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21XX・僕が選び生きる道  作者: らる鳥


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 初仕事から一週間後、紅夜叉会が所有するビル、拠点の一つに呼び出され、そこで次の仕事の説明を受ける。

 次の仕事は、前回捕まえたミーアキャットのリーダーを、ヤマガサ重工の本社ビルまで護送し、引き渡す事。


 どうやらミーアキャットのリーダーは、自分が企業時代に知り得た情報や、輸送車両を襲った仕事の依頼人の詳細を売って、ヤマガサ重工に己の保護を頼んだらしい。

 その保護の対象にあの超能力者の少女が入ってないのは……、まぁ、そういう事なんだろうか。

 或いは、紅夜叉会が超能力者の身柄を手放さなかっただけかもしれないが。


 あぁ、いずれにしても、あの少女はミーアキャットのリーダーに見捨てられたという事になり、紅夜叉会は彼女を懐柔して、構成員の一人にする心算だろう。

 強い念動力なんて有用な力の持ち主だ。

 使い道は幾らでもある。


 正直、あの少女を捕まえた僕がこんな事を考えるのも変な話だが、折角あんないい能力を持ってるんだから、意地を張らずに良い道を選べれる事を、少しだけ嫉妬交じりに願ってる。

 変に意地を張り続ければ企業に売られ、研究所で実験動物のように扱われて生きる未来だって、十分にあり得るのだから。


 仕事内容の説明が終われば、今回のチームメンバーと共に、護送対象のミーアキャットのリーダーの、もとい元リーダーを連れて黒塗りの高級車に乗り込む。

 今回のチームメンバーは喜平治と、八草という名の女。

 八草は荒事にも対応できる運転のプロフェッショナルで、バイクや車だけでなく、戦車や船舶まで動かせるらしい。

 紅夜叉会の戦闘部隊にはこうした運転のプロフェッショナルも三人程いて、僕の初仕事の時も、現場まで車両を動かしてチームを運んでくれた。


 ちなみに今回は和義やギュールのような、リーダー格は不在だ。

 つまりは、彼らを動かすまでもないような仕事なんだろう。


 実際、今回の護送対象が誰かに狙われる事は考えにくい。

 元リーダーの救出を考えるかもしれないミーアキャットは、超能力者の少女を除いて全滅だ。

 そしてその少女も、今は紅夜叉会が身柄を確保してる。


 救出でなく暗殺となると、彼に情報を売られる昔所属していた企業か、或いは輸送車両を襲った仕事の依頼人か。

 ただ企業の方は、今更手を出すくらいなら、ミーアキャットとして活動していた頃に殺そうとしていただろう。

 当たり前の話だけれど、たかが一介のランナーグループであるミーアキャットと、多くの構成員を抱える紅夜叉会では、敵対するリスクは圧倒的に後者が高い。


 故に可能性があるとすれば、ミーアキャットに輸送車両を襲うように依頼した誰かって事になるんだけれど、……そちら側からのアクションがあるなら好都合だ。

 所詮は雇われのランナーでしかないミーアキャットの元リーダーよりも、新たな襲撃者の方が依頼主に近い手駒かもしれない。

 僕らには、いざとなれば護送対象を見捨ててでも、新たな襲撃者に対応、捕獲する事を選択するように指示が出ていた。

 何故なら既に、紅夜叉会はミーアキャットの元リーダーに対して、尋問を行って情報を引き出した後だから。


 つまり、紅夜叉会はヤマガサ重工に護送対象を引き渡し、恩を売る事よりも、ミーアキャットに輸送車両の襲撃を依頼した黒幕を追いたがっている。

 その理由は僕には知らされていないし、推し量るにも情報が足りなさすぎるけれど、恐らく輸送車両が運んでいた品、ギュールがいつの間にか回収していたあのアタッシュケースに、きっと関係があるのだろう。

 正直、色々と気になる事は多い。

 まさか企業が輸送車両を使って運ぶ荷が、あんなアタッシュケース一つの筈がないから、残りの荷は一体どこへ行ったんだろうとか。

 けれども今の僕には、与えられた以上の情報を、こちらから求める権利はなかった。



 車には、運転席には当然ながら八草が、広い後部の向かい合った席には、まず喜平治が護送対象の隣に座って、僕はその向かい側に。

 防弾仕様の車を八草が運転している時点でほぼ危険はないだろうが、万一の際には喜平治が護送対象を身を挺して守れる配置だ。

 僕は、視覚と聴覚を強化して周囲を見張る為に一人で座り、左右の窓から外に目を配る。


 幾ら大きいとは言っても央京シティも一つの都市だ。

 紅夜叉会の縄張りである下町から、ヤマガサ重工の本社がある企業地区までは、真っ直ぐな道を一直線という訳ではないが、それでも二時間は掛からない。


 警戒はしているが不審な何かが近付いてくる事もなく、車は央京シティの中心部へと入った。

 ここから先は、警察や桜花軍の管轄だから、襲撃を受ける可能性はさらに下がる。

 尤もその分、僕らも自由には暴れ辛くなってしまうが。


 ふとその時、

「なぁ、君、サシャは元気にしているか?」

 ずっと黙っていた護送対象、ミーアキャットの元リーダーが、僕に向かってそう問うた。

 サシャというのは……、あぁ、確か、あの念動力を使う超能力者の少女の名前だ。

 確か、紗々って字を書くのだっけ。

 現状を尋ねてくる事から察するに、どうやら元リーダーは自分の意思で彼女を見捨てた訳じゃなく、紅夜叉会がその身柄を手放そうとしなかったのだろう。


「いえ、僕はあの日以来、彼女に会ってはいないのでわかりません」

 ……僕は、少しだけ悩んでから、そう答えて首を横に振る。

 仕事の内容に護送対象との会話はなかったが、けれども会話をしてはいけないという注意もなかったから。

 何故、元リーダーが他の誰かじゃなく、僕にそれを問うのかが気になって、少しだけ彼と会話をする事を選択した。


「そうか。……なぁ、君。もしも、そう、もしもサシャに関わる機会があったら、彼女を気に掛けてやってくれないか。あの子には心を許せる友が必要だ。でも私達は結局、単なる仕事仲間にしかなれなかった」

 真っ直ぐに僕を見ながら、ミーアキャットの元リーダーが言う。

 ただ、僕にはその言葉の意味が分からない。

 あぁ、いや、言ってる事はわかるんだけれど、でも、心を許せる友って何だろう?

 こんな風にサシャを案ずる元リーダーがなれなかったと言うなら、別に彼女に対して深い思い入れがある訳でもない僕が、どうしてそうなれるというのか。


「でも君は、サシャに近い力を持っているんだろう? 私はもう、彼女に会う事はないだろうから……」

 彼のその言葉には、僕はとりあえず頷く。

 元リーダーがサシャにもう会う事がないというのは、恐らく間違いなかった。

 彼はヤマガサ重工の保護下に入り、居場所は秘匿される。

 彼女の進む道は知らないが、自由になって野に放たれるなんて事はない。

 二人の道が再び交わる可能性は、皆無に近いだろう。


「関わる機会があったなら、わかりました。その頼みは覚えておきます。同類って意味なら、紅夜叉会には僕以外にも能力者がいますので」

 僕は再び少し悩んでから、ミーアキャットの元リーダーに対してそう答えた。

 同類として気に掛けるくらいなら、別に構わない。

 もちろん、サシャが紅夜叉会の構成員になるような事があったらだけれど。

 尤も、仮にそうなったとしても、サシャが自己強化能力者でしかない僕を同類と見做すかはわからないし、そもそも彼女を捕まえた僕を憎んでる可能性もある。

 関わらない方が、無難ではあるのかもしれないが……。


 何だろうか。

 僕は、彼女を案ずる元リーダーの頼みを、無下にしたくはなかった。

 こんな風に心配して貰えるサシャを、羨ましく思いながらも。


「……シュウ」

 そこで、喜平治が一言、僕の名を呼ぶ。

 もうこれ以上は喋りすぎって意味だろう。

 僕の役割は周囲の警戒だ。

 お喋りに気を捉われすぎる事じゃない。


 それから先は、もう誰も口を開かずに、車はヤマガサ重工の本社に到着し、護送対象の身柄は引き渡される。




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