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 僕が戦闘部隊の仕事に就いてから二カ月ほどたったある日、僕は本拠でとある話を聞かされる。

 何でも、和義やギュールと同じく戦闘部隊のリーダー格である楠・恭二という男が率いたチームが、生産区での任務中に九竜会と交戦し、これに敗北したというのだ。

 チームメンバーの多くは生還したが、恭二と、他二名が敵に殺されたらしい。


 正直、耳を疑った。

 恭二とはあまり関わりはなかったが、和義やギュールと同格という時点で、腕が立つのはもちろん、判断能力にも優れていた事は疑う余地はない。

 重装甲を身に纏った機械兵で、和義のように万能ではないが、特に防御を得意とする優れたリーダーだと言う話は、幾度か耳にした事がある。

 そして恭二以外も、戦闘部隊は誰もが何かに秀でた精鋭だ。

 なのに、恭二を含めて三名も、敵に殺されてしまうなんて……。


 いや、もちろん戦闘部隊とて、絶対無敵じゃない事くらいは、僕だってわかってる。

 紅夜叉会にとっての戦闘部隊のような精鋭は、九竜会にだっているだろう。

 しかしそれでも、僕はリーダーを含む戦闘部隊のチームが安易に敗れる姿というのは想像できなかったから。


 だが驚いて現実から目を逸らしている暇はなかった。

 何故なら恭二のチームが失敗した任務をギュールが引き継ぐ事になって、そのチームメンバーの一人として僕を指名したからだ。

 どうやら紅夜叉会にとって、それはどうしてもこなさなきゃいけない任務だったらしい。

 生産区で交戦したと言っていたから、その任務は企業に絡むものなんだろう。

 だとすると紅夜叉会と付き合いのあるヤマガサ重工か、九竜会の後ろ盾であるユニオンのどちらか、あるいはその両方か。


 それにしても、中心部は治安のいい場所だって話だったのに、物騒な事も起きるんだなぁと、少し残念に思う。

 結局、この央京シティに、いや、今のこの世界に、絶対に安全な場所なんてどこにもないのだ。

 強くなければ生きられない。

 差し当たっては、次の任務を生き残れるくらいに。



「今回の任務は、何時もより少しハードになるだろうけれど、まぁ、私達なら問題はないさ。気楽に、とはいかないが、気負い過ぎずにやっていこう」

 ギュールは集めたチームメンバーを前に、まず最初にそう言った。

 告げられた任務の内容は、あまり気楽になれるようなものじゃなかったけれど、確かに気負い過ぎても仕方ない。


 今回の任務は、ヤマガサ重工の研究所から奪われた、開発中の大型強化外骨格『仁王』の奪還だ。

 九竜会はヤマガサ重工の研究所を襲撃して仁王を奪ったが、その際の激戦が外に漏れ、桜花軍が中心部に検問を張った。

 それ故に奪った仁王を自分達が持つ物件、以前に起きた事件で、今は廃墟となっている施設に、一旦運び込んだらしい。

 恐らく後ろ盾であるユニオンへの持ち込みを躊躇ったのは、桜花軍の目がそちらに向く事を嫌ったのだろう。

 とはいえ彼らは追い詰められた訳ではなく、検問が解除されるのをそこで待っているのか、或いは仁王をある程度の大きさに分解し、目立たぬようにしてから持ち運ぶ心算だ。


 なので今回、僕らに課せられた役割は、仁王がその廃墟となった施設から持ち出される前に、それを奪還する事である。

 その為には、仁王を奪取し、今はそれを守ってるであろう九竜会の精鋭を、排除する必要があった。

 つまり紅夜叉会はメンバーチェンジで、九竜会はそのままで、攻守を入れ替えて試合再開だ。

 尤も試合内容は、凄惨な殺し合いになるんだけれども。


 僕はその、仁王が持ち込まれた廃墟が、元は何の施設だったかを見て、懐かしさを覚えた。

 何故ならそこは、紅夜叉会の襲撃によって廃墟となった、九竜会が保有していた地下闘技場だったから。


 なるほど。

 そういえばあの地下闘技場で戦いを、殺し合いを見世物として楽しんでいた観客は、思い返してみれば身形のいい者ばかりだ。

 ギャングの縄張りに足を運びそうにはとても思えないから、地下闘技場が中心部にあったのだと知ると、何だか妙に納得できる。

 あの地下闘技場で大型の強化外骨格を安置できる場所といえば……、僕らが戦っていた、大勢のファイターの血が染み込んだあそこか。


 恭二のチームが交戦したという敵、九竜会の精鋭に関しても、判明している限りの情報が伝えられた。

 どこかに突入を支援したスナイパーがいた筈で、連携の取れた機械兵の銃手が数人と、腕をブレードに改造している重装甲の機械兵もいて、……それから恭二の重装甲を素手で打ち抜いて殺し、戦線を崩壊させた老人が一人。

 これはもしかして、僕の同類なんだろうか。

 何となく、ギュールが今回のチームメンバーに僕を選び、どういった働きを期待しているのか、わかる気がする。


「桜花軍の検問がある中、二チームも三チームも現場に送り込む事は難しい。ただ、九竜会が援軍を送る事も同じように難しいだろうし、私達の任務に合わせて別のチームが九竜会の縄張りに攻撃を仕掛ける予定だ。向こうのバックアップも限定的な物になる」

 敵の居所がわかっているなら、より多くの数を揃えて突っ込んだ方が、そりゃあ当然有利にはなるけれど、今回はそうもいかないらしい。

 桜花軍にとっては、紅夜叉会も九竜会も、中心部の治安を乱す厄介者でしかないだろう。

 向こうの足を止めた検問が、僕らの動きも制限する。


「単純な実力勝負なら、私達が勝つさ。九竜会のネズミ達に、盗みは悪い事だって教えてやろう」

 話の最後に、ギュールが冗談めかしてそう言って、チームメンバー達が笑いをこぼす。

 僕も、ギュールも、ここにいる皆も、九竜会の連中だって、単なる盗人よりもずっと悪い、人殺しのギャングなのに。

 それでも僕らはギュールの冗談に戦意を高め、現場に向かう車に乗り込む。




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