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21XX・僕が選び生きる道  作者: らる鳥


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 老人が去った後、暫しその場にへたり込んでいると、ギュールやチームメンバー達がやって来たので、僕は首を横に振って自分の役割が果たせなかった事を彼らに伝える。

 今の僕には、あの老人はどうしようもなかった。

 ある程度は食い下がれたが、それが限界だ。

 ただ、あの戦いで得たものは非常に大きい。

 今は老人の動きをそのまま真似てるだけだが、繰り返し修練をして身に沁みこませれば、いずれは僕の動きになる。


 真似た動きは、どうしてもあの老人の体格、身体能力に最適化された物でしかなかった。

 僕が自分の肉体のスペックを十全に発揮するには、真似た老人の動きを自分の動きにしなきゃいけない。

 それが終わった後ならば、……次は、もう少しくらいは、あの老人に勝ち目が生じる筈だ。


「いや、相手が逃げたのならそれでいい。あの攻撃を邪魔して、食い止めてくれて、本当に助かったよ。場合によっては、私も恭二と同じ事になってたところだ」

 ギュールはそう言って、労うように立ち上がった僕の肩を軽く叩く。 

 元々、僕の役割はあの老人の抑えだったから、ギュールへの攻撃を防いで、その後も引き続けた時点で、十分は仕事は果たしてる。

 それはもちろん、僕だって十分にわかってるんだけれど、上には上がいるって事を目の当たりにして、思い知らされて、実は少し悔しい。


 強くなりたいなって、やっぱり思う。

 その為の材料も手に入れたから、余計に気持ちが逸ってる。


 ただ、この場で技を練習し始める訳にもいかないから、一度目を閉じ、息を吐き、僕はその気持ちを胸の底にしまい込む。

 何しろ、まだ任務中なのだ。

 僕らの任務は、大型強化外骨格の奪還である。

 九竜会の精鋭を退けるのは、その為の障害を一つ取り除いたに過ぎない。


 ここは、もともと地上部分はホテルのような宿泊施設で、地下が闘技場や、ファイターの収容施設になっていた。

 僕らが今、戦っていたのは地上部分の廃墟だけれど、大型強化外骨格が置かれているのは地下だろう。


「喜平治達が、地下で目標を見付けたそうだ。皆、行くよ」

 ギュールの言葉に、皆が黙って歩き出す。

 僕もそうだけれど、皆の消耗も激しそうだ。


 ヤマガサ重工から、回収用の車両が既にこちらに向かっている頃だろう。

 それに積み込んでしまいさえすれば、桜花軍の検問も抜けられる。

 何せ積み荷が、正式にヤマガサ重工が開発してる大型強化外骨格なのだから、咎められる理由は何もなかった。


 尤も桜花軍も、今回の件が紅夜叉会と九竜会の争いである事は、恐らく察している筈だ。

 央京シティを、それが中心部だけとはいえ、守護する軍は伊達じゃない。

 但し彼らにとって、紅夜叉会も九竜会も守護の対象ではなく、町を荒らす厄介者である。

 厄介者同士が食い合って数を減らす分には、関わる気がないのだろう。

 故にヤマガサ重工の研究所が襲撃された事に関しては検問を張り、それ以上の混乱が中心部に起きないようにしたが、ギャングの殺し合いに関しては不干渉を貫く。


 それで十分だった。

 ギャング側とて、桜花軍に頼る心算はないのだ。

 央京シティにとっては、中心部以外の管理やら、都市外のミュータント駆除にと、ギャングにも一定の存在価値がある。

 故に、桜花軍もギャングを積極的に排除しようとはしていない。

 少なくとも、今のところは。



 地下に降りると、そこは僕が昔過ごした地下闘技場。

 あれからまだ一年と経っていないのに、すっかり荒れ果てていて、笑えてくる。

 そして闘技場の中央、僕らが戦っていたその場所に、大型強化外骨格は安置されていた。


 今、大型強化外骨格は待機状態なので正確なサイズは把握しにくいが、直立すれば恐らく六メートル以上になるだろうか。

 この手の兵器は、大戦の初期に都市部での戦闘に良く用いられたらしい。

 火力と装甲は戦車に劣るが、小回りが利き、また人間が用いる戦術を流用して運用できた為、特に占領戦等で使い勝手が良かったそうだ。

 但し、機械化兵が登場すると、強化外骨格が戦場で用いられる事は殆どなくなる。

 何故なら、機械化兵は更に小回りが利く……、というよりも、普通の歩兵と同様に動けるし、更に彼らが所持した強力な火器は、強化外骨格の装甲を貫いたから。

 つまり歩兵と戦車の間にあった強化外骨格は、機械化兵という強力な歩兵の登場により、中途半端な兵器として居場所を失ってしまったのだ。


 では、一体何故、ヤマガサ重工は今更そんな中途半端な、大型強化外骨格なんて兵器を研究し、新しく開発しようとしたのか。

 どうして九竜会は、中心部で事件を起こすリスクを冒してまで、これを手に入れようとしたのか。

 もちろんこれを欲したのが九竜会じゃなくて、ユニオンである可能性も大いにあるが、それにしたって疑問は変わらない。

 

「思ったよりも大きいな。……それも複座か」

 大型強化外骨格を見て、ギュールがぽつりと呟く。

 ……そうなのか。

 僕は外から見ただけで分析できる程に兵器に関しては詳しくないが、……確かに小回りが利くからと都市部の戦闘で用いられたにしては、些か大き過ぎるような気がしなくもない。


 大きさの分だけ装甲が厚かったり、強力な火器を搭載できたりするんだろうか?

 それにしても戦車に装甲や火力で勝るとは思えないし、大きければ強化外骨格の強みである小回りは失われる。

 複座型、パイロットが二人必要という辺りに、何か意味がありそうだけれど……。


 まぁ、ギュールでさえ詳細を知らないなら、戦闘部隊に属するとはいえ、単なる構成員に過ぎない僕があれこれと推測しても意味はないだろう。

 大型強化外骨格を見付けた以上、ヤマガサ重工の回収車両が来るのを待てば、それで今回の任務は終わりだ。

 ただ一つ願うとするなら、どうかこんな兵器と戦う羽目にはなりませんように。



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ただ一つ願うとするなら、どうかこんな兵器と戦う羽目にはなりませんように。 ああ、フラグが!
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