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「おい、来たぞ」
夜、人気のない河原で寝転がってた僕は、和義の言葉に身を起こす。
僕も聴覚は強化してたんだけれど、どうやら和義の感覚センサーは、僕の耳よりも性能が少し良いらしい。
多分、凄い高級品なんだろうなぁとか、どうでもいい事を考えてしまう。
やって来たミュータントは、僕らが起きて待ち構えてる事に少しの戸惑いを覚えたらしいが、けれども殺意と食欲の混じった目でこちらを見ながら、歩みを止めずに近寄ってくる。
なんと言うか、ちゃんと釣れて何よりだった。
万一、僕らが釣れなくて、他に新たな犠牲者が出ていたなら、それこそ他の子供を巻き込んででも、強引な処理を考慮する必要があったから。
ミュータントの姿は、意外な事におおよそ人間と変化はない。
ただ少しサイズが、身長が3mから4m程あって首や腕、足等が沢山身体から生えてるくらいだ。
首の一つは、犠牲者の一人である志都美のものによく似てるから、恐らく他の首や手足も、犠牲者の数や特徴に一致したものなんだろう。
……まぁ、なんで内臓を食べて首や手足を生やすのかは、僕にはいまいち理解できないが、和義が言っていた通り、化け物を理解しようという方が無理である。
「ネェ、チョウダイ」
「チョウダイ」
「チョウダイヨォ」
人と変わらぬ位置にある子供の小さな頭が喋ると、追従するように他の首が同じ言葉を違う声で発する。
けれどもあの首は、全てミュータントが生やした物だとわかっているから、一体何がしたいのかはわからないし、ただ気持ち悪いだけだ。
「ちっ、しぶといタイプの奴だな。死ぬまで削り殺すぞ」
そう言うや否や、和義がぶっ放したのは大口径の散弾銃。
強力無比なスラッグ弾が、ミュータントの身体を削って血飛沫をあげさせる。
削り殺すとの言葉通り、和義の攻撃に一切の容赦はなく、ガシャっと次弾を装填するとすぐにぶっ放し、連続で銃撃を浴びせていく。
僕も、準備をしていた火炎瓶、合成燃料を瓶に詰め、布切れを突っ込んだものに火を付けて、銃撃を浴びながらもよたよたと近寄ってくる化け物目掛けて投げ付けた。
本当は、僕が得意とするのは近接戦闘、特に拳や蹴りでの格闘戦なのだけれど……、流石にあんな化け物の間近に迫って殴り合いはしたくない。
もちろん必要とあればするけれど、離れて殺せるならばそれが一番確実だろう。
ミュータントを殺す方法で最も手っ取り早いのは、脳を破壊する事だ。
色々な姿のミュータントがいるけれど、こればかりは共通していた。
心臓の破壊で殺せる場合もあるけれど、ミュータントの中には失った臓器の機能を代替する器官を瞬時に作り出すものもいるそうで、確実な手段とはならない。
しかし脳を破壊してしまえば、代替する器官を作ろうとする意志ごと消し飛ばせるのだ。
故に人間の姿をしている時は、人間と同じく頭を吹き飛ばせばほぼ確実に殺せる。
但しこれがミュータントの姿になってしまうと、脳の位置はわからなくなってしまう。
目の前にいるミュータントも、一見脳が収まっていそうな少女の頭があるけれど、そこに脳があるとは限らない。
いや、和義は既にそこに脳はないと判断して、削り殺すと言ったのだろう。
そうなると、ミュータントを殺すのに必要なのは、第一に火力となる。
都市外では、時に戦車すら持ち出して、ミュータントの駆除が行われるそうだ。
バスバスと、強力な銃器で押し込んでく和義の真似は、僕にはできない。
大きな銃器を持てない訳じゃないんだけれど、機械化兵のようにそれを自在に扱うというのは少し難しかった。
故に本来なら僕は対ミュータントに向いた人材ではないだろう。
別に自分を卑下する心算はないが、大きな火力を出し難い僕は、ミュータントを殺し切る力に欠ける。
しかしそれでも、和義が僕を今回のミュータント狩りに誘ったのは、……あの紅夜叉会の幹部である、紅・渡の指示なんだそうだ。
和義は、僕が紅・渡に気に入られているから、経験を積ませようとしてるんだと言っていたが、そうなんだろうか?
或いは、僕は都市外でミュータントを駆除する為じゃなくて、都市内での、まだ人間の姿をしている変異初期のミュータントを狩る役割を期待されているのかもしれない。
ミュータント狩りのベテランである和義は、その姿からどうしたって目立つ。
同じく戦闘部隊のリーダー格であるギュールも、和義のようにごてごてと改造された姿はしてないが、けれども金色の髪に蒼い目という容姿は、紅夜叉会の縄張りである下町では人目を惹く。
何でも、随分と昔にこの国に駐留していた外国の軍隊の末裔って話で、当時から他の外国人と彼らでは随分と扱いが違ったそうだ。
ギュール自身の働きもあって、下町でも彼は十二分に受け入れられ、むしろ人気者ではあるのだけれど、それでも目立たぬようにミュータントを狩る事に向くかと言えば、やっぱり答えは否だった。
その点、僕の姿は二人に比べれば圧倒的に地味なので、人間の姿をしているミュータントを探し出して殺すには向いている。
尤も、殺し損ねてミュータントの姿になられてしまうと、途端に大変になってしまう。
今回は和義がいて、またミュータントに変異したのが子供だったから、このまま殺し切れるだろうけれど。
そんな事を考えながらも、和義の散弾銃に身を削られ、着火した合成燃料を被って燃え盛るミュータントに、拳銃の弾を撃ち込み続けた。
動きを止めて、完全に息絶えたと確信できるまで、何発も、何発も。
痛い、熱いと泣き叫ぶ沢山の声を無視して。