伝説のナンバーワン
お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。
今回はちょっと(かなり)エッチなお話となっております。
昔から怖い話とエッチは、切っても切り離せないものです。
それは、人間とエッチが切っても切り離せないものだから
です。こと性風俗に関しては、あの岩井志麻子先生の名作
「ぼっけぇ、きょうてえ」は言うに及ばず、夜鷹や遊郭等が
題材の怖い短編はいくつもあるし最近では「鬼滅の刃」の
あのエピソードも、吉原遊郭が舞台となっていましたね。
人間の実存や宿業を描くにはエロスもタナトスも避けては
通れませんえん。エロスやタナトスの意味が分からない人
はググレカス。そういうわけで(どういうわけだ)思えば
若かったころの私も、エロスとタナトスに囚われリビドー
とコイトスの赴くままに、このお話を書いたのだったんだ。
でもまあ地上波ラジオで放送できたくらいだからそこまで
際どくはありません。大丈夫かと思います。大丈夫ですよ。
きっと。
延長入りまーす♥
ある風俗店で馴染みの女の子とプレイのあと、お喋り
をしていると、面白い話を聞かせてくれました。この
お店には、伝説のナンバーワンと呼ばれる存在が今も
現役で在籍していて、料金は通常の三倍になるけれど
あらゆるテクニックが神がかっているため、一度でも
その技巧の洗礼を浴びた客はすっかり病み付きになり、
仕事も家庭も犠牲にして、毎日のように店に通いつめ、
あっというまに破産して、身を滅ぼしてしまうとか。
中には、命を落とした客もいたらしいと……
「ふーん、三倍かあ……そんなにすごいんだ?」
「ま、嘘か本当かはわからないけどね!」
伝説のナンバーワン。
その後、また店に行ってどの子を指名しようかリスト
を眺めていたら、ふとその言葉が蘇ってきました。
「あのさ……このお店の、ナンバーワンって……?」
「一番人気は何といってもこちらのステファニーちゃん
でございますが、生憎と今は他のお客様のお相手中で
ございます。少しお待ちいただくことに……」
「そうじゃなくてさ、ほら、伝説のナンバーワンだよ!
料金が三倍とかいう、超絶テクニックの……」
スタッフの顔色がさっと変わって、なぜか半ば強引に
店長室に連れていかれました。スタッフから耳打ちを
された店長は、硬い表情で私をまじまじと睨めつけ、
緊張した震え声で問い詰めてきました。
「お客様……一体、どこの誰から、そんな話を……?」
「いやぁ……ここの常連さんから、ちょっと噂を聞いてね」
「伝説のナンバーワン……確かにそのように呼ばれている
コンパニオンはおります。しかし、料金は通常の三倍
ではなく、十倍をいただいております」
「じゅ、十倍?」
「十倍です。そのためVIPクラスのごくごく限られた
方にしかご紹介しておりませんが……どうされますか?」
十倍もの料金はさすがに払えません。
諦めてその日は馴染みの女の子を指名しました。
ところが、ある日思わぬ幸運が訪れました。
たまたま買った馬券が大穴だったのです。
私はその払い戻し金を懐に、あの店に行きました。
「仕方ない……では、今日だけ特別に、ご紹介しましょう」
店長は、伝説のナンバーワンが待つ部屋へと私を連れて
行きました。部屋に入ると強引に目隠しをされ、手錠を
掛けられました。彼女は人に顔を見られるのを嫌がるし、
触れられるのはもっと嫌がるから、とのことでした。
乱暴にマットレスに押し倒され、私は文句を言いました。
「何だこの扱いは! 料金に見合わなかったら訴えるぞ!」
「満足されなかったお客様は一人もいらっしゃいませんよ」
店長はそう言い残し、そそくさと部屋を出ていきました。
苛々しながら横たわっていると、扉が開く音がしました。
誰かが近づいてくる気配と、芳しい香り……
「ご指名ありがとうございます。繭子です」
「繭子ちゃん……君が、伝説のナンバーワン?」
「さあ、どうかしら? それはご自分で確かめてみて……」
そういうと繭子は、私の頬にそっとキスしてきました。
肌に舌を這わせて、微かに震わせ……それだけで背筋に、
痺れるような快感が走りました。やがて、柔らかな指先
とさらに繊細な舌が、私の全身を這い回り、撫でさすり、
刺激してきました。経験したことのない凄まじい快感に
身を捩りました。この子には、一体何本の指と舌がある
んだ? 繭子はおもむろに、私のもっとも敏感な部位に
ねっとりと舌を巻きつけてきました。同時に、湿り気と
熱を帯びた魔法の指が、全身に愛撫を繰り返します。
甘く容赦なく、全身に電気を走らせ、蕩けさせ……
私は何度も、何度も、何度も気をやり、失神しました。
すっかり繭子の虜になってしまった私は、十倍の料金を
捻出するため、食費も生活費も切り詰め、借金までして、
店に通うようになりました。ダメだと分かっていながら、
どうしてもあの温もりと、めくるめく快感が忘れられず、
ついには、犯罪まがいのことにまで手を出す始末……
もちろんそんな状態が長続きするはずもなく、私は体を
壊して、金も信用もなくすと、会社を首になりました。
繭子のもとに通うどころか、借金取りから追われる毎日。
進退窮まった私は、ついに自殺を決意しました。
早晩こうなることは、覚悟の上でした。しかし、せめて
一度だけ……あともう一度だけでも、繭子と会いたい……
繭子と会って、何としても、あの願いを叶えたい!
そのために、あと一回分の料金は確保していました。
最後の日、いつものように目隠しと手錠をされて部屋に
に入りました。繭子が現れて、私の体に指と舌を這わせ
ます。快感に溺れそうになる自分と懸命に戦いながら、
密かに掌に隠しておいたピアノ線で手錠を外しました。
繭子は気づいていないようです。私は自由になった手で、
そっと目隠しをずらしました。
柔らかな曲線を描く、真っ白な和毛の背中が見えました。
それは私の体の上にうずくまり、股間に頭を埋めたまま、
赤い舌を絡めて、無心にその部位を舐め続けていました。
九本の尻尾がまるで蛇のような滑らかさで、自由自在に、
縦横無尽に、官能と快感を引き出そうと、私の体の上を、
淫らに執拗に、しかし愛おしげに這いまわっていました。
驚きと恐怖で、私はすっかり萎えてしまいました。
「あら、どうしたの? 何だか、急に……」
繭子の声が舌足らずにそう囁くと、獣は、ダラリと舌を
垂らしたまま、こちらをゆっくりと振り返りました。
人間とほぼ同じ大きさの白い狐は、私が目隠しと手錠を
外しているのに気づいても、全く動じることすらなく、
芝居がかった溜め息交じりに、こう言いました。
「駄目じゃないの、約束を破っちゃ。仕方ないなあ……」
黄色い瞳が、私をじっと見つめてきました。
手錠を外したのに、恐怖で身動きが取れませんでした。
「可哀想だけど出入り禁止。もう、これも使っちゃダメ」
狐がくわっと口を開きました。
尖った牙が並ぶ口吻が、まるで笑っているようでした。
獣は、そのまま私の股間に向き直り、唸り声と共に、
恐怖で縮み上がった私の部位に容赦なく食らいつくと、
強靭な顎を振り回し、無造作にぶちりと音を立てて……
一命を取り留めたのは、まさに奇跡でした。
明け方の路上で股間から大量の血を流し失神していた
ところを誰かが発見して救急車を呼んでくれたのです。
最後の慈悲なのか、それとも男性機能を失ったままで
恥辱と後悔の余生を送れという、別の責め苦なのか……?
私の訴えであの店に向かった警察は、しかし風俗街の
ビルの谷間に、朽ち果てた、みすぼらしい稲荷の祠を
発見しただけでした。そんなはずはないと取り乱して
半狂乱になった私に向かって、警察官が憐憫を込めて
執り成すように言った言葉が、今でも忘れられません。
「しょうがないんですよ。日本全国、どこの色町にも、
こういうお店は必ずあるんだから……」
皆さんも、遊びは程々に……
【註:ネタバレを含むので本編を読んでから閲覧推奨】
いかがでしたか? 見てはいけないものを見てしまった者
の、自業自得で悲惨な末路…… といえなくもないですが、
二十年を経て読み直してみると、これは「ウィッカーマン」
かもしれません。一見、自分の意志と選択による自己責任
の因果応報のようですが、実は周到に罠が張り巡らされて、
騙され誘導された結果なんジャマイカ。強迫観念というか
被害妄想というか、陰謀論の視点に立つと、最初の風俗嬢
との他愛ない会話からして、もう罠かもしれない。お腹が
空いた伝説のナンバーワンを満足させるため生贄を捧げる、
お店を上げての恒例一大ツンデレ陰謀キャンペーン。
あとこれ、柴田錬三郎先生の、あの傑作短編とオチが被る
かもけど、これを書いたのはあれを読む何十年も前なので
パクリとか言わないでね(言ったら座高婆を送り込むぞ)
そこまでは言わないけど柴錬先生のどの短編か知りたい!
という人は<柴錬 善光寺>でググレカス。有名な怪談の
本歌取り的なお話だけど、オチはこっちの方がヤバいのだ。
更に興味を持った人は江口寿史先生の伝説のあの怪談短編
を以下略。山上たつひこ先生「快僧のざらし」にも以下略。
まあしかし何といっても小林正樹監督の名作「怪談」こそ
以下略。ネタバレすると(←するのかよ)「耳なし芳一」
です。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。チーン。
以下略。