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 地下闘技場から解放された後もあまり変わらない生き方、戦いを選んだ僕だけれども、以前と今では生活は大きく変化した。

 例えば、外出ができるようになった事とか。


 今、僕が普段暮らしているのは、紅夜叉会の縄張りである下町にある、小さな食堂の二階である。

 なんでも紅夜叉会は大戦前後の国の治安低下に伴って発生した自警団と、昔ながらのヤクザが結び付いて誕生したギャングらしい。

 この辺りを詳しく説明すると、央京シティの成り立ちだとか、その時代にあったという少子化や移民等の問題にまで話が拡大してしまうので、今はさておく。


 いずれにしても、紅夜叉会はその成り立ち的に地域の住民と強く結びついている組織だった。

 故に、地域の住民も紅夜叉会には協力的で、こうしてメンバーに住処を提供してくれているそうだ。

 もちろん紅夜叉会の方でも、縄張りの住民には好意的で、下町を管轄としない警察の代わりに、治安の維持を行ったりしているという。


 尤も、紅夜叉会のメンバーの全てがこうした生活をしてる訳じゃなくて、一部は組織が所有する大きなマンションや、縄張りのあちらこちらにある拠点で生活しているそうだが、僕の場合は地下闘技場にいた頃は自分で食事の用意もしてこなかった、させて貰えなかったので、生活能力のなさから、食堂の二階に住まわせて貰ってる。

 何故ならここに住んでいれば、日々の食事は店主が作ってくれるから。

 あぁ、いや、誤解の無いように言っておくと、僕の家賃や食費は紅夜叉会から店主に渡されているから、別に完全に養われてるって訳じゃない。

 他にも、店が忙しい時間帯で、僕の手が空いていたら、配膳くらいは手伝ってるし。


 ただ今日は、前回の初仕事で紅夜叉会から報酬が振り込まれたから、その使い道を探しながら、下町にある商店街をうろついて、ついでにどこかで食事もしようと思ってた。

 敵と戦って勝つだけで生活の保障だけじゃなく、自由に使える報酬まで貰えるのだ。

 闘技場で戦っていた頃の待遇を考えると、今の生活は信じられないくらいに恵まれている。

 それが命の危険と引き換えの報酬である事くらいは、当然ながら僕にだって理解はできるが、以前が以前だったので、少しはしゃいでしまうくらいは許して欲しい。


 下町の商店街といっても、紅夜叉会のメンバーも頻繁に利用するだけあって、取り扱う物は多岐に渡るし、品質もそれなりだ。

 店頭に様々な銃弾が並べられたガンショップは、用途や好みを伝えればお勧めの銃を出してくれるし、地下には試し撃ちが行える射撃訓練場を備えてる。

 サイバーウェアを揃えた店の隣には、それを体内に埋め込んでくれるドクターの病院があった。

 尤もその病院は、下町の人々も病や怪我の治療に頼るので、待合室には強面のギャングの隣で、老人達の世間話に花が咲く。

 僕も紅夜叉会に加わってから、その病院には幾度か検診でお世話になってる。

 ドクターはひょろっとした体形の、青白い顔をした中年男性で、健康とは全く無縁そうな見た目だけれど、医者としての腕は確かだそうで、紅夜叉会との繋がりも深いという。


 しかしそんな店や病院を挟むように、肉や調理した総菜を売る肉屋や、合成タンパクのペースト食やらを売ってる雑貨屋も建っていて、統一感がまるでなかった。

 他にもどこから仕入れたのか合成燃料が量り売りをしていたり、レンジや冷蔵庫等の家電と一緒に、ハッカーが使うような大型の端末も売られてる。

 正直、雑然とし過ぎていて買い物には不便な気もするけれど、僕はこの雰囲気が嫌いじゃない。

 特に何が欲しいって訳じゃないんだけれど、一つ一つの店を見て回ってるだけでも不思議と楽しいし、一体何が出てくるのかとワクワクしてしまう。

 何しろ、今の僕は興味のある物を見付けたら、自分のお金で買えるのだ。


 これまで禄にお金を使った事がなかったから、端末の支払い機能に振り込まれた前回の報酬、十万クレジットにどの程度の価値があるのか、僕はあまり正確には把握できていない。

 ただ、世話になってる食堂で出されている食事が、大体三百から五百クレジットである事を考えると、十万は中々の額なんじゃないだろうか。

 

 でも端末は貰ってるし、仕事用のナイフや拳銃は支給されているから、これが欲しいって物は、なかなか見付からないけれど。

 拳銃以外の銃は、結構高いし、使用に両手を使う物も多かった。

 僕の身に沁みついた戦い方は、やはり地下闘技場で培った近接戦闘なので、銃で両手を埋めてしまう事は好まない。

 もちろん拳銃だって、しっかりと狙うのならば両手で構えなきゃならないが、撃つ時以外は片手を空けられる。


 大型端末は、十万クレジットでは買えなさそうか。

 ハッカーが行う機器やネットワークの掌握には興味があるのだけれど、金が足りないのなら仕方ない。

 そもそも僕にそういったスキルの適性があるとも思えないから、大型端末の操作を幾らか覚えたとしても、仕事に役立つとは思えないし。

 ……あぁ、なんだかこうして欲しい物を探していても、何かにつけて仕事に結びつけて考えてしまう。


 まぁ、いいか。

 それが僕の性分ならば、無理に変える必要もなかった。

 仕事に結びつけて考えてしまいはするけれど、今の僕は間違いなくこの時間を楽しんでいる。


 別に今日、欲しい物が見つからなくても構わない。

 夕食は、食堂の店主にお勧めされた、分厚いステーキの店に行く予定だし。

 なんでも店主曰く、自分への御褒美には分厚い肉に齧り付くのが一番らしいから。

 僕は今日、それを一番楽しみにしてる。

 でも、まだお腹の減り具合はそこそこだから、もう少しだけ買い物を楽しもう。

 折角なら、本当にお腹がペコペコに空いた状態で、貪るように肉を喰らいたい。


 もちろんこの辺りで食べられるのは合成肉なんだけれど……、何時かは本物の、育てられた家畜の肉というやつも、食べてみたいなぁと思ってる。


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サイバーパンク下町商店街!好き!
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