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僕らの戦いは、既に始まっていた三王マテリアルの輸送隊と九竜会の戦いに、横から介入する形で始まった。
いや、それはちょっと正確じゃないか。
より正しく言うならば、既に三王マテリアルの輸送隊を襲っていた九竜会を、後ろから殴り付けたのだ。
三王マテリアルの輸送隊は、三台のトラックを五台の装甲車が守っていたが、九竜会側は五台の装甲車に加えて三台の戦車で襲ってる。
流石にこれだけの戦力、しかも戦車の襲撃は、三王マテリアルも想定していなかったのだろう。
そのまま戦いが続いたならば、勝敗は火を見るよりも明らかだった。
しかしその戦車の一台が、複数の戦車砲弾を受けて黒煙を吐く。
放ったのは、紅夜叉会が保有する戦車が三台。
これは紅夜叉会が動かせる戦車の最大数だ。
というのも、戦車は他にも保有しているが、専門の訓練を受けて高いレベルで戦車を運用できる乗員が、三台分しかいないから。
他に装甲車も四台動いてる。
「こちらは紅夜叉会所属の戦闘部隊。ミュータント駆除の最中だったが、所属不明の賊が御社の輸送隊を襲っているのを発見した。これより救援に入る」
堂々と嘘を吐くのは、今回のチームを率いる木崎・和義。
どの辺が嘘かといえば、襲っている相手が所属不明じゃなくて九竜会ってところと、襲われる前から輸送隊と九竜会の動きは把握してたってところだ。
九竜会の名前を隠す理由は、三王マテリアルに救援の恩を売る為。
紅夜叉会と九竜会が敵対関係にあるのは有名なので、こちらから九竜会の名を出せば、紅夜叉会と九竜会の抗争に三王マテリアルを巻き込んだのだと誤解されかねない。
だからこちらからは九竜会の名前を出さずに三王マテリアルを助け、その相手が偶然にも九竜会だったとするのが望ましかった。
そうすれば、三王マテリアルには恩を着せ、九竜会にはダメージを与え、ついでに三王マテリアルが九竜会に恨みを抱くと、最高の形に持って行ける。
実際にはそう上手くはいかないだろうが、そういう体にするというのが重要なのだろう。
今回、和義が率いるチームは三台の戦車の外、装甲車が四台と、それを動かす乗員を除いて、二十四名。
その中には今回のチームでは副リーダーとなるギュールも含まれていた。
戦力的には、九竜会よりもやや劣るが、そこは強襲分と、三王マテリアルとの挟撃で補える。
しかし紅夜叉会の本当の狙いは、八之竜の側近である瞬間移動能力者だ。
本格的に不利となれば、瞬間移動能力者は自分だけでも逃げる筈。
もちろん対策はあるんだけれど……、それに上手く嵌るかどうかは、やってみなきゃわからない。
いずれにしても僕は、僕の役割を果たすだけ。
戦車、装甲車、機械兵がそれぞれに撃ち合いを始める中、僕も自分の役割を果たす為に動き出す。
身に纏った砂色の外套は、荒野に溶け込んで少しでも見つかり難くする為。
機械兵の連携に加われない僕は、今回も一人で別行動だ。
隊を離れて、隠れ潜んでた僕は、挟撃を受けてる九竜会の部隊に横から近付く。
流れ弾が頭の上を掠めて飛んでいく。
正直、めちゃくちゃ怖い。
これ程までに規模の大きな戦いは、僕にとっても初めての経験で、戦車砲の音が鳴る度に思わず身が竦みそうになる。
前にヤマガサ重工で乗った大型強化外骨格、双面でも借りられたら、僕も部隊側に加わって行動できたのになぁと、少し思ってしまう。
尤も今回狙う瞬間移動能力者の首は、部隊同士の戦いで順当に勝利しても取れない。
何故なら瞬間移動の能力を使えば、何時でも戦場から離脱できてしまうから。
要するにここで瞬間移動能力者を逃せば、八之竜も同様に追い詰められなくなる。
当然ながら、瞬間移動能力者といっても、無限にどこにでも移動できる訳じゃない筈。
移動できる距離、運べる重さや人数、能力の再使用に掛かる時間には、必ず何らかの制限が存在する。
紅・渡のように機械の目を通しても能力を使えるなんて事になると、流石にどうしようもないが、あんなのは例外中の例外だ。
都市の外では、障害物の多い街中と違って戦場となる範囲が広い。
だから余程に出力の高い瞬間移動能力者でなければ、一度の能力使用では戦場からの離脱は難しいだろう。
特に戦車は、その砲の射程も長いから。
故に瞬間移動能力者は、装甲車の中から脱出の隙を伺っている筈だった。
……そうなると、どうして八之竜は、都市の外に瞬間移動能力者を出したのかが不思議になる。
自分の部下の能力が、都市の外では不利だという事は知っていて当然なのに。
三王マテリアルの輸送隊が運ぶ荷が、それ程に、瞬間移動能力者を使って運ぼうと思うくらいに、確実に手に入れたい代物なのか。
今回の九竜会の襲撃には、瞬間移動能力者の外に、二人の超能力者が同行しているらしい。
一人はエレクトロキネシス、電気を発生させて操る超能力の使い手。
何でもその電気の使い手は、遠距離から電脳やサイバーウェアに干渉して破壊できるそうで、機械兵殺しって異名で呼ばれているという。
可能であれば、瞬間移動能力者のついでに始末しておきたい危険な超能力者である。
もう一人は、白狼と呼ばれる自己強化能力者で、武術の達人。
つまりは、そう、僕が動きを真似て学んだ、あの老人だった。
電気の使い手は、この際どうでもいい。
機械兵にとっては脅威のその能力も、僕を止める事はできないだろうし。
可能なら始末はしておきたいが、それは余裕があればの話だ。
今回、僕が役割を果たすのに、最も大きな障害となるのは、やはりあの老人、白狼だろう。
以前、僕が白狼のギュールの始末を邪魔したように、彼もまた、僕が瞬間移動能力者を始末する事を、邪魔しに来るとの確信がある。