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超能力者の価値を決めるのは、その能力の種類と、それから出力だ。
どんなに希少な超能力の資質があったとしても、それが発現しない程に出力が低ければ、それはないのと同じである。
まぁそれくらいに出力が低いなら、電脳を入れても壊す事はないし、それで超能力の資質が消えても、別に何も困らない。
でもこれが超能力は発現するが、実用レベルに満たない程度の出力の場合は、途端に随分と生き難くなってしまう。
何故ならそのくらいの出力でも、頭に入れた電脳を壊してしまう場合があるから。
超能力は使えるが、役に立つって程じゃないのに、生きる上でかなり便利な電脳が使えなくなるというのは、明らかに不利益の方が大きい。
電脳が入れられなければ、その制御を必要とするサイバーウェアや、高性能な電子機器も扱えないのだ。
もちろん世に生きる全ての人間が電脳やらサイバーウェアを身体に入れてる訳じゃないけれど、そういった選択肢が最初からなくなるというのは、想像以上に生きる道も狭まる。
また出力以外にも、超能力の種類や発現の仕方によっても、実用が難しい場合もあった。
例えばサイコメトリーという、物体に残る人の思念を読み取る超能力があるが、これはかなり使いどころの限られる能力だ。
発現の仕方に関しては、前にも述べた気はするが、僕と同じ自己強化能力者でも、握力しか強化できないといった風に能力が発現した場合、出力が強くても実用は難しい。
尤も発現の仕方に関しては、何らかの理由で出力が高まった場合、より幅広く能力を扱えるようになる事も少なくないそうだ。
先程の握力しか強化できない能力者を例にするなら、出力が高まれば腕力も強化できるようになるといった具合に。
僕がこれまで出会って来たのは、紅・渡や藍神・優那、サシャに、あの武術の達人である老人や、前回の任務の途中で始末した念動力の使い手も含めて、保有する能力を高度に扱える、出力の高い超能力者ばかりだった。
それは僕が戦闘部隊に属してて、高度な能力を持った人間に出会う機会が多いからなんだろうけれど、本来は、多くの超能力者は己の能力を、実用レベルでは操れない者の方が多いらしい。
今日、僕がやって来たのは、そんな実用レベルではない超能力を持った子供ばかりが集められた孤児院だ。
ここの子供達は、持って生まれた超能力の出力を少しでも上げられないか訓練したり、逆にふとした拍子に自分の超能力を使ってしまってトラブルにならないよう、制御の訓練をしたり、超能力や電脳に頼らない職業の訓練を受けたりしているという。
出資者は紅・渡で、表向きは成功した超能力者が、そうでない超能力者の子供を支援する為に作られた施設である。
あぁ、いや、表向きって言い方をすると、語弊があるか。
主な目的は慈善で間違いない。
紅・渡は同類を手助けする事で自己満足し、他の超能力者はその行いを見て彼に少しばかりの好感を抱き、孤児院の子供達や卒院者は、受けた恩に感謝する。
まぁ、普通の孤児院と大体同じだ。
しかしそれが全てかというとそうでもなくて、仮に大きく出力を伸ばして実用的に超能力を扱えるようになった子供は、紅夜叉会にスカウトされる。
また孤児院の責任者である佐原・明美という女性はサイコメトリーの超能力を扱えるが、同時に研究者で、長期的に能力の開発訓練を受けた子供達の超能力がどう変化していくかを調べてた。
企業が行うような、被験者を使い潰す類の実験とは大きく毛色は異なるが、超能力者を研究対象としている点では同じだろう。
まぁ、そういう場所だという事を踏まえた上で、今日、僕に与えられた指示は、院の子供達の訓練の手伝い。
なんでも出力の高い超能力を間近に感じる事で、子供達の超能力を刺激するという訓練をしたいそうだ。
恐らく、前回の任務で思わぬ危険を受けた僕に、今回はなるべく安全で穏やかな任務をまわそうとしてくれたんだと思う。
或いは高い出力の自己強化能力を持つ僕を孤児院に関わらせる事で、八之竜の予知の目がここに向かないようにしたいのか。
僕は戦闘部隊の中でも比較的だが紅・渡と関わる機会が多い為、そろそろわかって来たんだけれど、彼はそういった気の使い方をするタイプだった。
色々と特別なところのある孤児院だから、来るまではさぞや大きく設備の整った施設なんだろうと思っていたが、意外に以前に見た別の孤児院と、見た目は然して変わらない。
抱えてる子供の数が違うから、規模はそれなりに大きいが、外観からは大金を注ぎ込んだ施設といった印象は受けなかった。
なるほど。
きっと贔屓のし過ぎも、ここの子供達にとってはよくないと判断しての事だろう。
紅夜叉会の縄張りには、いや、ここだけじゃなくて央京シティの外周部ならどこでも、超能力者以外の孤児も沢山いる。
その中で超能力を持つ子供だけが強く贔屓をされているように周囲が思えば……、孤児院の中にいる間は守られていても、卒院してからの扱いが辛辣なものになりかねない。
最高幹部である紅・渡であっても、人の心の中に根付く反感までは摘み取れないから。
もちろん彼なら、心の中の反感だって、その人ごと全て焼き尽くすなら、容易いんだろうけれども。
僕はそんな、益体もない事を考えながら、賑やかな子供の声が聞こえてくる孤児院に足を踏み入れた。




