《魔剣老師》アーデルト・マグナ
私は東にあるその砦に向かっていた。転移と飛翔を駆使ししばらくするとその砦が見えて来たのだが、立ち上る煙のせいで状況がよくわらない。そうして降りてから分かったことが一つある。その砦はもう落とされた後だということ。そして異常なことに砦と言えるものがない瓦礫しか残されていないその状況に私は放心するしかなかった。帝国内で噂されていた大砲のようなものがこれほどのことをできるだろうか。
精々城の壁を破壊する程度の威力のものが砦を瓦礫の山に変えられるわけがない。
そしてそんな私を正気に戻すが如く西の方から爆音が聞こえてきた。そちらには町がある。募る不安を胸に私はその方角へと向かった。
そうしてその町に着いた私を待っていたのは炎で焼き尽くされた建物と死体、そして何とも言い難い形をした金属でできたであろう何かだった。
警戒をしながら近づき様子を伺っていると、その奇妙な物体の影から一人誰かが出てきた。
「おや、逃げ遅れた人でしょうか?」
そうして現れた人物を私は知っていた。あの奇妙な儀式を行った『楽園』と一緒にいた人物の一人。
「貴方は...!」
「貴女はあの時の。改めまして、『楽園』の使徒が一人。No.5の《魔剣老師》アーデルト・マグナと申します。以後お見知りおきを。」
「アーデルト・マグナ!?100年戦争時代の!?何故貴方がここに?隠居したはずじゃ?」
100年戦争が終結してからまだ20年ほどしか経っていないからか、王国の私くらいの若い世代でも彼の活躍は聞き届いている。隠居したとはいえたまに道場で師範代としてマグナ流剣術の弟子の面倒を見るなどしていると聞いている。その偉人が何故このような場所に?何故『楽園』の使徒としているのか、何故このような戦を始めたのか知る必要がある。
「齢76の隠居した身とは言えども再び活躍の機会が得られるならそれを逃すわけにもいきますまい。それに戦場で果てるのもまた本望。」
「そうじゃなくて、あなた達『楽園』が何故このようなことをしたのか聞きたいのよ!」
「簡単な話、もう時間がないのです。あの計画が失敗した時からこのことは決まっていたのです。」
「ふざけないで!!それが王国の民を殺し侵略する理由になんかならないじゃない。」
「100年戦争が起きたきっかけでもある飢饉と疫病、それは偶発的に起きたことだと思いますかな?」
「なにを言って...?」
「私たち『楽園』は世界のあるべき姿を取り戻す、それが使命なのです。多少の犠牲を出してでも計画に支障をきたすわけにはいきません。」
世界のあるべき姿を取り戻す?そんなことのために王国に侵攻し民を虐殺したのか?許せるわけがない。それにこのまま侵攻を許し守るべき民や家族、友人を失ってしまえば後悔するだろう。だから私は立ちはばからなければならない。
「あなた達が何をしようが私は知ったことではありません。ですが王国の民に手を出すというのなら話は別です。」
そういい私は懐からナイフを取り出し構える。
「余り若い芽を摘みたくはないのですが...参ります!!」




