謎の力の扱い方
来る戦いの日に向けて準備をしようと早起きをした。まずは朝食を済ませようと廊下を歩いていると執事のセバスチャンに出会う。
「おはようございます。今日はお早いのですね。」
「ええ、おはよう。久々に鍛錬でもしようと思ってまして。それで、帝国方面の情報は?」
「重税に耐え兼ねた市民の反発が起きています。それとは別に、帝国領内各地で女子供が行方不明になる事件が相次いで起きているようです。」
「確か10年前にも似たような事件があったわね。急ぎ事件が起きた時間と場所を調べて頂戴。」
「かしこまりました。」
私がよろず屋を始める前のこと。今回のような事件が多発していた。何とか犯人のアジトを特定して踏み込んだが犯人はおらず、子供たちは非道な実験で殆ど亡くなっていたという。生き残りが二人いたそうだが、その後どうなったかは知らない。
朝食を終え鍛錬のため帝都近くの森に入る。暗殺や護衛のためのナイフの鍛錬をそこそこの頻度でこなしてはいるが今回はそれではない。あの力をもっと別の形で扱うことが出来るのではないかと半分実験のようなことをしに来た。シエルを守りながら戦うのは容易ではない。なら守れる盾か鎧のようなものがあればいい。それをイメージしながら私から溢れる光の粒を意識する。すると透明な鎧のようなものが顕れる。
私は耐久の度合いを調べるためにナイフで切りつける。すると割れた音と共に鎧が消えてしまう。
今度は盾をイメージし顕現させ切りつける。今度は消えない。どうやら複雑なものは脆いらしい。更に攻撃を続ける。
静寂な森に金属の音が鳴りにびく。最後の一撃と言わんばかりに勢いよくナイフを透明な盾に突き立てる。キィンという音と共にナイフの刃が折れてしまった。強度の問題は概ね問題ないだろう。ただこれでは横や背後からの攻撃に対応できないと思い、盾を自分の周りに隙間なく展開する。それと同時に自分の中の何かがゴッソリと無くなった気がした。これはいけないと思い展開していた盾を全て消した。すると、何かが私の元へと帰ってくる感覚がある。魔法と同じように魔力的なものを消費してこれを行うことが出来るのだろう。私の中のそれは有限のようなので、効率良く扱わなくてはならない。そう思い今度はガラス板のようなものをイメージし、箱に私が入っているように展開する。先程よりマシだがもう少し消費を抑えてみたい。板の数を減らせばいいことは分かっているので、板を三角に三角錐を作る。そうやって試行錯誤していると結構な時間たった。疲れたので近くの岩場に座り、魔女の占いのことを思い出していると思い出したことがあった。占いには水晶玉。球体をイメージすれば板一枚分と殆ど変わらない。そう思い実際にやってみるとその通りだった。私は嬉しみで満ち溢れ、ダンスを踊ってしまっていた。
そんな時、森の奥から野犬がやってきた。体格が他より大きく牙も生えている。こういう奴は大体魔法を使ってくるので、魔獣と呼ばれている。そういえば魔法にも効果があるか試してないなと、板を顕現させる。いきなり球体で実体験は壊れた時や効果がなかった時に咄嗟に避けないと行けなくなるから。そうこうしている間に、魔獣が火球を放ってくる。「自分の森を焼くような真似。これだから魔獣は...」そんな言葉を言っていると、ボンっと音を立てて板に着弾する。次は球体を用意し着弾するのを確認する。熱くない。
もう実験は終わったので魔獣の排除をしようとナイフを抜く。が刃が折れている。これでも扱えないわけではないが扱いにくい。ナイフをあの力で顕現させると多分脆くなるだろう。そんなことを考えていると魔獣が今度は飛び掛かってくる。咄嗟の判断で板で叩く。「板で攻撃...これよ!」
板を紙のような薄さにし魔獣がいる方向に勢いよく飛ばす。すると、ザシュッという音の後魔獣が真っ二つに割れてしまう。自分でもここまで上手くいくと思ってはいなかったので驚いてしまう。よく見たら後ろの木々も倒れてしまっている。「これは扱いには要注意ね」そういいながら苦笑いを浮かべてしまう。
そういえば一瞬で移動するあれを転移と名付けた。なら球体で守るのは結界、薄い板を飛ばす攻撃は斬空刃とでも名付けようか。
何にしろもう昼時。屋敷に帰って昼食にしたい。そんなことを思いながら森を出るのであった。