の中を彼女は走る。階段を下り、下駄箱で履物を変えて。一歩外に出た彼女は雨が降り続く空を見て、憂鬱そうに紙張りの傘をさす。


「足早に進む彼女は、舶来庭園の中を突っ切って門へと向かっていったわ。彼女は庭園の中の植栽を躱しながら、中央の開けた場所へ出たの」


 庭園の中は緑で一杯。薔薇や百合が咲き、常に花の香で満ちているような場所だ。だがその日は雨に濡れ、湿っぽい臭いで充満していた。中央の広場は、普段ならば憩いの場。生徒たちがお昼を食べたり、お茶をするような所なのだ。


「そこで彼女はソレを見てしまった」

「ソレって…………?」


 ユウコの話しぶりに、思わずヨーコは唾を吞む。まだ外が明るいはずの喫茶店内にって、何故だか周りが暗くなったように感じた。


「剣、槍、斧、弓。四体の戦う騎士石像よ。それを見た彼女は悲鳴を上げてしまった。不幸な事に、ね」


 ユウコの目が怪しく光る。その薄紫の瞳にヨーコは吸い込まれそうな感覚に包まれた。


「彼女の悲鳴に気付いた石像たち。彼らは戦いを止め、そして…………」

「そして?」


 ユウコはグッと言葉を溜めて勿体もったいぶる。だが、ふっと表情を緩めた。


「ふふ、翌日彼女は広場で見付かったわ」

「なんだ~」


 気が抜けてヨーコも表情を緩める。しかし、話はまだ終わっていなかった。


「ただし、全身がバラバラになって、ね。血だまりの中に沈んでいたそうよ」

「あぇ」


 不意を突かれて変な声が出た。そんな彼女を見て、ユウコはコロコロと笑う。


「はい、このお話はおしまい」

「なるほど~。ユウコは他のも詳しく知ってるの?」

「そうね、一応ひと通りは。あ、でも隣人()怪だけは分からないわねぇ」


 そう言って長スプーンで甘味をすくう。時間が経って少しばかり溶けたアイスクリン(アイスクリーム)を取って口へと運んだ。


「と、こ、ろ、で。一つ聞きたい事があるのだけれど」

「ほえ? なに?」


 ユウコの目つきが鋭くなる。だがヨーコは素っ頓狂な声と間抜けな顔を見せるだけ。少しばかり毒気を抜かれながらも、構わず問いを投げかけた。


与太話オカルトに興味のある知人と貴女、どんな関係なのかしら?」


 にんまりと笑うその表情には、色恋の匂いを嗅ぎ取った乙女(肉食獣)の顔があった。知人に疑問符を付けたヨーコの話しぶりからしてもそれを、い人だったから、と認識しても可笑しくはあるまい。


 普通ならそう感じても問題は無い。のだが、その知人は全くもって普通ではなく、関係性も雇用主以上のものではない。だが異界と幻魔の話をしたら、どこかに頭をぶつけたのではないか、と疑われるのが関の山だ。


「う、ううぅぅぅん…………? んんーーーー???」


 だからこそヨーコは目をつぶり、腕を組んで悩む。何と言えば良いかと考えすぎて、そのまま上体を後ろに横に反らすほどだ。


「何をしているのよ」

「いや、なんと言えば良いかと思って。少なくともユウコが考えてるような関係じゃない事だけは断言しとく」

「あら、残念。じゃあ興味は無いから他の話にしましょ」

「わぁ、気変わりが早ーい」


 話の方向は右へ左へ気ままに動く。与太話から色恋に、と思ったら学院の話へ変わり、いつの間にか街で見付けた店の話になっていた。噂話は立ち上ったと思ったら消える煙のような物、それに関しての会話も同じようなものなのである。


 そうこうしているうちに日は傾き、二人は店を後にした。友人に別れを告げて、ヨーコは歩き出す。こうしてごく普通の乙女の日常は過ぎていった。


「やあ、奇遇だねぇ」

「げ」


 そして、非日常(いつも通り)が襲ってくる。

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