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 十市は色々と情報を吐き出してくれたが、残念ながら長く話をしていたいタイプではないので、それとなく急かして強化外骨格、双面のテストを始めて貰う事にした。

 双面は複座、つまり二人乗り込める機体で、操縦自体はメインのパイロットに任せ、僕は自己強化能力の使用に専念すればいいという。


 タラップを使って胸部のコクピットに乗り込むと、超能力者用の席には幾本もの管、または線の繋がれたヘルメットが置かれてる。

 席に座ってベルトを締め、そのヘルメットを頭に被ると、その内側はモニターになっていて、外は全く見えない。

 そしてそのモニターに光が灯ると、機械の音声が耳元で語り掛けてきて、初期設定が始まった。

 視線をカーソルに合わせてください。右を向いてください。左を向いてください。能力使用時の脳波を測定しますので、自分の肉体を強化してください。

 ……と、いった風に。


 これまで、僕はこれ程に高度な機械に触れた経験が一度もないから、興味深く、面白いと思うと同時に、少しの怖さも感じてしまう。

 初期設定が終了すると、被ったヘルメットのモニターが、外の様子を映し出す。

 見える光景から判断すると、機体の頭部にあるカメラと、このヘルメットはリンクしているんだろう。


「さて、乗り心地はいかがかな? 今から暫くの間は、この双面を君のもう一つの身体だと考えて欲しい」

 耳元に聞こえてきたのは、外からこのテストを見守っている十市の声。

 ……もう一つの身体か。

 なんとも、難しい事を言ってくれる。

 ヘルメットのモニターを機体の頭部のカメラにリンクさせてるのは、そう思い易くする為だろうか?

 大きく、硬く、強い、金属の身体。

 もしかするとこれを喜ぶ人間は大勢いるのかもしれないけれど……、僕は別に弱くてもいいから、自分の意思で動かせる身体の方が良い。


 どんなに優れた身体でも、動かすパイロットが別にいる以上、これを僕の身体だと思うのは難しかった。

 尤も、絶対にそう思い込まなきゃダメって訳じゃなくて、多分、自己強化能力を使う上での、心構えの話だ。

 僕が能力を使う上で最も適しているのは、僕自身の肉体である。

 自己強化能力者である以上、これまでは他に力が及ぶなんて事はなかったから当たり前の話なんだけれど。

 だからこそ十市は、その心算で双面に能力を使ってくれと、そう言っているんだろう。


「今回のテストでは機体に実際に銃弾を受けて貰うよ。本当はもっとゆっくりと試したいんだけれど、君を借りられる時間が限られているからね。もちろん、コクピットのある胸部は狙わないから、安心してくれていい」

 実際に撃たれると聞いて安心できる筈もないけれど、まぁ、コクピットを狙わないというのは恐らく本当だ。

 何故なら仮に受け損ねた時に、僕より先に死ぬのは前の席に座ってるパイロットだから。

 とはいえ完全に信用できる程に僕は十市の為人を観察してはいないので、警戒は怠らない。


 パイロットに動かされた機体が試験場へと移動する。

 試験場は真っ白な壁に覆われていて、二階の一部がガラス張りになっていた。

 まぁガラス張りと言っても、分厚い硬化ガラスだろうから、この機体の力でもそれをぶち破る事はできない筈だ。

 ……いや、僕の強化能力で、機体の力を強化できたら、もしかするともしかするだろうか?

 もちろん僕に、企業の人間を殺さなきゃいけない理由は今のところはないから、そんな蛮行には及ばないけれど。


 そんな事を考えていると、壁の一部がスライドして、中から固定された重ガトリング砲が姿を現す。

 あぁ、確かあれは、機械化兵の中でも主に膂力を強化して、重装甲を身に纏ったタイプのみが扱える強力な火器だった。

 生身で受けたら、僕が全力で強化して身を守っても一瞬で挽肉にされてしまう程の威力がある。

 遮蔽物も破壊するし、ばら撒く弾数も多いから、これを装備した機械化兵を正面からどうにかする事は、僕にはまず不可能だ。

 昔、強化外骨格を駆逐したのも、こうした火器だったと聞く。


 尤もこの手の火器を装備可能な機械化兵は足が遅いから、僕なら逃げるくらいは難しくない。

 そして逃げてしまえば、重装甲の機械化兵を処理できる仲間を頼れる。

 例えば重ガトリング砲の射程外から硬い装甲を貫ける強力なライフルを使う狙撃手がいれば、足が遅くて目立つ重装甲の機械化兵は単なる的と化す。

 戦いは、強さは当然ながら大切だけれど、相性も重要だと、僕は戦闘部隊で学んだ。


「じゃあ、テスト開始だ。シュウ君、君の力で双面の装甲を強化してみてくれ」

 耳元で聞こえる十市の言葉に、僕は思わず笑いそうになる。

 ぶっつけ本番か。

 それで一体何がわかるというのだろうか。

 十市が何を考え、この実験に何の意味があるのか、僕には全くわからない。

 しかしその指示に従う事が、今日の僕の任務だから。

 僕は自分の強化能力を機体に、双面に対して流し込む。


 能力を使った感触は、気持ち悪かった。

 他人の身体に力を流し込む時、例えば先日の任務で孤児院の子供達もそうだったけれど、大なり小なり抵抗がある。

 多分、僕とは相性が良かったのであろうタツキに力を流した時だって、少しは抵抗があったのだ。

 けれども双面は、それが機械だからだろうか、それとも自己強化能力に適応するように作られたからだろうか、全く抵抗感なく力が流れて行き、それどころか僕から更に引き出そうとするかのような、力の通り易さ。


 それは、うん、悪い事じゃないんだろうとはわかるんだけれど、何だか妙な不安感がある。

 地に足を突いた時、真っ直ぐに立てるのは大地に摩擦という抵抗があるからだ。

 摩擦の少ない氷の大地では、真っ直ぐ立つにも不安になってしまう。


 だが、あぁ、そうか。

 この機体、双面は人間の身体よりもずっと大きいから、力を端まで通そうとすると、ここまで通り易くしないと届かないのか。

 というか、双面の全身に力を届かせるのは、僕でも結構大変だ。

 僕の出力で大変に感じるとなると、殆どの自己強化能力者では、双面の全身に力を通す事は不可能だろう。


「おぉ、素晴らしい! 双面のESP強化装甲が想定値よりも更に効果をしている。さぁ、では、実際の強度を試そう。撃つよ、撃つよ、撃つよ!!!」

 大興奮の十市の声が実に耳障りだけれど、僕はそれどころじゃない。

 パイロットが双面を動かして、腕で胸部のコクピットを庇うと同時に、回転を始めた重ガトリング砲が無数の弾丸を吐き出し始めた。

 その弾丸が命中するのは、双面の腰から下。

 並の強化外骨格なら下半身が穴だらけになる銃撃に、けれども双面は装甲に傷跡一つ残さずに耐える。


 あぁ、いや、実際にそれを目で見て確認した訳じゃないんだけれど、双面の全身に力を流している僕には、その様が詳細に感じられた。

 でもその感覚も、情報量が多くて気持ち悪い。

 自分の身体だと、当たり前に判断している情報も、機械のそれになり、規模が大きくなると、こんなにも大変になるのか。


 ただ一つ、わかった事がある。

 ヤマガサ重工はかなり本格的に、超能力を研究しているのだろう。

 ESP強化装甲とかいうこれは、理屈はわからないけれど相当な代物だ。

 これでナイフとか人間サイズの防具が作れたら、僕の戦闘力もかなりの向上が見込める筈。

 今日はできる限り十市に協力的に振舞って、さりげなくそれ等の品が欲しいと言ってみようか。


 ……恐らく以前に、ミーアキャットというランナーのチームがヤマガサ重工の輸送車を襲って奪い、僕を含む紅夜叉会の戦闘部隊が取り戻したのも、そうした超能力に関係する品だったんだと思う。

 特にあんな風に情報を制限していた事を考えると……、紅・渡の、発火能力を増強する何かだったんじゃないだろうか。


「凄い! 凄いよ! じゃあ、次、次にいこう。次はね、何と戦車砲だ。でもこれは本当に危ないからね。念の為に上半身は、手持ちの装甲板、盾で庇って貰って、下半身に当てようと思う。いいかな? いいよね!」

 大興奮の十市はもう止まりそうにない。

 それから僕は数時間、双面の装甲を強化したり、重い荷物を運ぶ双面の膂力を強化したりと、色んな実験に付き合わされた。

 


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