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 戦闘部隊の任務は基本的に外には漏らせない。

 何しろ戦ったり破壊したりが殆どなので、央京シティの定めた法にはことごとく反してた。

 まぁその法も、外周部には殆ど影響は及んでいないが、それを破ってると吹聴したところでいい事は何もないだろう。


 それに時には、中心部での任務もある。

 例えば、僕が以前に受けた生産プラントへの侵入、破壊工作の任務。

 あれが表沙汰になれば、僕は桜花軍や警察に捕まるだろう。


 なので任務の話は外では基本的にしないんだけれど、戦闘部隊のメンバーとは、詳細こそ伏せるものの、終わらせた任務の話は意外としていた。

 先程の生産プラントへの侵入、破壊工作の任務を例に出すと、施設にどんな防衛設備があって、どう対処したかなんて話を。


 その目的は、情報や経験の共有だ。

 任務を受ける時、指示と一緒に情報も与えられるけれど、その時点で全ての情報が揃っている事は稀である。

 生産プラントへ侵入した時は、最も大きな障害である電脳を探知して通報するシステムに関しては教えられたが、施設内の防衛設備に関しては自分で確認して対処せよと言われてた。

 つまり、現場判断が求められるのだ。

 故に戦闘部隊のメンバーと情報を共有する事で、こうした現場判断の足しにしていた。


 ただ当然ながら、戦闘部隊のメンバーが相手だからって何でも話していい訳じゃなくて、決して口外できない事もある。

 それは以前に和義と受けた、ミュータント狩り等がそうだ。

 あの任務で知ったミュータントの話は、誰にもできない類のものだった。

 尤も、あの任務はリーダー格である和義の監督の下に僕に色々な情報が与えられたのであって、その秘密を僕が抱えるに足ると判断された訳では、あの時点ではなかっただろう。


 けれども今回は、僕単独で、一切の口外を禁じるとの指示がある任務を受ける事となった。

 任務の内容は、ヤマガサ重工の大型強化外骨格のテスト。

 そう、以前に九竜会に奪われて、僕らが奪還したアレが、ちゃんと完成したという。


 ……といっても、別に僕にあの強化外骨格と戦えとか、そういう話ではないらしい。

 一瞬、まさかと思って身構えてしまったが、流石に自己強化能力を全力で使っても、あんな巨大な質量と殴り合うのは不可能だし、搭載してる武装でも使われたらあっという間にミンチだ。

 それくらいはこの任務を出した紅・渡だってわかってる。


 何でもあの強化外骨格に備わっている機能をテストする為に、自己強化能力者が必要なんだとか。

 正直、企業のテストに能力が必要なんて言われたら、怖いにも程があった。

 数ヵ月前にこの話が来ていたら、僕はどうやって逃げようか真剣に考えていただろう。

 しかし今は、紅夜叉会が僕を使い潰すような実験は許可しないと理解をしてる。

 それはこの数ヵ月で僕が紅夜叉会に対して抱くようになった信用であり、また八之竜の予知の対策には自分が必要だろうとの自負でもあった。


 まぁ、それでも怖さが完全に消える訳じゃなかったが……。

 僕は車に乗せられて、ヤマガサ重工の研究所に向かう。


 そこで僕を待っていたのは、

「やぁやぁ、貴方がシュウさんですね。私は佐々木・十市(ささき・といち)と申します。いやいや、助かった。今回の件に関してはどこまで聞いてますか? ここで聞けと言われた? なるほどそれではご説明しましょう」

 口から先に生まれてきたのかと思うくらいに良く喋る、白衣の研究員だった。

 ずっと止まらぬ言葉の奔流には辟易とするけれど、出し惜しみを一切なく喋ってくれたお陰で、知りたかった事は凡そ知れる。


 あの強化外骨格は、十市と名乗った研究員曰く双面(ふたおもて)という名前らしいが、どうやら自己強化能力者の力を機体に及ぼせるようにと開発された試作機らしい。

 自己強化能力者の強化は、他者には影響を及ぼさないが、それは自己強化能力者が外に対して力を発揮できない訳ではなく、受け手側の肉体が強化に適応しないからだという。

 故に、強化に適応する肉体を用意すれば、自己強化能力者の強化は本人以外にも影響を及ぼす。

 そしてその強化に適応する肉体が、双面という強化外骨格なのだそうだ。


 正直、俄かには信じがたい話だった。

 理屈は確かにそうなのかもしれないが、だからって可能だとは思えない。

 いやでも、それを可能としたからこそ、僕を呼んでテストをするんだろうけれど……。


「自己強化能力者は超能力者の中でも比較的数は多いんですけどね。ただ筋力増強はともかく、皮膚の硬化を可能とする能力者は稀でして。ですがシュウさんはどちらもこなせるとお聞きしました。実に素晴らしい。是非、我が社に来ていただいて研究を手伝って欲しいですね。おっと、でもそれは駄目だって渡さんに断られたんでした。いやいや実に惜しい」

 手伝い、か。

 紅夜叉会に属していなければ、問答無用でそれを強要されて、使い潰されていたのかと思うと、少しゾッとする。


 でも確かに、強化外骨格に僕の自己強化能力が及ぶなら、それは非常に強力な兵器になるだろう。

 強化外骨格が廃れたのは、強力な火器を扱う機械化兵が現れたからだ。

 通常の強化外骨格では機械化兵の火器に装甲を抜かれ、かといって装甲を増加してそれを防げば、大型化が避けられずに戦車よりも鈍重になり、戦車砲の餌食となる。

 しかし自己強化能力を使う事で大型化せずに機械化兵の火器を弾ければ、或いは大型化をしても、戦車砲を防げる程に装甲を硬化できたなら、強化外骨格という兵器の復活も十分にあり得た。


「おや、険しい顔をされてますね。もしかして誤解なさってますか? 超能力者を使い潰すような研究は、超能力研究の方なんですよ。超能力を非能力者や機械で再現する為に、超能力そのものを研究してる方ですね。あちらは確かに限界まで超能力者を追い込んで反応を見るような実験が多いです。ですがこの研究所は、超能力利用の研究が主ですからね。超能力者と仲良くハッピーな方の研究ですよ」

 考え込んだ僕に勘違いをしたのか、十市がこの研究所は安全だとアピールするような、実に胡散臭い事を言ってるが、さて、それが本当かどうかは確かめる術がないし、その必要もない。

 紅夜叉会からの任務以外で、僕が企業の研究に付き合う筈もないからだ。

 ただ、超能力研究がより危険なのだという話は、記憶しておく事にしよう。



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― 新着の感想 ―
ハッピーな研究と言われるとなんかやばい気がしてきた。
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