『災厄の魔女』
シエルが助手に加わり翌日のこと。依頼をこなしながら記憶を取り戻すにしても、当てもなく闇雲に探し回っては効率が悪いだろうと占い師、もとい王国屈指の魔法使い『災厄の魔女』の邸宅へと向かうことにした。
依頼で何度か訪れていたが、鬱蒼な森の中に隠居しているので歩きで行っては少し時間が掛かてしまう。
ので、あの力を使うことにした。一瞬で邸宅前に移動したので勿論シエルも驚いている。
「な、何ここ?何が起こったの!?」
「このちかr...魔法は転移と言って、行ったことのある場所を頭に浮かべて一瞬で移動することができるの」
嘘である。この謎の力は自分でも分かっていないし、名前も咄嗟に思いついたものを口にしただけだ。
私は魔法を扱えないし、一瞬で移動する魔法なんで聞いたこともない。それにこんな力を持っていると知れ渡れば面倒なことになるに違いない。
「この魔法は私のオリジナルだから秘密にしてね」
称号助手とはいえ仲間に嘘を付くのは少し心苦しい。こういう良心に付け込まれる可能性があるからアリア姉様やニーナ姉様は危険な依頼を強引に奪っているのだろうか。
「へぇ、すごいのねフランベルさん。」
「私のことはフランって呼んで。一緒に旅をする仲なのだし。」
「分かったわ、フランさん。」
そんな会話をしていると
「早かったねぇ。さぁお入り。」
とどこからともなく声が響き渡り、門が開く。
「さぁ行きましょう。」
そう言い、私は魔女の邸宅に入っていった。
ここへは何度も来ているため、魔女がいるであろう場所も分かる。おそらく書庫で本でも読んでいるのだろう。そう予想し書庫の扉を開くと、
「いらっしゃい。適当な椅子に座って待ってておくれ。」
そう言いながらも本から目を離さない。仕方なく椅子に腰かけしばらく待っているとようやく本を閉じた。
「シエルとやら、こっちに来なさい。」
そう言い対面の席に座らせ、手を握る。魔女の占いは初めて見たので新鮮だったが、もっと水晶とか用意してほしかったと思う。しばらく様子を見ていると魔女が話だす。
「一週間後、どこか暗い場所に行くことになるだろう。そこで少年と戦うことになるだろうね」
そう言い私の方を向く。私が戦う?何故?何のために?
更に魔女は続けてこんな一言を、
「相手は魔法使いだね。それも私と互角...いや、全盛期の私を凌ぐほどの者だよ。」
私は思わず戦慄してしまう。100年戦争時、大量の帝国軍をあっという間に殲滅したあの『災厄の魔女』を凌ぐ。そんなことがあっていいのか。私は課された運命を前に無言になってしまった。そんな私を見て魔女は私を安心させるように
「ただ相手は遊んでいるだけのようだね。殺すつもりはなさそうだし安心して行っておいで。」
私はその言葉に呆れてしまった。魔女を凌ぐ力を有しておいて遊ぶけ?戦うような状況なのに?
「なにそれ」
そのあと感謝の言葉を述べ、邸宅を後にした。
運命の時は一週間後。おそらく依頼でそこに行くことになるのは明白である。何故その依頼を受けることになるかは分からない。だが一つ、そこに行くことでシエルの記憶の一部が戻るかもしれない。
ならば勇気を出そう。それがよろず屋なのだから。




