忘れ去られたその日
母を見送った後、料理長のマリクに昼飯を作ってもらうことを思い出しシエルと共に調理室に向かう。
「おやフラン様、本日はどうなさいましたか?」
「昼食を作ってもらいたくてね。シエルは何食べたい?」
「そうですね、この間食べたサンドイッチが食べたいです。」
「じゃあ私も同じサンドイッチと何かスープを頼むわ。」
「任せてください!」
そう言いマリクは怒涛の勢いで包丁を振るい始めた。調理している合間に自室で依頼の手紙を読む。生憎今日は完全休養と決めているので仕事はしない。本を読んでそこそこの時間が経ったので改めて調理室に向かうともう皿に盛りつける直前だった。
「おやフラン様、待ちきれませんでしたか。」
「そうじゃなくて今日は外で食べるからそのつもりで準備して。」
「かしこまりました。」
その後料理が入った籠を受け取りシエルと一緒に外に向かう。目的地は一か月前バートン博士から依頼を受けた遺跡。母と話して思い出したがシエルと一緒にもう一度行けばまた何か違ったことが起こるのではないかと。
遺跡の最奥に着き改めて辺りを隈なく調べてみると石像があった台座に謎の文字が書き込まれていた。念のためと思いシエルを呼び聞いてみた。
「この文字で何か思い出すことはある?」
「私この文字読める」
するとシエルが謎の文字を読み始めた。全く知らない言葉。なのに何故か理解る。その言葉の意味、そして書いた人の感情が。
『昏き夜が世界を、私を染めてゆく。なんて愚かしいのだろうか。ここに住まう楽園のもの達よ。あなた達が奪ったものをどうか忘れないでいただきたい。その心は己を穢し、再び災厄へと導かれるのだから。願わくば平穏が未来永劫続きますように。そして犯した罪を忘れぬように。』
私の中で何かが満たされる音がした。
何の警告だろうか。楽園、穢れ、聞き覚えのある単語に少し興味を湧いてしまう。
「シエル、この文に何か心辺りは?」
と聞いてみるも首を横に振るだけ。どうやら思い出した記憶もないらしい。ただ石像が人に変わったことといい、謎の文字が読めることといい何かしら掴めてきてはいる気がする。
そんな考え事をしていると突如グーと音が聞こえてくる。咄嗟にナイフを取り出し構えるとシエルが恥ずかしそうに
「あの、お腹空きました。」
私はナイフを仕舞い
「昼食にしましょう」
と言い外に出ようとする。すると入口の方から足音が近づいてくる。人数は二人。
「ねぇお姉ちゃん、本当にここにあるの?」
「分からないわ。でも...」
と会話する女二人もこちらに気が付いたよう。
「初めまして。『黄昏』の守護者、エリーゼと」
「お姉ちゃんの妹、アリスだよ。よろしく☆」
「と言いたいところだけど、さようなら」
そう言った直後エリーゼの手からナイフが放たれる。私はいつものように避けるが後ろでナイフが刺さった音がないのに気が付き咄嗟に結界を張る。するとキィンという音と共にナイフが明後日の方向に飛んでゆく。
「能力者か、面倒ね。アリス」
「はいお姉ちゃん!」
すると辺りが急に寒くなりアリスの手に光が集まってきている。それと同時にエリーゼは再びナイフを放つ。よく見ると手の動きに合わせてナイフが移動している。そして満を持したのかアリスはこちらに向かって手を出す。するともの凄い勢いで光弾が飛んで来て避ける余裕もなく結界が破壊されてしまう。そしてそれを待ってたかのようにナイフの雨が降り注ぐ。なんとか結界を張り直すも一撃貰ってしまい、いつもつけている母から貰った愛用のネックレスが壊れ地面に落ちてしまう。
「フラン、さん。その姿...」