7
超能力者同士の戦いで出力比べに持ち込む方法を僕に教えてくれたのは、紅・渡という名の紅夜叉会の最高幹部。
和義やギュールのような戦闘部隊のチームリーダーとかではなく、頂点に最も近い人物だ。
彼は、恐らく紅夜叉会で最も名が知られ、或いは恐れられてもいる。
紅という名字から、ボスと血縁関係にあるのではないかとも噂されるが、詳しい話は聞こえてこない。
少なくとも、僕の耳には届いていなかった。
また彼の姿を見たって話も同様に。
では一体、どうして紅・渡は紅夜叉会で最も名を知られ、恐れられているのか。
それは、彼が強力な殺傷能力を持つ超能力、発火能力の持ち主だから。
しかもその発火能力は、直接相手を視認せずとも、監視カメラやドローン等の、機械の目を通しても発動するという。
いや、僕は実際にその発動を目の当たりにしているから、それは噂でもなんでもなくて、紛れもない真実だ。
紅夜叉会という大きなギャングの最高幹部なら、紅・渡の時間は僕のそれとは比べ物にならないくらいに貴重だろう。
なのに彼は、直接対面しない端末越しでの会話ではあるけれど、僕に時間を割いて、超能力に関する講義をしてくれた。
そして自分の超能力、発火能力を使って、僕が出力比べに持ち込めるまで、訓練も施してくれたのだ。
……まぁ、発火能力なんて物騒な超能力には、それが十分に加減されていたとしても、出力比べに持ち込めるようになるまでは、何度も火傷を負わされたが。
つまり、僕が念動力を扱う少女に勝てたのは、出力の差、精神力の差というのは当然あったが、受けた教育の差でもあったのかもしれない。
構成員が何千といる紅夜叉会でも、超能力者は紅・渡を含めても、片手で数えられる程の数しかいなかった。
恐らく組織に属さぬ少女には、ランナーという荒事に関わる立場であっても、他の超能力を戦いに用いれるレベルの使い手に会う機会は、殆どなかったのだと思われる。
これは僕にとっても戒めだ。
今回、僕は機会に恵まれていたから、念動力という優れた力を持つ少女にも勝てた。
けれども経験を積んだ、より超能力に対しての理解が深い能力者と敵対したなら、結果は今回と真逆になるだろう。
この先も、紅夜叉会の戦闘部隊に属して活動をしていくなら、例えば超能力に関して深く研究している企業とも、対立する事だってあるかもしれない。
紅・渡だって、自分が持つ超能力の知識を、全て伝えてくれた訳ではないと思う。
万一、僕が裏切って敵対した時の為、何らかの切り札は隠していて当然だ。
故に僕は、もっと超能力について知っていかなきゃならない。
自己強化能力は、発火能力や、念動力に比べるとささやかな力でしかないけれど、それでも、僕が最も頼りとする力である事に変わりはないから。
僕の手の中で、少女が意識を失い崩れた時には、周囲の戦闘も粗方片付いていた。
すぐそばで、チームメンバーの機械化兵が、ミーアキャットのハッカーの端末を踏み潰す。
ハッカーは狂ったように泣き叫んでいるが、その頭部には容赦なく銃口が向けられて、乾いた音が鳴り響く。
身柄を抑えておけば、ミーアキャットのリーダーや、超能力者の少女に対する交渉や脅しに使えるだろうが、ハッカーに生かして時間を与えるのは危険だと、ギュールは判断したらしい。
まぁ、その判断に異論はない。
ブレード使いに銃手、二人の機械化兵は、戦闘の最中に力尽きてる。
やはり、仲間を守ろうと必死に暴れ狂うブレード使いを生かして捕獲する事はできなかった様子。
こちら側に死者はいないが、怪我人が皆無って訳でもないから、これも妥当な判断だ。
「よし、状況終了。皆、ご苦労様。後は奇麗さっぱり吹き飛ばして、官憲が来る前にさっさと引き上げようか」
必要な者を無力化し、殺すべき者を殺して、……戦いが終わった後、血生臭い現場とは裏腹に、ギュールが明るくそう言った。
あぁ、そういえば、そんな存在もいるんだったっけ。
央京シティにも、公に治安を守る組織が幾つかある。
例えば央京シティの行政が抱える戦力である桜花軍や、この国の治安を昔から守ってきた組織である警察等。
尤も彼らの管轄は央京シティでも中心に近い、企業エリアや富裕層が暮らす区域だ。
もしもミーアキャットのセーフティハウスがそうした中心に近い場所にあったなら、僕らだってこうも大胆に襲撃を仕掛ける事はできなかっただろう。
ただこの規模の銃撃戦があったなら、警察辺りが一応は来る筈。
彼らの管轄が中心部のみである事は誰もが知っているけれど、名目上は、央京シティの市民を等しく守るって組織なのだから。
或いは、ニュースのネタを求めてマスメディアが調べに来る可能性だってあった。
当然ながら彼らだって無駄な危険を冒したくはないから、全てが終わった後に来るのだけれど、ダラダラと現場に居残って鉢合わせをすると、些か面倒である。
テキパキと、爆発物の設置を指示するギュールの手に、来る時にはなかったアタッシュケースがあるけれど、誰もその事を指摘はしない。
些細な好奇心を満たす為に、自分の命を危険に晒したりしない知恵は、僕にも、チームメンバー達にもあった。
ギャングの癖にって思わなくもないけれど、……あぁ、いや、ギャングだからこそ、触っちゃいけない危険には敏感だ。
鈍感な馬鹿はすぐに死んでしまうから、生き残ったギャングはどうしたって危険に敏い。
「シュウ、初仕事の成功おめでとう。突入も、超能力者の確保も、いい仕事をしていたよ。仲間が優秀だと、私達も生き残りやすくなる。戦闘部隊は、君を歓迎するよ。今後ともよろしく」
そういって差し出されたのは、ギュールの、アタッシュケースを持たぬ方の手。
正直、銃手の利き手を預けられるなんて、意味ありげでとても怖いのだけれども……。
だからといって歓迎の言葉と共に差し出されたそれを無視する事は当然ながらできず、僕はその手をしっかりと握った。
今更だけれど、これで僕も、誰にも言い訳のしようがないくらいに、しっかりとギャングの一員になったのだ。