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 央京シティは、警察や桜花軍の管轄である中心部は安全だが、周辺部の治安はお世辞にも良いとは言い難い。

 その治安の悪さを代表する物の一つが、頻発するギャング同士の抗争だ。

 特に今は、対立関係にあった紅夜叉会と九竜会の抗争が激化しており、お互いの縄張り、支配地の境界では、日に数度は銃声が聞こえるという、緊張の絶えない状態だった。


 九竜会は、大戦やその後のミュータント発生で、自分の国や、そこに帰る手段を失った外国人の末裔である。

 かつては社会問題となった程の数の移民であっても、この国の全体から見れば、やはりマイノリティに過ぎない。

 大戦やミュータント発生で他国、彼らにとっては祖国との繋がり、後ろ盾を失った彼らは、生き残る為にあらゆる手段を取った。

 元の国籍を問わずに集まって、暴力を厭わずに自分達の権利を主張して。

 そうした動きが過激化していき、九竜会というギャングが誕生したのだ。


 この動きは人だけではなく企業にも起き、本社との繋がりを絶たれた海外企業の支社や、外資系の企業が集まって、ユニオンという名の一つの大きな企業を形成した。

 彼らは総力を結集し、早期に合成燃料と食料の生産プラントを築く事で、ライフラインに食い込み自分達に存在価値を生み出す。

 当然ながら他の企業も合成燃料や食料の生産プラントは作ったのだが、そこがギャングに襲われて破壊されるという事件が相次ぎ、ユニオンに対して一歩遅れを取る事となる。

 もちろん、ユニオンからの指示を受けた九竜会の仕業だ。

 それ以降もユニオンは九竜会を暴力装置として使い、九竜会はユニオンを後ろ盾として、央京シティだけでなく他の都市にも大きな勢力を築き上げたという。


 つまり成り立ちからして、自警団とヤクザの結びつきで生まれた紅夜叉会とは、非常に相性が悪い。

 紅夜叉会も所詮はギャングなので、後ろ暗い事はしているだろうし、碌でもない存在ではあるんだけれども。

 まぁ、九竜会の地下闘技場で戦わされていた頃と、紅夜叉会に所属してる今じゃ全く待遇が違うので、どちらがマシなギャングかと言えば、そりゃあ紅夜叉会だと僕は思ってる。


 故に、九竜会が縄張りに攻め込んできたとの報告、より正確には防衛にあたっている構成員からの救援要請を受けた僕は、現場に駆け付け、構えた拳銃の引き金を引く。

 僕が紅夜叉会から支給されているのは、45口径のダブルアクションリボルバー、回転式拳銃だ。

 機構が単純で手入れがし易く、またパーツが頑丈にできている為、僕でも壊し難いというのが、この銃が支給されてる理由らしい。

 確かに、僕が全力で戦う時はついつい力が入り過ぎてしまうから、武器を使うならばなるべく頑丈な物の方がありがたかった。


 ただ、この回転式拳銃にも欠点はあって、その一つが装弾数の少なさである。

 何しろ、たった六発しか弾が入らないのだ。

 これではどうしたって銃撃戦になった時には、手数で負けてしまう。


 銃の撃ち方を教えてくれたギュールに言わせれば、それは使い方が悪いからって事らしいけれど、どうにも銃を上手く使うのって、難しい。

 僕にはどうしても、そう、近付いて殴ってしまった方が、手っ取り早く感じるから。


 一発撃ってみたところ、数発が撃ち返されてきたので、僕は建物の影に身を隠す。

 どうやら今日の襲撃は、普段よりも気合が入っている様子。

 僕のところだけじゃなく、応戦してる紅夜叉会の構成員達も、圧されているのが音や気配からわかった。


 もちろん、ここは紅夜叉会の縄張りだから、もっと多くの構成員とか、或いは戦闘部隊の誰かが駆け付けて、最終的には勝てるだろう。

 ただそれまでにこちら側に怪我人、いや、死人が出てしまう可能性が高いし、……何より、僕が救援に駆け付けたって言うのに、碌に役に立てないまま他の救援を待つというのも、少し癪だ。

 なので、まぁ、こちらも気合を入れて戦ってみようか。


 僕は顔を出して一発撃つと、撃ち返される前に即座に身を隠して、襲撃者達に自分の位置をアピールした。

 この拳銃は弾数は少ないが、一発の威力はそこそこだから、これでも十分に敵に対しての圧は掛かる筈。

 その上で、僕は地を蹴って跳び、壁を駆けて、物音小さく、隠れていた建物の屋上へと昇る。


 高所から見下ろせば、向こうで銃を構える襲撃者の人数は三人。

 まだ、僕が屋上に移動した事には気づいていない。

 ここから撃てば、一人くらいは仕留められるか。

 でも残る二人が身を隠せば、またダラダラとした銃撃戦の再開だ。

 それはあまり面白くないから……、僕はタタっと屋上を駆けて縁を蹴り、中空に身を躍らせる。


 大きく跳んで、そして銃を放つは連中の頭上から。

 空中で三度引き金を引いたが、一人は外してしまったので、連中の背後に着地して、振り向きざまにもう一発。

 ギュールだったら、誰一人外す事なく、一発で一殺も可能なんだろうけれど、僕にそんな腕はない。

 故に敵に命中した弾も、殺し切るには至っていなかった。


 けれども、重装甲を纏った機械兵ならともかく、そこまでの改造を受けていない普通のギャングは弾を食らえば、それが致命傷でなくとも幾らかは怯む。

 近距離で、僕を相手に怯んで隙を晒せば、もう体勢を立て直す暇は与えない。

 銃弾よりも確実に、僕の拳打と蹴打は一人一発で、敵対者を地に沈める。


 一カ所、敵を潰してしまって僕が自由に動くようになれば、それで全体の戦況はひっくり返り、半数を失った九竜会のギャング達が逃げ出したのは、それから間もなくの事だった。



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