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第四話 赤い月

 工房の外から聞こえた悲鳴に、黒兎くろととソフィアは窓際へ駆け寄った。

 そこで目にした光景は、想像を絶するものだった。

 巨大な二体の怪物が村を蹂躙していた。一体は身長400メートルもあろうかという巨大なオーク。その怪物は人型のイノシシのような姿で、その巨体で建物を押し潰していく。もう一体は牛の頭を持つミノタウロス。巨大な斧を振るい、建物を切り裂いていく。

 

「な、なんなの、これ……」

 ソフィアの声が震える。

 

 村は炎に包まれ、人々が逃げ惑っていた。ミノタウロスの斧に切り裂かれる者、子供を胸に抱きしめて震える母親、非難を促す若者たち。大きな体格の男が勇敢にもオークに立ち向かうが、頭を掴まれ、そのまま家屋の壁に叩きつけられた。

 

 ソフィアは瞳孔が開いたまま、その惨状を見つめている。足が震え、動くことすらできない。

 黒兎もまた、これまでの人生で見たことのない光景に言葉を失っていた。町工場で培った技術を利用できないか、必死に考えを巡らせる。しかし、何も思いつかない。握りしめた拳から血が滴る。

 数秒が何時間にも感じられた。

 

「逃げろ! この馬を使ってお前たちだけ逃げろ!」

「やだよパパ!」

 どこからか聞こえたその叫び声が、黒兎の脳裏に閃きを与えた。

 

「なるほどねぇ、とりあえず今だけの手段だけど、このクイックシフターでなんとかなれば……」

 黒兎は工房に駆け戻り、先ほど作った近距離転移装置"クイックシフター"を手に取る。

 

「これしかないねぇ!」

 工房を飛び出し、村へ向かう黒兎。まず、子供を抱きしめる母親に装置を向ける。

 青い光が走る。

 母親と子供は瞬時に黒兎たちの近くへ転移した。

 

「なるほど! 結構遠くまでいけちゃうんだね! それなら黒兎、できる限りこっちに村人を転移させて!」

 ソフィアが黒兎に向かって叫ぶ。

 

「とりあえずそこの二人は、向こうの丘を越えたところにある塔まで逃げるんだねぇ!」

 

 そうして黒兎は次々と村人たちを転移させ、安全な場所へと誘導していく。しかし――。

 

「でも、とりあえずだから……どうしたもんかねぇ」

 村では相変わらず二体の怪物が暴れ続けている。このままでは村が壊滅してしまう。

 その時、ソフィアが黒兎の腕を掴んだ。

 

「そういえば、工房にあるわ! クロトが作っていたもの!」

「そうか! クロトだって俺と同じ技術者で発明家だ! 記憶には思いつくものもないけど、きっとあるはずだねぇ!」

 

 二人は急いで工房に戻り、クロトの遺したものを探し始めた。すると、ちょうど良い機材を見つける。黒兎はそれを見た瞬間、用途を理解した。クロトの記憶が自分の中に同期されているからだ。

 

「これだねぇ!」

 黒兎はドローンのような遠隔操作ガジェットとベルトを手に取り、再び村へ走り出す。

 

 村に着くと、黒兎はすぐさまガジェットを起動。クイックシフターをベルトでしっかりと括り付ける。操作基盤でクイックシフターの目標を巨大なオークに定めた。その後、ガジェットを浮かせ、ミノタウロスの真上でホバリングさせた。

 

「いじめたらだめじゃんねぇ!」

 

 黒兎の叫び声に、二体の怪物は動きを止めて振り向く。その瞬間を逃さず、黒兎は遠隔操作でクイックシフターを起動させた。

 青い光が走る。

 突如として上空に転移したオークは、驚きの声を上げる間もなく落下。真下にいたミノタウロスの頭上に直撃し、二体の怪物は地面に叩きつけられた。

 

「さて、これからどうするかねぇ……」

 気絶でもしたのか、動かなくなった二体の怪物を見ながら困惑する黒兎の元に、物陰から飛び出してきたソフィアが駆け寄る。

 

「なにしてんの! 早くしないと動き出しちゃうじゃない! 逃げられるところまで逃げるよ!」

 ソフィアに手を引かれ、二人は丘の上を目指して走り出す。塔に到着すると、一人の若い男が待っていた。

 

「先ほどはっ! 礼はあとです! 皆は既に、下った先にある王都に向かっています! お二人とも早く!」

「でもあの魔物たちはまだ!」

 ソフィアが不安げに声を上げる。

 

「大丈夫、王都に行けば兵士と武器があります! はやく!」

 男の声に促され、二人は王都への道を駆け出した。空には不吉な赤い月が、不気味な光を放ち、塔の影を伸ばしていた。

 

第四話・完

お読みいただき、ありがとうございます!


この物語を通して、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけましたら、

ブックマークと★評価を頂けますと、作者は「いいねぇ……」と目をキラキラさせること間違いなしです!


ブラッディレイジがはじまる前に、また会いましょう!

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