表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21XX・僕が選び生きる道  作者: らる鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/39

14


 現場を回って犠牲者を調べ、共通点がないか、共通の知人がいないかを調べた結果、わかったのはとても胸糞の悪い事実だった。

 二人目の犠牲者は、親を失った子供の面倒を見ていた、孤児院の職員。

 志都美しずみという名の彼女は、器量も良く、心根も優しく、誰からも好かれる人物だったという。

 三人目の犠牲者は、その孤児院で暮らす子供の一人。

 四人目は下町で手広く商売をする裕福な老人で、……孤児院に資金を援助して、菓子を土産に度々孤児院を訪れていた。

 あぁ、一人目の犠牲者である谷口雄吾も、孤児院に絵を寄贈したり、子供たちの似顔絵を描いてやったりしていたらしい。

 その他にも幾人かの犠牲者はいたけれど、誰もがその孤児院に関りを持っていて、回数が多い少ないの差はあれど、訪れている。


 通常の捜査でも孤児院の関与は疑われたが、それは否定されていた。

 何故なら、孤児院には志都美の他に雇われている職員はおらず、経営者も高齢の老女で、人柄的にも体力的にも、猟奇的な連続殺人を犯すなんて真似は不可能だったから。

 ……けれども、それがミュータントの仕業なのだとわかっていると、見方は変わる。

 ミュータントの姿になれるなら、人間としての体力なんて関係ない。


 ただ、僕らの見立てではやはりその経営者の老女は犯人ではなくて、……それよりも更に悲惨な事に、ミュータントの可能性が高いのは、その孤児院で暮らす子供の一人だ。

 そう、人間としての体力なんて関係ないから、幼い子供までもが、犯人になれる可能性があった。


 子供が犯人であるのなら、和義が語った谷口雄吾は多くの人から好かれていた為、それを妬まれて殺されたという推測は、恐らく間違いだろう。

 それよりもずっと単純に、絵が描けて、それも似顔絵が描けて凄いと思ったから、羨ましくて、無意識にそれを欲した可能性が高い。

 志都美は子供から見て奇麗な大人だから、犠牲者の子供は孤児院でも皆に可愛がられてたから、裕福な老人はお菓子をいっぱい持っているから、羨ましくて、食ってしまったのだ。


 相手が子供であっても、やるべき事は変わらなかった。

 変異が進んで無差別に暴れだせば、真っ先に犠牲になるのは他の孤児院の子供達だ。

 そうなる前に、殺さなきゃいけない。


 けれども大人と違って難しいのは、大きな騒ぎにせずに殺す瞬間を見つけ出す事。

 相手が大人だったら、一人になる瞬間は幾らでもある。

 また殺してしまってから、連続殺人の犯人で、捕縛に抵抗したから射殺したと言ってしまえばそれで済む。


 しかし子供と言うのは一人になる時間が大人に比べて大幅に少ない。

 周囲の大人は子供がどこにいるかを把握しようとするし、一人で遊んでもつまらぬからと、子供同士で行動するからだ。

 しかもミュータントである事を隠して連続殺人の犯人であると主張したとて、誰がそれを信じるだろうか。

 故に、その子供には行方不明という形で消えて貰う必要があるのだが、タイミングが非常に難しかった。

 他の場所に移動してから処理、つまり一旦攫おうとすれば、危険を察してミュータントとしての姿に変わってしまうかもしれないし。

 だが時間を掛けると、それこそ一緒にいる他の子供を巻き込んで処理しなきゃいけなくなりそうで、気持ちが焦る。


 そして和義が選んだ手段は……、

「仕方ない。犠牲者の出てる孤児院に慰問に行くぞ。俺は菓子の類を持って行くから、シュウは子供達と遊んでやれ。特に対象の前で石を砕くなりなんなりして、凄いところを見せて来い。俺の見た目より、お前の見た目でそれをした方が、釣れる可能性は高いからな」

 即殺を諦め、自分達を囮にする事だった。

 これならミュータントの姿になった相手と正面から対峙する羽目にはなるだろうが、相手を孤児院から引き離せる。

 正直、彼が孤児院ごと処理するとか言い出さなくて、内心で安堵したのは内緒だ。

 必要ならば、和義はそうした手段も選べる人間だと理解してるから。

 いや、きっと僕も他に手段がなければ、それを選びはするんだろうけれども……。



 孤児院への慰問は、それはもう喜ばれた。

 職員と子供の死は、彼らを暗い気持ちにさせていたのだろう。

 特に喜んだのが経営者の老女だったが、恐らくそれは、この孤児院が紅夜叉会からの支援で成り立っていて、僕らが来たって事はこの孤児院がまだ紅夜叉会に見捨てられてないと考えたからだ。

 実際には、僕らの行動と紅夜叉会の思惑は、孤児院に関しては無関係なのだが、……まぁ、それでも悪いようにはならないと思う。


 というのも、以前に話した通り、紅夜叉会は地域に密着するタイプのギャングである。

 まぁ密着を寄生と呼ぶ事もできるが、今はその是非はさておく。

 なので孤児院への支援というのは、紅夜叉会にとっては自分達の支持者、或いは将来の構成員を増やす為にしているので、安易に打ち切りはしない筈だ。

 それに孤児の多くは抗争で死んだ構成員の子供だったりもするので、それを見捨てるような真似をすれば、構成員からの忠誠心にも関わってくる。

 老女が真っ当に孤児院を経営しているならば、新しい職員を雇う必要はあるだろうが、今まで通りに紅夜叉会はそれを支援し続けるだろう。


 尤も、老女が喜ぶとかどうかは、今回の慰問には関係がない。

 必要なのは、ミュータントが釣れるかどうか。

 手応えは十分にあった。

 恐らくミュータントであろうと目する六歳の少女は、彼女の前で曲芸を披露した僕を、その後ずっと、ねっとりとしたもの欲しそうな目で見ていたから。


 あんな目は久しぶりだ。

 地下闘技場で、自分が一度の戦いで消費されると悟った子供が、同じ境遇でも生き残り続ける僕を見た目に、そっくりな目をしていた。


 だからきっと、今晩、どうやってかは知らないが、あの少女は、僕の寝床を突き止めて、喰らう為にやってくる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ