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「僕の能力は自己強化です。優那様とは比較の対象にすらならない程度の能力です」

 癒して貰った僕ではあるが、同類だとの優那の言葉には、首を横に振って否定する。

 優那は相手が自己強化能力者であろうと、同じ超能力者と認めてくれているみたいだが、常識的に考えて力の希少さ、有用さが段違いだ。

 どう頑張ったって、同じ超能力者として会えて嬉しいですなんて言葉は、捻り出せる筈もなかった。


「そんな事ないです。紅のおじさま以外で、こんなに強い力を持ってる超能力者はこれまでいませんでした。そんなに、寂しい事を仰らないでください」

 しかし優那は、少し怒った風に、僕に向かってそう言う。

 うぅん、強い力って、出力の事だろうか。

 僕は超能力の種類はともかく、単純な出力ならば強いという自覚はある。


 例えば、以前に戦った念動力の使い手である少女、サシャは、動く車両を簡単に止めてしまうくらいに、出力の高い超能力者だ。

 でもそんなサシャとの出力の比べ合いに、僕はあまり苦労せずに勝利していた。


 いや、そんな事はどうでもいいんだけれど、それよりも優那は、紅・渡に会った事があるのか。

 確かに優那のヒーリングなら、紅・渡だって直接会って、その力の恩恵を受けようとしてもおかしくない。

 という事は、優那は紅夜叉会の最高幹部である紅・渡の、顔やら超能力の出力といった重要な情報を数多く握っている訳で……。


 まぁ、詮索はやめよう。

 僕は好奇心を満たす為に命を懸ける趣味はない。

 紅夜叉会の最高幹部の情報なんて、僕が握ったところでいい事は何もないのだから。


「優那、そんな強引な距離の詰め方をしたら、相手は困って引いてしまうよ。でも、お前がシュウちゃんを気に入ったのなら良かった」

 すると不意に、これまで僕らのやり取りを見守っていた昭子が、ニヤリと笑って口を挟む。

 何だか、ちょっと不穏な気配がする。


「そんなに警戒せんでええよ。私がシュウちゃんに意地悪する筈ないやろ。ただ、一つお願いがあるだけなんよ」

 そりゃあ、僕だって昭子が何か意地悪をしてくるとは、流石に思っちゃいない。

 でも意地悪はせずとも、無茶ぶりをされそうな予感はあった。

 尤も、どんな無茶ぶりをされたといても、僕にそれを断る権利はないが。


 ただでさえ紅夜叉会の幹部が相手である事に加え、今回は僕の怪我の治療までしてくれている。

 ……実際に治したのは孫の優那でも、その場を提供してくれたのは間違いなく昭子だ。

 故に僕は、一体どんな無茶なお願いをされるのだろうと、内心で少し怯えながらも、黙って続きの言葉を待つ。


「シュウちゃんも察してるやろうけど、優那はあまり自由にはさせてあげられてないんや。だからな、時々でええから、この子の相手をしたって欲しいんよ。シュウちゃんと一緒なら、ある程度は出歩かせてやれるやろうから」

 そして昭子のお願いとは、やはり優那に関するものだった。

 優那に少しでも自由を与えてやりたい。

 このお願いは間違いなく、家族として、祖母として孫娘を思いやったものだろう。

 ヒーリング能力者を抱えた権力者としては、そのお願いには何のメリットもなくて、ただリスクしかないのだから。


「どうして、僕に?」

 だがわからないのは、どうして僕にそんなお願いをするのかって事だった。

 昭子の力なら、人は幾らでも動かせる。

 量ではなく質が、戦闘部隊に属せる実力者が必要なんだとしても、昭子からの要請ならばリーダー格だって呼べる筈なのだ。


 お願いなんて形で僕に頼む事に、昭子のメリットが見いだせない。

 僕に拘る理由は何だろうか?


「私はな、優那の身の安全はどうにか守ってやれる。これでも私は紅夜叉会の幹部やからな。でもな、この子の同類として、気持ちをわかってやる事はできん。家族でも、同類にはなれんのよ」

 なるほど……。

 また同類か。

 どうやらこの場で僕と優那を同類だと思ってないのは、僕だけらしい。

 確かに同じ超能力者ではあるけれど、僕と優那では圧倒的に持っているものが違う。

 力の質はもちろんだが、何よりも自分を庇護してくれる優しい家族なんて、僕には全く縁がなかった。


 あぁ、うん、何だか色々と理由を付けて考えているけれど、僕はそうか、優那を羨ましく思っているのか。

 外を自由に歩けるようになった僕が、望んでもそうできない優那が羨ましいなんて、……馬鹿馬鹿しくて情けない。


 何かを持つ者は、その代わりに何かを失う。

 優那はヒーリングという能力を持つ代わりに、好きに外を歩く自由を失った。

 庇護してくれる家族がいる代わりに、自分で自分を守り切れる力は持ってない。

 多少の護身術は、そりゃあ仕込まれているとは思うが。


 僕と優那は全く違う。

 でもそうやって違いを比べてしまう事が、或いは同類だからなのかもしれない。

 これまで、他の誰かと自分を比べようって気持ちになった覚えは殆どないし。


 改めて、僕は優那を見る。

 期待の目でこちらを見る彼女の姿は、丁寧に整えられた芸術品のようだった。

 髪に乱れはなく、化粧が施され、優那の為に誂えらえたような衣服や装飾を身に纏う。

 感想を述べるなら、とても奇麗だ。


 もしかすると髪のセットや、化粧は自分でしているのかもしれないけれど、だとしても彼女と僕とは、まるで別の生き物に思える。

 けれどもこんなに違うのに、僕とこの少女が同類なのか。

 何だか不思議過ぎて、笑いそうになるくらい面白い。


「わかりました。頻繁にとはいかないですけれど、お互いの都合が合えば、喜んで。……それから、超能力者でしたら、僕と同じ年頃の念動力を使う少女が、本拠で教育中だと思います」

 僕は昭子のお願いに頷き、……ふとある人の頼みを思い出して、念動力の使い手である、サシャの名前を口にする。

 もしも昭子が、優那の同類を求めて年近い超能力者の少女を手元に置こうとしたら、それは恐らくサシャにとって最良の道となる。

 他だと、良くて僕のように戦闘部隊に属するか、悪ければ企業の実験体だろうから。


 優那を同類と見做すなら、サシャもまた、僕にとって同類だ。

 サシャを気に掛けてやって欲しいと頼まれた件も、昭子が彼女を手元に置けば、果たせたって事になるだろうし。


「そうかぁ。シュウちゃんは優しいな。ほな、優那も喜ぶやろうし、渡ちゃんにその子を頂戴って頼んでみるわ」

 僕は昭子の言葉に頷いて、それから暫く歓待を受けてから、藍神家のプライベートエリアを後にする。

 今日、僕が得たもの、知己、コネは、抱えたリスクに見合うんだろうか?

 いずれにしても、僕にはまた一つ、強くなる理由が増えた。

 抱えたリスクも僕自身が強ければ、軽い荷物になるだろうから。




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