お弁当屋さんの裏に呼び出された
「すまなかった。和美が白状した。高校生の時にずっと君に作らせたお弁当なのに自分が作ったと嘘をついていたこと。本当にごめん。材料費も君に渡っていなかったと聞いた。これ今更だとは思うけど何かの足しにしてもらえたら……」
そう言って目の前の男は私に封筒を差し出した。
「困ります」
私は封筒を受け取らないように手のひらを封筒に向けて拒否の姿勢を示した。
「俺の気が済まないんだ」
「本当に困ります。関わりたくないので、二度と来ないでください。もう思い出したくないんです」
「でも!やっとこの味に再会できたんだ!遠慮なくこの店に通う為にも、過去の失敗を清算したいんだ」
「和美はあなたの奥様なんでしょう?あなたの不用意な発言が元で嫌がらせを受けました。この店はもう終わりです」
「何だって?せっかく見つけたのにまた食べられなくなるのか!なんでそんな酷いことができるんだ!俺がどれだけ食べたかったか……和美がまたあのお弁当の味の惣菜を出してくれた時の喜び!俺は何でもすると誓ったんだ。頼む!俺にずっとそのお弁当を食べさせてほしい!」
「無理です。もう解放してください。和美が私に何をしたか知らないんですか?もうこのエリアには住めません。店の壁、今はきれいですけど、和美が不倫女と落書きしたせいで、売り上げがかなり落ちたんです。もう店は続けられません」
「資金なら俺が援助する。そうだ!俺のところで料理人になってくれないか?ずっと君のご飯が食べられる」
「嫌です。同級生なのに私の名前、知らないですよね?それに和美の近くで生活するのは嫌です。声の大きい人の虚言で苦労するのはもう嫌なんです。高校生の時はお弁当を作る為にアルバイトをしていたんですよ?大変だったんですから」
「材料費を和美が渡さなかったから……」
男は封筒を見つめた。
「尚更これ!受け取ってくれよ」
「お断りします。受け取った後何を言われるか分かりませんし、怖いです。高校時代の地獄の日々はお弁当から始まったんです。あなたとの約束が守れなかった和美は私のお弁当を奪ってあなたに渡した。そのお弁当をあなたが褒めた。私は和美の見栄の犠牲になったんです」
私は裏口からサッと店に入り鍵を閉めた。初めての私の店。ここを手狭に感じる程繁盛するとは思わなかった。
今よりも広い店を開店する資金は貯まった。この街から離れた場所へ引っ越す。私は店の表口から出て鍵をかけた。店の裏で彼は泣いていた。