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窓を突き破って飛び込めば、そこは無人の部屋だった。
まぁ、恐らくそうだろうと思って、発煙弾が撃ち込まれて戦闘音が聞こえる場所とは敢えて真逆の部屋に飛び込んだので、その事自体に驚きはない。
運が良ければ敵のハッカー辺りと出くわすかとも思ってたけれど、そこまで上手くはいかないようだ。
チームメンバーと同じではなく、違う部屋への突入を行ったのは、共に戦おうとしても、僕の存在が彼らの連携を乱してしまう可能性があるから。
頭に電脳を入れている彼らは、煙で視界が利き辛くとも、互いの位置を把握できる。
けれども僕はその把握の輪に入れず、自分の目や耳でチームメンバーの位置を把握しなければならない。
いや、僕だけなら良いんだけれど、チームメンバー達も僕を位置把握をする手間が増えるから、彼らの連携の精度が落ちてしまう。
故に、僕は敢えてチームメンバーとは離れた場所から突入し、脇目も振らずに自分の担当である超能力者を目指す。
窓を突き破った音で突入は既に察知されているから、次の部屋へと飛び込めば、僕の間近で銃弾が壁にぶつかる音がする。
だが、僕がそれに怯む事はない。
自己強化能力者である僕は、自分の皮膚、筋肉の硬度を大幅に上げる事ができるから、和義や喜平治が纏う装甲には及ばずとも、小口径の銃弾程度なら体内への侵入を許さない。
幾らか口径の大きな銃でも、目や口の中といった、防御の薄い部分に当たらなければ、一発や二発は喰らっても、恐らく死にはしないだろう。
もちろん体内に侵入を許さずとも、一発や二発じゃ死なずとも、銃弾を身体に受ければそれなりに痛いが……、残念ながら僕には痛みに怯んでる暇も余裕もないから。
僕はこちらを狙う銃口を無視して、一直線に超能力者、他と違って唯一人、完全に生身の少女に向かって、僕は一気に駆け寄った。
銃声は鳴るが、僕の身体に痛みは走らない。
放たれたのは僕を狙う銃弾ではなく、別方面から攻め寄せているチームメンバーの援護射撃だ。
援護をしてくれてるのがギュールなのか、それとも別のメンバーなのかは、確認している暇はないけれど、正確無比な射撃によって、ミーアキャットの銃手は僕を狙う余裕を失う。
最も手強いという話だったブレード使いの機械兵は、あちら側の最前線に立っているから、こちらに戻ってくる事はない。
ハッカーの男は床に伏せながら必死に端末に指を走らせていて、リーダーと思わしき男もあちら側との銃撃戦に必死で、こちらを向いてはいなかった。
故に、今、この瞬間、僕と超能力者の少女は一対一で向かい合う。
強い力が身体を押さえ付け、僕の足が止められる。
ギリギリと身を締め付けるこの力が、目の前の少女の超能力である、念動力か。
何しろ企業の輸送車両を捕まえる程の力なのだから、人の動きを止め、または握り潰してしまう事すら、彼女にとっては容易いのだろう。
まぁ、容易いからといって実際にできるかどうかは、また別の話にはなるんだけれども。
ただ、うん、これなら別に、問題はない。
仮に僕が機械化兵なら、この念動力に抗う事は難しかった。
しかし僕は自己強化能力者で、つまりは超能力者の端くれだ。
力の質、或いは希少さでいえば、僕と彼女の間には圧倒的な差がある。
自分の身体にしか作用しない自己強化能力と、広い範囲に影響を及ぼせる念動力、どちらが優れているかなんて明白だった。
けれども、そう、ただ出力だけを比べるならば、僕も決して捨てたものではない。
彼女のように遠くの誰かを押さえ付けたりはできないが、僕は押さえ付けられた身体を、それ以上の力で動かす事はできるから。
いや、実際に僕の肉体にそれだけの力を宿せるかは、実のところあまり問題じゃない。
物理的な力だけで言えば、僕のそれは和義や喜平治と、膂力を強化された機械化兵と然して変わらぬ程度だろう。
だが自分の中で相手の能力に抗えるとの確信さえ持っていれば、超能力者同士の力比べは、物理的なそれではなくて、能力の出力比べに移行するのだ。
ミシミシと体が軋んでいる気はするけれど、僕は念動力に体を押さえられつつも、一歩、足を前に運ぶ。
こちらを睨みつける少女の表情が、驚きの色に染まる。
紅夜叉会に身を寄せ、色々と学んだ半年で、僕はこの力、自己強化能力に関しても詳しく知った。
自己強化能力は、超能力の中でも最も価値が低いとされる力だ。
何故なら、超能力は特別な力だが、自己強化能力と同様の事は、サイバーウェアで可能だから。
そしてサイバーウェアが無制限に人体を強化できないのと同様に、自己強化能力も、多くの場合は引き上げる肉体性能が限られている。
例えば、反射神経のみが強化できたり、筋力だけが強化できたり。
いや、酷い場合には、握力のみにしか自分の力を発揮できない自己強化能力者もいるという。
だけど僕は、この自己強化能力に関しては、特別だ。
和義が多くのサイバーウェアを身体に仕込んで、優れた力を発揮できるように、僕も自分の身体に関しては、思い付く限りの強化ができた。
もしかすると、あの時、和義が最後まで戦いに付き合ってくれたのは、その点に関して、僕に自分との共通点を見出し、親近感を抱いたからじゃないだろうかと、口には出さないけれど思ってる。
更に一歩、足を前に進めれば、少女の表情は驚きから恐怖に。
念動力なんて特別な力の持ち主なのに、なんて脆いのか。
いや、或いはだからこそ、自分の特別な力に拮抗されると、相手がそれを上回ってくると、動揺し、恐怖をしてしまうのかもしれない。
僕は先程よりも軽々と、また一歩距離を詰める。
必死の抵抗にも慣れてきた。
そして間近に迫れば、手を伸ばす。
触れてしまえば、無力化も容易い。
僕と彼女の力比べは、それで終わりだ。
また全体の戦いも、決着は間もなくだろう。
その結果は、僕が超能力者の少女を捕獲するのを、誰も食い止めに来ない時点で、今更語るまでもなかった。