《魔術師》ノア
「ねぇ長、何してるの?『昇華計画』はもう終わったよね?」
そんな少年を無視して大きな壊れた人形を前に放心しているは白衣の男性。
「お姉さまが次の準備に必要だから連れてくようにって言われたけど...とりあえず邪魔だしバイバ~イ~」
そう言って光を放つ紋様を出現させ空間が揺らぐと同時に人形と共に男性は消えていった。
「魔法..?」
私のふとした発言に少し苛立ちを見せながら少年は言葉を返す。
「魔法?僕のは魔術だよ。あんな穢れてて理に縛られた奴らと同じにされるなんて怒っちゃうな」
「どういう意味?」
「言葉通りだよ?...ねぇ、それより僕と遊んでよ。あの攻撃もっと僕に見せて?」
少年は満面の笑みでそういう。
計画というのが何かは知らないが帝国の至るところから女子供だけを誘拐するような犯罪組織を見逃す訳にはいかない。相手にどこまで通用するか分からないが、痛い目に合ってもらうべき。
「お望み通り、喰らいなさい!!」
無数の斬空刃を放つ。だが数秒後拍手と共に少年の声が聞こえてくる。
「凄い凄い!僕も楽しませて貰ってるし何かお返ししないと」
そう言い人差し指をこちらに向ける。直感で危機を感じ結界を張りながら左に避ける。パリンという音と共に右腕に痛みを感じる。よく見ると結界に小さな穴が開いている。何も見えなかった。その事実に恐怖を覚える。
「そうそう、それも見たかったんだけど...思ったより脆いね。」
私は少年を囲むように斬空刃を展開し一気に放つ。が、そんな抵抗も空しく笑い声が聞こえてくる。
「あはは。これだから『能力』者との遊びは辞めやれないよ。」
「能力者?」
「お姉さん見たいに変わった力を扱う人のこと。でもお姉さんは他の子と違って特に変わってるよね。実はもっと変わったものだったりして。もしかして」
楽しそうに話すノアの隙を付いて真後ろに転移しナイフで切りつける。が、黒い何かに阻まれナイフが弾かれてしまう。近距離は危険と判断し転移で距離を取る。
「酷いなぁ、お姉さん。僕が話してる途中なのに。まあでもそろそろ時間だし。お礼をさせてよ。」
そう言うノアの手には青い炎が揺らぎ膨張している。
「魔法と違って魔術はね、いろんなことが出来るの。例えばこんな風に」
青い炎を両手で掴み二つに分けたと思ったら形が変わっていき槍の形になる。
「双龍槍牙」
ノアはその青い炎を投げつけ、「また会ったら遊ぼうね~」と言いながら空間の歪みと共に消え去った。
私は結界を五重にし炎の槍に向かって斬空刃を放つ。するともの凄い爆音と共に視界は青一色となり、爆風で壁に叩きつけられ結界の全てが割れてしまう。
私はあの魔術師が去ったのを確認した後、シエルの元へ駆け寄った。
「シエル、大丈夫?」
「フランさんこそ怪我をして...大丈夫ですか?」
「これくらい平気よ。」
その後、行方不明者たちを村まで届け、匿名で騎士団当てに行方不明者の所在と犯人のアジトの位置を綴った手紙を出し事件は解決した。ただ騎士団がアジトに到着した時には洞窟が崩れて内部まで侵入することが出来なかったという報告があった。あの時、私たちを殺すつもりがなかったにしろわざわざ戻って証拠隠滅のため洞窟を破壊するというのは少し違和感がある。私たちと被害者を始末した方が口封じに繋がる。なら第三者のが介入した可能性もあるのではないだろうか。そんなことを考えながらフランは眠りにつくのであった。